上 下
122 / 160

122.光と影

しおりを挟む

「ようフラム、久しぶりだな」

「お久しぶりです。ヴェルム殿」

 同時刻、都内某所。
 ランスたちが奮闘している中、誰の目にも止まらないような薄暗い路地でとある二人は会していた。

「上手くやっていたようだな。大まかな話は閣下から事前に聞いている」

「そうですか」

「……ん、どうした? 納得がいかんと言わんばかりの表情だな」

 フラムはただ無言でヴェルムの目を見つめる。
 するとヴェルムはすぐにフラムの心境を察した。

「ああ……今回の作戦が気に入らんのだな?」

「当たり前です。王都を”焼く”だなんて……閣下は何をお考えになっているのですか!」

「さぁな。正直、俺にも閣下の深いお考えは分からん。俺はただ、閣下の命令に従うだけだ。それが任務であり、俺たち下僕が果たすべき責務だ」

「……本気で言っているんですか?」

「ああ、本気だとも。俺は閣下の命令ならば、何にでも従うつもりだ。それが暗殺だろうが、虐殺だろうが関係ない。俺たち聖十字魔法師団はそのために結成された組織だ。主君にその身を捧げ、最後まで従事する……掟みたいなものだ」

「なるほど。イカれた組織だと前々から耳にしてはいましたが、その話は本当だったみたいですね」

「ふん、貴様のような人間とは生きている次元が違うだけだ」

 聖十字魔法師団は帝国のどの組織よりも閣下に従事する集団だ。
 まるで精神でもコントロールされているかのように。

 帝国の暗部。
 汚れ仕事を一挙に担っているだろうが、今回の作戦は異常だ。

 先の大戦の影響で、王国と帝国の国家間関係が時を重ねるごとに悪化の一途辿っていることはもちろん知っている。

 このまま行けばいずれ王国との戦争は避けらない……それも分かっている。

 でも今は条約上、武力による政治解決は禁止されている。

 周辺の列強諸も両国の動向を外側から見ているからか、下手な動きはできない。
 王国は同盟加盟国だ。

 場合によって同盟国対帝国の構図が出来上がる。

 だが、もし今回の作戦が成功すればその軋轢は決定的なものとなるだろう。
 
 そうなれば両国だけではなく、他の国も巻き込んだ大戦争になる可能性がある。
 ほんの数年前に起きた大戦のように。

「ヴェルム殿、閣下は……戦争を起こしたいのですか? どうにも私には最近の閣下の行動が理解しがたい」

「戦争か……ま、それはあくまで二の次だろうな」

「二の次……?」

「おっと、そろそろ作戦に戻らないとだ。フラム、今後貴様がどういう決断をしようがそれは勝手だ。だがな、もし閣下に背を向けるような行動をするならその時は容赦はしない。まぁどちらにせよ、閣下の命令を裏切った時点で即刻反逆罪だ。貴様の場合はもれなく敵前逃亡罪も追加だろうから、国には絶対に帰れないだろうだがな」

「……」

「貴様の役目はほとんど終わっている。もし我々の作戦に賛同する意欲があるのなら、例の件を進めておけ」

「……はい、分かりました」

 複雑な心境を抱きながらも。
 フラムはただ、首を縦に振るしかなかった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...