137 / 160
137.殺意
しおりを挟む「この国を完全に滅ぼすって……本当なんですか!?」
「恐らくね。というかむしろ、彼らにとってこの国を滅ぼすことはあくまで過程にしかすぎない。あいつらの真の狙いは恐らく……」
ドロイドさんは今までないくらいの険しい表情を見せる。
そして、
「この大陸全土の……支配そのものだ」
躊躇いもなく、一気にそう口にした。
「大陸……全土?」
俺はその言葉を聞いて一瞬、脳内フリーズを起こした。
だがすぐに判断力を取り戻し、ドロイドさんに聞き返そうとした瞬間。
男の声が会話の中に割って入ってきた。
「おいおい、支配だなんて人聞き悪いなぁ……僕らはただ、帝国が誇る技術を大陸中に知らせ、それによって生じる取引や契約などからの利益を国の復権に役立てようとしているだけなのに」
「同じことです。でも何より許し難いのはその過程の為にこの王国が使われるということです」
「使われる……帝国は大陸に自分たちの力を示すために王国を滅ぼすというのですか?」
少し震えるソフィアの声にドロイドさんは頷いた。
弱々しく、申し訳ない意味も込めて。
「そんな……」
その場で崩れるようにペタン座りをするソフィア。
暗く沈んでいく表情を見ていく内に俺の心は痛んでいった。
「くそっ……こいつらは自分たちの野望の為に他の国を利用するのか……!」
まさにそれは実験でいうモルモットだった。
俺たち王国は帝国の実験の被験者になろうとしているのだ。
そんなことは到底許されることではない。
むしろそんなことをしたら王国と同盟を結んでいる国が黙っちゃいないだろう。
また新たな争いを生む火種になる可能性だってある。
負の連鎖が生み出され、罪のない人間が何万と殺される。
それくらいのことは分かっているはずなのに……
「今頃、他の拠点で待機している同志たちも準備を進めているだろう。”真紅の夜”に備えてな」
「同志たち?」
「ああ、そういえば君たちには言ってなかったね。実はこの屋根裏、王都内にあと9つあるんだ。ここと全く同じように人工化物を保管している場所がね」
「……ッ!」
「そして今日の夜に、今まで準備を進めてきた全てのプロセスが実行されることになる。大戦以来の多くの血が、この広大な王都に流れるってわけさ」
「貴様……っ!」
躊躇することなく、残酷な言葉を発する男に怒りが湧き上がって来る。
でも今は挑発に乗らされている場合じゃない。
俺は静かに息を吸うと、怒りを心の奥底へと鎮めた。
「じゃあ、フォルト国王陛下を撃ったのは計画開始の暗示だったというわけか?」
「国王を撃った……? ああ……あれは計画とは関係ないよ」
「なに? どういうことだ?」
「僕らとは別で動いていた部隊が勝手に始めたこと……と言えばいいかな。君たち王国側の動きがいきなり活発になったことを危険視したんだろうね。計画がバレたんじゃないのかと。ま、結果的に王国側の混乱を招くことになったから僕らとしてはむしろナイスフォローと言ったところだね」
「……ナイスフォローだと? 人を撃っておいてよくそんな事が言えるな」
「その点は申し訳なく思ってるよ。でもいいじゃないか?」
男はここで言葉を止める。
そしてニヤリとその無駄に白い歯を見せると、
「どうせ、この国は歴史から消えるんだから」
嘲笑いながら、そう言い放った。
俺はその笑みを見た途端、今までにない感情が湧き上がってきた。
それは怒りなどという生半可な感情ではない。
これは自分でも嘘はつけない。
紛れもない明確な殺意だった。
1
お気に入りに追加
1,551
あなたにおすすめの小説

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で
ハーーナ殿下
ファンタジー
鍛冶師ハルクは幼い時から、道具作りが好きな青年。だが独裁的な国王によって、不本意な戦争武器ばかり作らされてきた。
そんなある日、ハルクは国王によって国外追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、生きていくために隣の小国で冒険者になる。だが多くの冒険者が「生産職のクセに冒険者とか、馬鹿か!」と嘲笑してきた。
しかし人々は知らなかった。実はハルクが地上でただ一人《鍛冶女神の加護》を有することを。彼が真心込めて作り出す道具と武具は地味だが、全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。それを知らずに追放した独裁王国は衰退していく。
これはモノ作りが好きな純粋な青年が、色んな人たちを助けて認められ、《超伝説級》武具道具で活躍していく物語である。「えっ…聖剣? いえ、これは普通の短剣ですが、どうかしましたか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる