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91.失踪

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 少し薄暗い広々とした空間にて。
 俺はイリアほか、数人の使用人と共に武器や防具を磨いていた。

「まさか、雑用を頼まれるとは……」

 アリシアさんにこの部屋に連れてこられて言われたのは、一言で言えば雑用。
 ここに保管されている武器や防具等の整理や掃除をしてほしいとのことだった。

 というのも長年開けられていない(法令等で開けられない)武器庫なので、管理面で不安なところがあり、特殊な結界で経年劣化などの対応策は敷いているものの、やはり使えないものもあるとのこと。

 それを見極め、除かないといけないのだが、人手が足りないということで俺たちも招集されたというわけだ。

「えっと、これは……ダメだな。そっちはどうだ?」

「こっちもダメね。ちょっとだけだけど、刃の部分が錆びついてる」

「じゃあ、廃棄だな」

 冒険者という職をしているためか、武器や防具の知識はそれなりにある俺たち。
 使えるか使えないかは見れば大体分かる。

 多分、そういう理由も含めてのお願いだったんだろう。

 あとでお礼はたっぷりしますので、ってすっごく言われたし。

「お、なんだこの剣! おい、イリアちょっとこっちに来てみろよ!」

「なによ、今こっちは忙し――ってこれは!」

 イリアも驚くその一本。
 部屋の一番奥にあったそれは謎に神々しいオーラを放っていた。

「これって、まさか……聖剣?」

「だよな? 俺もまさかとは思ったけど……」

「そうですよ」

「「うわっっ!?」」

 突然背後にひょっこりと現れるアリシアさん。
 というか、いつの間に後ろに……

「とは言っても、それはほんの一割未満の破片から復元したものなので、力なんてほとんどありませんが」

「でも一割は本当の聖剣ってことなんですよね?」

「ええ。私もあまりよくは知りませんが、先々代の国王陛下の所有物で、当時大剣聖と呼ばれていた人物から与えられたものだそうで。その時は正真正銘の聖剣だったらしいんですが、量産化を目指そうとした度重なる研究の失敗で放棄されることとなり、ここに保管されている……らしいです」

「なるほど……」

 なんか闇が深そうな話だ。
 でもこうして見ているだけでもすごく圧迫感を感じるということは昔は相当な代物だったのだろうな。

 イリアもさっきからじーっとその聖剣を見つめていた。

「さて、作業に戻りましょうか。お二人にはあそこのブロックをお任せしてもよろしいでしょうか?」

「分かりました」

「……」

「ん、イリア? どうした?」

「えっ、い、いや……何でもない。行こうか」

「お、おう……」

 そんな滅多に見られないようなものを見た後、俺たちは再び作業に戻る。
 
 作業は進み、それから一時間くらいが経過した時だ。

「おい、イリア。そっちの武器の方は……ってあれ? イリア?」

 さっきまで近くにいたはずのイリアがいない。
 俺は周りを見渡し、イリアの存在を確認するが……

「おかしいな。さっきまでそこにいたはずなのに……」

 俺は一度作業の手を止めると、アリシアさんの元へ。

「えっ、イリアさんですか? 私は見ていませんが……」

「そ、そうですか……」

 他の人にも聞いてみるが、イリアを見ていないという。
 
(ということは部屋の外に出たのか?)

 俺は一度部屋を出て屋敷内を捜索する。
 だがどこにもいない。

 イリアがいそうなところは手あたり次第確認したが、どこにも姿はなかった。

 俺は途方に暮れ、再び部屋に戻った……その時だった。

「大変です、ランス様!」

「アリシアさん? どうされました?」

 少し焦り気味のアリシアさん。
 その様子を見て、俺はすぐに悟った。

 非常事態が起きたと。

 そしてアリシアさんは一呼吸置くと、俺にこう言った。

「聖剣が、聖剣が何者かに奪われてしまいました!」

「聖剣? ……ってさっきのあれですか?」

「はい。さっきたまたま見たら、いつの間にかなくなっていまして……」

 アリシアさんは続けた。

「とにかく早く探さないといけません。研究で一度は破棄されたとはいえ、あれは聖剣です。世としても国としてもあれを外に放つのは危険を伴います。それにあの聖剣は……」

「……?」

「あ、いえ。何でもありません。とりあえず、一刻も早く聖剣を見つけなくてはいけません!」

「あ、あの探すってことで俺も方からも一つ問題が……」

 俺は流れに乗じて、イリアが行方不明になったことを話した。
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