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101.新たな手掛かり

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「意識を取り戻してからすぐで申し訳ないんですけど、お話を聞かせていただけますか? リリさん」

「もちろんです。とはいっても有用な情報源になるかは分かりませんが……」

「構いません。お願いします」

 俺たちは被害に遭った使用人のリリさんに事情を話すようお願いする。

 まだ意識を取り戻したばかりで申し訳ないが、今は時間が惜しい。
 俺たちがするべきことは短い時間でどれだけ多くの情報を集めることかだ。

 それが聖剣奪取の大きなカギとなる。
 今王都で起こっている奇怪なことも紐解くことができるかもしれないからな。

 俺たちがお願いすると、リリさんは自分の覚えていることの限りを事細かに話し始めた。

「あれは昼過ぎのことでした。今日の私の仕事は庭当番だったので、庭に出ていたんです」

「庭当番?」

「裏庭に植えてある花を手入れしたりする役割のことです。毎日ローテーションで当番を決めているんですよ」

 アリシアさんが補足説明をしてくれる。
 俺はリリさんに問う。

「その庭当番をしている際にいきなり襲われたと?」

「はい。突然背後から口元を抑えられて……」

「周りに人はいなかったんですか?」

「当番は基本的に一人でやるので……」

 なるほど。
 襲うには絶好の機会だったというわけか。

 でも裏庭まではどうやっていったのだろう。
 
 正門には護衛騎士たちが目をギラつかせているし、屋敷の周りは煉瓦の屏で囲まれている。

 それに防犯のため、屏には特殊結界が仕込まれているのでよじ登ろうもんならすぐに見つかってしまう。

(一体、どんな方法を使って……)
 
 考えれば考えるほど謎は深まる。

「襲われてから、何かされた記憶とかってある?」

 今度はソフィアが質問をすると。

「実はそこのところはあんまり覚えていないんです。口を抑えられてから、一瞬だったので」

「何かされた……とかは?」

「うーん…あっ、そう言えば!」

 ここでリリさんが何かを思い出したのか、ハッと顔を上げた。

「確か首元……首元を触られた気がします」

「首元を……?」

「はい。でも実際に見たわけじゃなくて、あくまで感覚的な記憶なんですが……」

 首元か。
 もしかしたら外傷があるのかもしれないな。
 
「あ、あの……リリさん。非常に申し上げにくいんですけど、少しだけ首元を見せてもらってもいいですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

「すみません」

 というわけで、リリさんに首元を見せてもらうことに。
 リリさんは美しいベージュの長髪を上げると、首元を見せてくれた。

「うーん……」

「傷は……ないようですね」

 純白の柔肌には傷一つなく、目立った外傷はなかった。
 一応項の部分や反対側も見てみるが、同様に傷はない。

「ありがとうございます、リリさん」

「ど、どうでしたか……」

「傷はなかったです。手掛かりになる痕跡とかも……」

「そうですか……」

 さて、これで話は振り出しに戻ったわけだが……

「ちょっと待って」

「どうしたイリア?」

 近くで立ちながらじっと眺めていたイリアはリリさんの元まで近寄ると。

「すみません、もう一度髪を上げてもらえますか? 調べてみたいことがあるんです」

「わ、分かりました……」

 もう一度髪を上げ、首元を晒すリリさん。

「少し触らせていただきますね」

「えっ……あ、ひゃっ!」
 
 イリアは突然リリさんの首元に手を当てると、目を瞑り始めた。
 
「おいイリア。お前何を……」

「いいから見てて」

 それだけ言うと、イリアはじっと黙り込む。
 すると次第にイリアの手に光が帯びていく。

(魔力を流しているのか……?)

 その光はどんどん強くなっていく。
 だが時間が経つと、次第に光は弱まり、数分経ってようやくイリアは手を引っ込めた。

「ふぅ、これで浮かび上がってくるはずよ」

「浮かび上がるって何が――」

 イリアに問い詰めようとしたその時だ。
 突然リリさんの首元が薄紫色に輝くと――謎の刻印のようなものが浮かび上がってきた。
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