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142.守衛
しおりを挟む「ちっ、流石に簡単には通させてはくれないか」
「ランス、来ます!」
ソフィアの声のすぐ直後に繰り出される重い一撃。
その巨大な体躯から重力を利用して放たれた一撃は俺の身体の少し前を掠め、瞬間に突風を生じさせる。
「ふぅ、危ない危ない。あんなのくらったらひとたまりもないぜ……」
「でもまさかあんな小さな亀裂からこんな巨大なゴーレムが出てくるなんて……」
「下界への門を守る守衛ってところか。全く厄介な相手が出てきたな」
あの盛大な爆発音の後、亀裂から出てきたのは一体の巨大なゴーレム。
一般的に知られているゴーレムとは桁違いなくらいの巨体を持っており、動きも身体に似合わず俊敏。
多分、奴らが錬金術か何かで錬成した特殊仕様のゴーレムだろう。
俺たちの知るゴーレムとは何から何まで異なっていた。
「くそ、こっちは魔法が使えないってのに」
「物理攻撃で落ちるような相手じゃないですよね、あれは……」
その上、こいつが先には行かせないと言わんばかりに巨体で道を塞いでいるため、隙を見て進もうにも進めない状況だった。
要するに先に進むにはこのデカブツを何とかしないといけない、ということだ。
「どうしますか。魔法が使えない以上、わたしたちに出来ることは何とか隙を作って向こう側に行くことだと思いますが」
「それが出来ればいいんだけどなぁ」
――キュィィィィィィィィィィィンッッ!
……
……
「うん、どうやら無理そうだな」
相手さんはこれ以上ないというくらいの殺意を俺たちに向けてくる。
殺る気満々って感じだ。
どうやらあの機械的な目から逃れることは出来なさそう。
魔法が使えない以上、足を速くしたりするような自強化も出来ないし……
「仕方ない。何とかしてあいつを止めよう」
俺は腰に据えていた護身用の短剣を構え、刃を向ける。
何とも貧弱が過ぎる装備だが、やらないよりはマシだ。
というかやらないとこっちがやられる。
逃げてばかりじゃいずれ限界が来るし、向こうは体力知らずのゴーレムさんだ。
自分たちがまだ早く動ける段階で解決の糸口を見つけないと、脱出は永遠に出来ない。
こんなところでくたばるのはごめんだ。
それに……
(上手くいけば、ソフィアだけ脱出させることも可能だしな)
これはあくまで最後の手段だ。
というのも今ソフィアにこの提案をすれば、まず間違いなく断られる。
彼女と生活を共にしてきたことで、俺はソフィアという女の子がどんな人か段々把握できるようになってきていた。
彼女は絶対に賛成しない。
たとえそれが国を守るためという理由であっても、彼女は反対するだろう。
だからこそ、本当に窮地に落ちた時まで取っておきたいのだ。
もし解決策を見出すことが出来なかった時の為に。
「ランス、どうかしましたか?」
俺が脳内で色々と考えている中、顔をひょいっとソフィアが覗いてくる。
「いや……何でもない。それよりも、何か戦える武器はあるか?」
「一応、短剣はありますが……わたし、剣の腕は……」
「でも朝の鍛錬で時々やってたじゃないか。前に少しだけ見たことあるけど、いい動きをしていたと思うよ」
「そ、そうでしょうか?」
「うん。一国の王女様とは思えないくらいの勇ましい剣筋だったよ」
「え、えへへ……でも、わたしなんかまだまだですよ。まだ魔法ですら満足に出来ていないのに……」
「まぁ、俺も剣の腕に関しては魔法ほど自信はないから偉そうなことは言えないけどな。でも今はやるべきことをするしかない。戦いながら解決策を見つけないと」
「そうですね。これでは自分の身の危険を顧みてまで囮役を引き受けてくれたドロイドさんたちに申し訳がたちません。わたしも守られてばかりじゃなく、皆さんと共に武器を取って戦わないと!」
「その意気だ。でも無理はするなよ? この国の未来を担う王女様がこんなところで大怪我を負ったら大変なことになる。……というかそうなったら俺は俺で陛下に殺されるかもだし……」
「殺される? お父様に?」
「ああいや、何でもない。一応俺はソフィアの護衛役を任されている身でもあるからな。もし怪我でも負わせたら陛下に申し訳が立たないってこと」
「ああ……でもそれなら大丈夫です。わたしもこんなところで死にたくはありませんから!」
「それは俺も同じだ。俺たちにはまだやるべきこともあるしな」
「はい! だから、絶対に乗り切りましょう! この試練を!」
「お、おう……」
やけにやる気になったな。
なんか変なスイッチでも入れてしまったか?
でも今はこれくらいがちょうどいいのかもしれない。
「行きますよ、ランス。わたしの成長した剣技を見てください!」
「お、おい! あまり無茶は……行っちゃった」
ソフィアの爆発的なやる気に圧倒されてしまう。
が、同時に俺自身もやる気を奮い立たせるトリガーにもなった。
「やっぱり、色々な意味で王女級だよな。ソフィアって……」
そう思いながらも、勇猛果敢に剣を振るう彼女の護衛へと回るのだった。
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