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138.救うために

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「き、貴様……っ!」

 ここまで感情が揺らいだのは初めてだった。
 それも自分のことではなく、誰かの影響によることで。
 
 ほんの少し前まで孤高の権化として生活をしていた俺には今までに経験したことがない感情の高ぶりだった。

 この高まりの真意が何を意味するのかは分からない。

 でも一つ、確実に言えるのは……

 

 ――こいつを完膚無きまでにぶっ潰ししたい


 その欲望だけが俺を突き動かしていた。

 と、その時。

「この国が消えるって……なぜ貴方にそんなことが分かるのですか?」

 隣にいたソフィアの張った声が聞こえてきた。

「分かるよ。我々の計画は完璧だからね」

「完璧……?」

「そ。君たちはまだ知らない……いやもしかしたら知っているかもしれないけど、”彼ら”はここだけじゃなく王都の至る所に潜伏しているんだ。ここを合わせて合計10か所にね」

 男は生物兵器に目を向けながら、そう答えた。

「やはりそうだったのですね……」

「その反応を見ると、もう知っていたみたいだね。いやぁ流石は天下の王国様だ。情報が早い」

 だが男はなおも余裕の笑みを浮かべていた。

「ま、それを知ったところで君たちに対処する術はないけどね。もう計画は初期段階に入っている。後はもうその刻を待つだけ。文字通り時間の問題って奴さ」

「……させない」

「ん?」

 ソフィアの少し掠れた声が耳に入って来る。

「絶対にそんなことはさせません!」

 語調は少し弱々しくもその言葉には強い想いが籠っていた。
 普段は感情的になることはあまりない彼女の、王女としての強い一面がそこに現れていた。

「させない? 小娘が何を言うか。第一君みたいな一般人になにが――」

「わたしは一般人ではありません。まだ未熟者ではありますが、この国を守り、発展させていく……それがわたしの使命なのですから」

 ソフィアは立ち上がると、一歩前に出る。

「使命だって? 君は一体何を言っているんだ?」

 疑問を浮かべる男にソフィアはそっと頭を覆っていたローブを取る。
 すると男に表情は即座に一変した。

「なっ、その顔……まさか……」

「貴方のお察しの通りです。わたしはソフィア=フォン・グリーズ。グリーズ王国第一王女であり、この国を導く者。わたしは両国の平和を心から望んでいますが、貴方がたがこの大地を力で踏みにじるというのなら、グリーズ家の名にかけて……貴方がたに鉄槌を下します!」

 力のこもった一言がこの場にこだまする。
 ソフィアとは思えない迫真の決意に俺の心の憤りはいつしかすぅーっとどこかへ流れていった。

 そして改めて思った。

 彼女は本当にこの国が好きなんだということを。

「わたしは今までずっとお父様の力に助けられてばかりでした。でもいつまでもそんな風にはいられない。今度はわたしがこの国を守る番です!」

 堂々たる姿。
 それは普段のソフィアとしてではなく、王女としての彼女の姿がそこにあった。

(流石は王女様……だな)

 とてつもないまでの貫禄がある。
 
 伊達に十数年王女をやってないわけだ。

 そんな風に思っていると彼女の視線は俺を含めた全員へと向けられた。

「皆さん、力を貸してください。情けない話ですが、今のわたしの力だけではこの場は切り抜けることはできません。だから――」

「もういいよ、ソフィア。お前の気持ちは十分に伝わったから」

「え?」

「お願いされなくても俺は力を貸すよ。なんたって陛下に言われたからな。ソフィアのことをお願いしますって」

「ランス……」

「我々も気持ちは同じです。是非とも力をお貸しします、ソフィア様」

「ここまで来れたのも何かの縁。このブライアン、騎士としての誇りにかけ、貴女様をお守り致します!」

「みなさん……ありがとうございます!」

 深々と頭を下げるソフィア。
 俺たちにとって理由など不要だった。
 
 みんな平和を望んでいるし、もちろん俺もそうだ。

 だからこそ、何としてでも止めないといけないんだ。

 新たな悲劇を生まないためにも。

「だけど、ソフィア。この場を切り抜けるってさっき言ってたけど、どうするつもりだ?」

 決意を固めても、問題はここからだ。
 この状況を打破するのが容易ではないことくらい彼女も承知だろう。

 だが、彼女は目つきをグッと尖らせると、一言放った。

「……わたしに考えがあります」
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