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137.殺意

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「この国を完全に滅ぼすって……本当なんですか!?」

「恐らくね。というかむしろ、彼らにとってこの国を滅ぼすことはあくまで過程にしかすぎない。あいつらの真の狙いは恐らく……」

 ドロイドさんは今までないくらいの険しい表情を見せる。
 そして、

「この大陸全土の……支配そのものだ」

 躊躇いもなく、一気にそう口にした。

「大陸……全土?」

 俺はその言葉を聞いて一瞬、脳内フリーズを起こした。
 だがすぐに判断力を取り戻し、ドロイドさんに聞き返そうとした瞬間。

 男の声が会話の中に割って入ってきた。

「おいおい、支配だなんて人聞き悪いなぁ……僕らはただ、帝国が誇る技術を大陸中に知らせ、それによって生じる取引や契約などからの利益を国の復権に役立てようとしているだけなのに」

「同じことです。でも何より許し難いのはその過程の為にこの王国が使われるということです」

「使われる……帝国は大陸に自分たちの力を示すために王国を滅ぼすというのですか?」

 少し震えるソフィアの声にドロイドさんは頷いた。
 弱々しく、申し訳ない意味も込めて。

「そんな……」

 その場で崩れるようにペタン座りをするソフィア。
 暗く沈んでいく表情を見ていく内に俺の心は痛んでいった。

「くそっ……こいつらは自分たちの野望の為に他の国を利用するのか……!」

 まさにそれは実験でいうモルモットだった。
 俺たち王国は帝国の実験の被験者になろうとしているのだ。

 そんなことは到底許されることではない。

 むしろそんなことをしたら王国と同盟を結んでいる国が黙っちゃいないだろう。

 また新たな争いを生む火種になる可能性だってある。

 負の連鎖が生み出され、罪のない人間が何万と殺される。

 それくらいのことは分かっているはずなのに……
 
「今頃、他の拠点で待機している同志たちも準備を進めているだろう。”真紅の夜”に備えてな」

「同志たち?」

「ああ、そういえば君たちには言ってなかったね。実はこの屋根裏、王都内にあと9つあるんだ。ここと全く同じように人工化物バイオビーストを保管している場所がね」

「……ッ!」

「そして今日の夜に、今まで準備を進めてきた全てのプロセスが実行されることになる。大戦以来の多くの血が、この広大な王都に流れるってわけさ」

「貴様……っ!」

 躊躇することなく、残酷な言葉を発する男に怒りが湧き上がって来る。
 でも今は挑発に乗らされている場合じゃない。

 俺は静かに息を吸うと、怒りを心の奥底へと鎮めた。

「じゃあ、フォルト国王陛下を撃ったのは計画開始の暗示だったというわけか?」

「国王を撃った……? ああ……あれは計画とは関係ないよ」

「なに? どういうことだ?」

「僕らとは別で動いていた部隊が勝手に始めたこと……と言えばいいかな。君たち王国側の動きがいきなり活発になったことを危険視したんだろうね。計画がバレたんじゃないのかと。ま、結果的に王国側の混乱を招くことになったから僕らとしてはむしろナイスフォローと言ったところだね」

「……ナイスフォローだと? 人を撃っておいてよくそんな事が言えるな」

「その点は申し訳なく思ってるよ。でもいいじゃないか?」

 男はここで言葉を止める。
 そしてニヤリとその無駄に白い歯を見せると、

「どうせ、この国は歴史からんだから」

 嘲笑いながら、そう言い放った。

 俺はその笑みを見た途端、今までにない感情が湧き上がってきた。
 それは怒りなどという生半可な感情ではない。

 
 これは自分でも嘘はつけない。
 

 紛れもない明確な殺意だった。
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