上 下
143 / 160

143.英雄の片鱗

しおりを挟む

 ランスたちが守衛ゴーレムと戦闘している最中。
 ギルドマスターのドロイドと国家騎士ブライアンは術式師の男と激闘を繰り広げていた。

 だがそれは五分の戦いではない。
 ドロイドたちの……本来ならば不利な状況になるはずの彼らの方が、戦況を有利に運ばせていたのだ。

「くそっ、どうなっている!」

 男が焦りながら愚痴を吐露する。
 それは冗談でも何でもなく、本心から出た言葉だった。

 が、その驚きには別の理由もあった。

「……何故だ!? 何故、貴様らは魔法が使える!?」

 この空間には魔法の使用を完全に無効化する結界が敷かれている。
 厳密には魔力使用による動作の無効化だが、ドロイドたちは魔法を使って対峙していた。

 本来ならば、この空間で魔法を使えることは出来ない。

 どんなに優れた能力や高い魔力を持っていてもだ。

「理由は簡単ですよ――」

 驚きを隠せない男から投げかけられる疑問にドロイドは冷静に続けた。

「これは魔法であって、魔法でないからです」

「なに……?」

「まぁ、厳密には紛い物です。もっと詳しく言えば複製コピーとでも言いましょうか」

「コピーだと」

「ええ。私は魔法を複製し、魔力を使わずとも簡易的に魔法を放つことが出来るんですよ。ま、色々と制約はありますが」

「魔力を使わずに魔法を放つだと? まさか、そんなことが……」

 ピンとしない表情を向けてくる男に、ドロイドは更に畳みかける。

「でも実際、私はこの空間でも魔法を使えています。貴方の施した結界はまだ機能しているというのに」

「くっ……!」

 目の前でそれを見せられたが故に言葉が出なくなる。
 ドロイドは間髪入れずに男に言葉を投げかける。

「それにしても、創造獣とは言ってもまだこの程度ですか。もう少し手応えがあると期待していたのですが……」

「な、なんだとッ!」

 ドロイドのこの一言に応えたのか。

 男は眉間に皺を寄せ、怒りを露わにする。
 しかしそれは紛れもない真実であり、現にドロイド陣営の損傷はほぼ無傷状態だった。

 予想もしなかった事態。
 この屈辱的な展開に男は唇を噛みしめながら、冷静さを保ちつつも、ドロイドに食ってかかった。

「ふんっ、何を勝ち誇った気になっているんだ? その気になれば、貴様なんか一瞬で捻り潰すことが出来るんだぞ?」

「じゃあ、何故やらないのです? 創造獣かれも縛り付けたままではなく、解き放ってあげてはいかがですか?」

 ドロイドが創造獣クリエイトビーストなるバケモノに目を向けながら言い放つと、男は口を塞いだ。
 痛い所を突かれたかのような表情。

 だが、ドロイドにとっては全て御見通しだった。

「出来ないのでしょう? それを完全に解き放てば、この空間そのものがどうなるかは分からない。何故なら、まだ完全に調整が出来てないから。違いますか?」

「し、知ったようなことを……」

 男の少し動揺したところを見れば、一目瞭然。
 このバケモノは確かにバケモノではあるが、まだに至ってはなかった。

 要するに、まだ不完全な状態だったのだ。

「私は以前から、帝国内で秘密裏に生体実験が行われているのを知っていたのです。それがまさか聖獣の人工的創造ということまでは知りませんでしたので、少々驚きましたが」

「……何者だ、貴様」

 男の問いかけにドロイドはふぅと一息つくと、その翠眼を男に向け、一言放った。

「私はドロイド・レインボルグ。グリーズ王国ギルド本部に所属する、しがない本部長ギルドマスターです」

「ギルドマスター……だと?」

「ええ。まぁそういうことなので、そろそろ決めさせてもらいますよ。十分情報データは集まったので」

「な、なにを……」

 ドロイドは男を見ながら軽く微笑むと、右腕を真上にあげ、詠唱を始めた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...