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113.食い意地を張る王女様
しおりを挟む店内に入ると、内装は前と特に変わりはなかった。
人気店なだけにこのご時世でも割とお客が入っている。
もっと閑古鳥が鳴いていたのかと思った。
でも俺たちとしては好都合だ。
客に紛れて調査をすることができるからな。
一応カモフラージュのため、護衛騎士も含めて全員私服で来ている。
もちろん、万が一の為に最低限の武装はしている。
後はどうやって調査をするか、だが……
「いらっしゃいませ、お飲み物はいかがなさいますか?」
フリフリのついた可愛らしい制服に身を包んだウエイトレスさんがニッコリ営業スマイルで注文を聞いてくる。
今の俺たちは目的はあっても客という体で此処に来ているので、とりあえず各々注文することに。
「じゃあ、私はアイスティーで」
「自分はブレンドコーヒーのホットでお願いします」
「我々は全員、オレンジジュースでお願いします!」
「は~い! かしこまりましたぁっ~!」
ドロイドさんはアイスティー、俺はコーヒーを頼み、騎士たちは全員オレンジジュースを注文した。
てか、オレンジジュースって可愛いな!
見た目はみんないかつくて、ゴリッとしているのに……
「ソフィアは何にするんだ?」
「……」
「ん、ソフィア?」
じーっとメニューを黙視するソフィア。
話しかけても返答はなく、ただ無言でメニューを見つめていた。
どうも魂がどこか別の世界に行ってしまわれたらしい。
揺さぶってみてもビクともしない。
「お、おいソフィア……?」
「へ?」
一国の王女とは思えない気の抜けた返事が返ってくる。
だがすぐに我を取り戻したか、
「あっ、えっ、あ、ああ! 注文ですね!? え、えっと……何にしようかな……」
急いでもう一度メニュー表を見始めるソフィア。
現実世界に戻ってきてくれたことはいいんだけど。
「ソフィア、メニュー逆さまになっているぞ」
「え? あ、本当だ!」
気づいていなかったのか……
(それにしても、いきなりどうしたんだ?)
ここまでアホ全開のソフィアは一度も見たことがない。
何か考え事をしているように見えたが、もしかして……
「なぁ、ソフィア。何か気がかりなことでもあるのか?」
置いてあったもう一枚のメニューを開き、二人だけの空間を作ると、小声で聞いてみることに。
するとソフィアは何故か頬を紅潮させながら、
「え、えっと……気がかりなことというか……何というか。メニューを見ていたら、その……欲が……」
「よ、欲……?」
欲って何の……あっ。
ストンと勢いの如く蘇ってくる記憶。
そういえば前に此処に来た時にソフィアがかなりのスイーツ大食漢だということが判明したんだった。
もし俺も察しが正しければ、彼女がぼーっとしていた原因って……
「も、もしかして食べたいのか?」
「は、はい……」
さらに頬を赤く染めると、小さく頷く。
「ご、ごめんなさい。今回は調査で来ているので、流石にダメですよね……」
「だ、駄目とは言わないけど……」
「じゃ、じゃあ食べてもいいんですか!?」
「まぁ、ソフィアがそうしたいなら……」
「本当ですか!? やったっ!」
ソフィアはぱぁぁぁっとした輝かしい笑顔を向けてくると、早速注文をしまくる。
その量は前回のように一人分とはいえないほど。
流石にこれにはドロイドさんたちも苦笑いせざるを得なかった。
「ありがとうございます、ランス! あ、もちろん御代は自分持ちなので安心してください。しかも今回は調査なので堂々と経費として落とせますし!」
「そうか……そりゃ良かったな……」
今更だが、ソフィアって性格的に極端なところがあるよな……
割とグレーなことをすることもあるし。
まぁそこがソフィアの良い所ではあるんだけど。
王女らしくない、という意味で。
でも……
(流石にこの量は食いすぎだろ……)
後からテーブルに運ばれてきた料理の数々。
そのほとんどがソフィアが注文したものでテーブルが埋まり、流石の俺も困惑を禁じえなかった。
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