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122.光と影
しおりを挟む「ようフラム、久しぶりだな」
「お久しぶりです。ヴェルム殿」
同時刻、都内某所。
ランスたちが奮闘している中、誰の目にも止まらないような薄暗い路地でとある二人は会していた。
「上手くやっていたようだな。大まかな話は閣下から事前に聞いている」
「そうですか」
「……ん、どうした? 納得がいかんと言わんばかりの表情だな」
フラムはただ無言でヴェルムの目を見つめる。
するとヴェルムはすぐにフラムの心境を察した。
「ああ……今回の作戦が気に入らんのだな?」
「当たり前です。王都を”焼く”だなんて……閣下は何をお考えになっているのですか!」
「さぁな。正直、俺にも閣下の深いお考えは分からん。俺はただ、閣下の命令に従うだけだ。それが任務であり、俺たち下僕が果たすべき責務だ」
「……本気で言っているんですか?」
「ああ、本気だとも。俺は閣下の命令ならば、何にでも従うつもりだ。それが暗殺だろうが、虐殺だろうが関係ない。俺たち聖十字魔法師団はそのために結成された組織だ。主君にその身を捧げ、最後まで従事する……掟みたいなものだ」
「なるほど。イカれた組織だと前々から耳にしてはいましたが、その話は本当だったみたいですね」
「ふん、貴様のような人間とは生きている次元が違うだけだ」
聖十字魔法師団は帝国のどの組織よりも閣下に従事する集団だ。
まるで精神でもコントロールされているかのように。
帝国の暗部。
汚れ仕事を一挙に担っているだろうが、今回の作戦は異常だ。
先の大戦の影響で、王国と帝国の国家間関係が時を重ねるごとに悪化の一途辿っていることはもちろん知っている。
このまま行けばいずれ王国との戦争は避けらない……それも分かっている。
でも今は条約上、武力による政治解決は禁止されている。
周辺の列強諸も両国の動向を外側から見ているからか、下手な動きはできない。
王国は同盟加盟国だ。
場合によって同盟国対帝国の構図が出来上がる。
だが、もし今回の作戦が成功すればその軋轢は決定的なものとなるだろう。
そうなれば両国だけではなく、他の国も巻き込んだ大戦争になる可能性がある。
ほんの数年前に起きた大戦のように。
「ヴェルム殿、閣下は……戦争を起こしたいのですか? どうにも私には最近の閣下の行動が理解しがたい」
「戦争か……ま、それはあくまで二の次だろうな」
「二の次……?」
「おっと、そろそろ作戦に戻らないとだ。フラム、今後貴様がどういう決断をしようがそれは勝手だ。だがな、もし閣下に背を向けるような行動をするならその時は容赦はしない。まぁどちらにせよ、閣下の命令を裏切った時点で即刻反逆罪だ。貴様の場合はもれなく敵前逃亡罪も追加だろうから、国には絶対に帰れないだろうだがな」
「……」
「貴様の役目はほとんど終わっている。もし我々の作戦に賛同する意欲があるのなら、例の件を進めておけ」
「……はい、分かりました」
複雑な心境を抱きながらも。
フラムはただ、首を縦に振るしかなかった。
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