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143.英雄の片鱗
しおりを挟むランスたちが守衛ゴーレムと戦闘している最中。
ギルドマスターのドロイドと国家騎士ブライアンは術式師の男と激闘を繰り広げていた。
だがそれは五分の戦いではない。
ドロイドたちの……本来ならば不利な状況になるはずの彼らの方が、戦況を有利に運ばせていたのだ。
「くそっ、どうなっている!」
男が焦りながら愚痴を吐露する。
それは冗談でも何でもなく、本心から出た言葉だった。
が、その驚きには別の理由もあった。
「……何故だ!? 何故、貴様らは魔法が使える!?」
この空間には魔法の使用を完全に無効化する結界が敷かれている。
厳密には魔力使用による動作の無効化だが、ドロイドたちは魔法を使って対峙していた。
本来ならば、この空間で魔法を使えることは出来ない。
どんなに優れた能力や高い魔力を持っていてもだ。
「理由は簡単ですよ――」
驚きを隠せない男から投げかけられる疑問にドロイドは冷静に続けた。
「これは魔法であって、魔法でないからです」
「なに……?」
「まぁ、厳密には紛い物です。もっと詳しく言えば複製とでも言いましょうか」
「コピーだと」
「ええ。私は魔法を複製し、魔力を使わずとも簡易的に魔法を放つことが出来るんですよ。ま、色々と制約はありますが」
「魔力を使わずに魔法を放つだと? まさか、そんなことが……」
ピンとしない表情を向けてくる男に、ドロイドは更に畳みかける。
「でも実際、私はこの空間でも魔法を使えています。貴方の施した結界はまだ機能しているというのに」
「くっ……!」
目の前でそれを見せられたが故に言葉が出なくなる。
ドロイドは間髪入れずに男に言葉を投げかける。
「それにしても、創造獣とは言ってもまだこの程度ですか。もう少し手応えがあると期待していたのですが……」
「な、なんだとッ!」
ドロイドのこの一言に応えたのか。
男は眉間に皺を寄せ、怒りを露わにする。
しかしそれは紛れもない真実であり、現にドロイド陣営の損傷はほぼ無傷状態だった。
予想もしなかった事態。
この屈辱的な展開に男は唇を噛みしめながら、冷静さを保ちつつも、ドロイドに食ってかかった。
「ふんっ、何を勝ち誇った気になっているんだ? その気になれば、貴様なんか一瞬で捻り潰すことが出来るんだぞ?」
「じゃあ、何故やらないのです? 創造獣も縛り付けたままではなく、解き放ってあげてはいかがですか?」
ドロイドが創造獣なるバケモノに目を向けながら言い放つと、男は口を塞いだ。
痛い所を突かれたかのような表情。
だが、ドロイドにとっては全て御見通しだった。
「出来ないのでしょう? それを完全に解き放てば、この空間そのものがどうなるかは分からない。何故なら、まだ完全に調整が出来てないから。違いますか?」
「し、知ったようなことを……」
男の少し動揺したところを見れば、一目瞭然。
このバケモノは確かにバケモノではあるが、まだその段階に至ってはなかった。
要するに、まだ不完全な状態だったのだ。
「私は以前から、帝国内で秘密裏に生体実験が行われているのを知っていたのです。それがまさか聖獣の人工的創造ということまでは知りませんでしたので、少々驚きましたが」
「……何者だ、貴様」
男の問いかけにドロイドはふぅと一息つくと、その翠眼を男に向け、一言放った。
「私はドロイド・レインボルグ。グリーズ王国ギルド本部に所属する、しがない本部長です」
「ギルドマスター……だと?」
「ええ。まぁそういうことなので、そろそろ決めさせてもらいますよ。十分情報は集まったので」
「な、なにを……」
ドロイドは男を見ながら軽く微笑むと、右腕を真上にあげ、詠唱を始めた。
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