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121.突破作戦

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「迷彩魔法で?」
 
「そうだ。一時的だけど、俺にはカモフラージュできる魔法を使うことができる。それを上手く使えば向こうまでいける」

 俺が考えた方法。
 それは迷彩魔法を使ってフロアに潜入し、奥の部屋まで行き、マッピングを済ませたらまた戻って来るというシンプルなものだ。

 これなら見つからずにみんなで向こう側まで行けるが、ソフィアはあまり乗り気じゃないと言わんばかりの顔を向けてきた。
 
「でも……危険です! もし見つかったら、ハチの巣ですよ!?」

「そうならないようにするから大丈夫だって。とにかく、見つからないように向こうまで行くにはこの方法しかない」

「それはそうかもしれないけど……」

 ソフィアの言う通り、見つかったら終わりだ。
 あの人数なら逃げる暇も与えてはくれないだろう。

 正直、賭けにはなる。

 でもそれはここに入る前から、覚悟の上だ。
 
 ここで引き返しては意味がない。

「俺を信用できないか?」

「い、いえ! もちろん信用しています! でも心配なんです。危険であることを承知の上で送りだすのが……」

「ソフィア……」

 ま、普通はそうだろうな。

 相手が危険を知った上でわざわざそれをやろうとしている。
 笑顔で「頑張って」と送り出せるはずがない。

 仮に逆の立場だったとしたら、俺は止めるだろうな。
 
 確実に。

 でも……

「ら、ランスっ!? いきなり何を……」

 ソフィアの右手を両手でギュッと包み込む。
 突然の行動に赤面しながらキョどるソフィア。

 そんな彼女に俺は真剣な眼差しを向け、

「ごめん、ソフィア。必ず帰ってくる。だからここで俺の帰りを待っていてくれないか?」

 一言。
 するとソフィアはすぐに紅潮させた頬を振袖で隠した。

「ほ、本当にランスはずるいです……」

「すまん……」

「でも、そういう勇気があって堂々と言えるところ……わたしは好きですよ」

「す、好き……っ!?」

 まさかの不意打ち。
 その一言は俺の心にぶっ刺さる強烈なものだった。

「え、えっと……好きっていうのはその、えっと……」

「へ? あ、いや……! 好きと言ったのは――」

「わ、分かってる! 性格的な面で好きって意味だよな? そういうことだよな?」

「そ、そう……です……よ」

 あれ、なんか反応に違和感が……

 でもそうって言ってるんだから、そうだよな!

 ソフィアだけでなく、俺まで謎の焦りが。
 
 だが正直に言おう。

 さっきのは嬉しかった。
 勇気を貰うためにあと二回は言ってほしいくらい。

 もちろん、叶わぬ願いだが……

「と、とにかく! ソフィアはここで待っていてくれ。すぐに戻る」

「分かりました。無事に戻ってきてくださいね、絶対に」

「ああ、もちろんだ! ブライアンさん、ソフィアを頼みます」

「承知しました。ランス殿こそ、どうかお気をつけて」

 俺はソフィア護衛を一時ブライアンさんに委ね、フロアの入り口前まで近づいていく。
 
 そして。
 俺単独による突破作戦が幕を開けたのだった。
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