74 / 160
74.謀議
しおりを挟むランスたちが調査を開始する少し前。
王都のある場所で、とある暗黒会議が開かれていた。
「リーダー、例の活動の件は明日決行で?」
「ああ。予定通り、明日の晩に決行する」
漆黒のローブを身に纏う6人の集団。
その中心にいるのが、リーダーと呼ばれる大柄の男ヴェルム。
リーダー用なのか彼だけが頭部に金色のツノのようなものがついたローブを着用していた。
「じゃあ、とうとうおっぱじめるんっすね!?」
「ある程度の生贄は揃ったからな。これ以上、やると奴らに感づかれる」
「ギルドですかい?」
「ギルドもそうだが、最近では国の方も動き始めようとしているらしい。本格的にネズミ叩きに入るようだ」
「ケケケッ! 今更始めても遅いってのに、呑気な奴らじゃ」
「ま、たとえ国が動こうと我々を見つけるのは至難の業でしょう。なんたって……」
「洒落た人気カフェの屋根裏に誰かが潜んでいるなんて誰も思わない……だろ?」
「むぅ……私が言おうとしたのに」
「おいおい、そのカフェの店主がリーダーだっていう重要項目が抜けてるぞ!」
「ぷっ……!」
突然誰かが噴き出す。
だがすぐにヤバイと思ったのか、両手で口元を隠した――が。
「あ、リーダー! こいつ、今笑いましたよ! リーダーがカフェの店主ってところで笑いましたよ!」
隙に付け入る形で一人の男が指摘する。
指摘された男が少しあたふたしながらも、すぐに弁解する。
「べ、別にそこで笑ったんじゃない! た、ただの思い出し笑いだ!」
「嘘だな! さっきのはどっからどう見てもリーダーのことで笑っていた。確かに面白いのは否定しないが、時と場合ってのがあるだろうが! ねぇ、リーダー?」
指摘した男はそう言いながら、ヴェルムの方を向く。
周りの者たちは少し焦りながらも、じっと黙り続けていた。
お前、本音が漏れているぞ……と心の中で思いながら。
「……おい、ジッタル」
「は、はい?」
リーダーヴェルムの一声でジッタル以外の全ての者がビクッと身体を跳ねさせる。
これはマズい、ぶっ殺される。
一人を除く全員がそう思い始めた――その時だ。
「俺がカフェの店主をやっているのがそんなに変か?」
「えっ……?」
まさかの他己評価を求める姿勢を見せる一同が驚く中、ジッタルは答える。
「い、いや変と言いますか……そう、ギャップがあるんです!」
「ギャップだと?」
「ええ。だってリーダーみたいなちょっと強面な人がカフェをやるなんて考えられないですよ。少なくとも俺は思いませんね!」
この男は目上の人物に向かって、失礼なことを言っている。
しかしヴェルムは無言で二回頷くと。
「そうか。思わないか……」
少し落ち込んだトーンでそう零す。
何か気になる節でもあったのか、ヴェルムは少し考え始めると、再び口を開く。
「……まぁいい。逆にその方が好都合だからな」
「そ、その通りです。これぞ完璧なるカモフラージュというもの。流石はリーダーっす!」
「そ、そうです! 工作活動をしながら、その次いででお金も稼げる。この潜伏方法を考えたリーダーはやっぱ天才ですよ!」
周りの部下たちが一斉にリーダーを褒めにかかる。
実はこの策を考案してのはリーダーであるヴェルムだったのだ。
「だが油断はできない。もしかすればここにも刺客が来るかもしれん。現に例のドラゴン作戦は失敗したのだろう?」
「ああ……そうらしいですね。何やらとんでもない魔法を使う冒険者にやられたとか」
「例の黒髪の魔術師か……」
「ご存じなんですか?」
「ああ、知っている。出発前に閣下が言われていたのだ。黒髪の冒険者には十分気をつけろと」
「情報が極端ですね……」
「それしかないらしいからな。後はまだ成人してないガキというくらいしか」
謎の黒髪の魔術師。
その名の通り、謎に包まれた存在にヴェルムは何か不穏なものを感じていた。
「考えすぎなんじゃないんですか? リーダーほどの実力者に立ち向かえる冒険者なんてそうそういないっすよ」
「そうですよ! リーダーに匹敵する冒険者なんてせいぜいS級と呼ばれている連中くらい。名も知られていないようなガキにやられるなんて考えられません!」
「……だと、いいがな」
ヴェルムは小さくそう零した。
「まぁとにかくだ。今は明日の晩まで身体を休めることに専念しろ。明日はこれまで以上に大忙しになるだろうからな。分かったな?」
「「「「「はっ、仰せのままに!」」」」」
薄暗く狭い空間で。
企む数人の集団は与えられし目的を果たすため、じっとその時を待つのだった。
1
お気に入りに追加
1,551
あなたにおすすめの小説

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる