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55.規格外、再び
しおりを挟む「ファイア・ボール!」
俺は魔力を片手に集中させる。
狙いは目の前にいる黒光りした剛体。
その大きな背中を向けるドラゴンに今から次々と魔法をくらわせた。
「やっぱり、効いている。どうなってんだ?」
一発当たるごとにドラゴンに反応が。
足音が止まり、大きな叫声を上げる。
「やっぱり、効果があるみたいだな……」
もしかしてドラゴンって炎属性に弱いのか?
いや、たとえそうであってもそれはあり得ない。
あんな下位魔法でダメージを与えられるのなら、そもそもドラゴンは恐れられていないわけで。
そしたらこの状況は一体……?
そんなことを考えながら、俺はひたすらファイアボールを打ち続ける。
だが流石に自我を失いかけているとはいえ、ドラゴンもバカじゃない。
攻撃を受け続けたことで今度は俺の方へと身体を向けてくる。
「とうとうバレたか」
俺はすぐにその場から移動。
魔法を放ちつつも、ドラゴンを引き寄せる。
「大丈夫かいランスくん!」
それに気づいたのか、リベルが俺の元へ。
「大丈夫です! それよりもリベルさん、一つ頼みたいことがあるんですけど」
「頼みたいこと?」
走りながら俺は事細かな詳細をリベルに話す。
リベルは俺の考えに否定することなく、首を縦に振り即答した。
「すみません、リベルさん。こんな無茶な頼みをしてしまって……」
「気にしないでくれ。それであのドラゴンを何とかできるのなら、それこそ本望だよ」
俺の考え。
それはさっきふと思いついた超単純なもの。
ファイアボールでダメージを与えられるなら、そのさらに強力な魔法を使えば下手したら倒せるのではないかということ。
だがそれには若干の時間を有する。
無詠唱とはいえ、魔力を溜め込む時間は必要。
その間にリベルには再度、ドラゴンの注意を引きつけてもらうこととなった。
「頼みます、リベルさん! 魔法発動の際に自分が指示を出すので」
「分かった。頼んだよ、ランスくん!」
そう言ってリベルはまたドラゴンに一斬り浴びさせて、挑発。
またもその挑発に乗ったドラゴンは目を真っ赤にさせながら、リベルを追う。
「よし、これなら!」
俺は立ち止まり、両手を前に突きだす。
速攻で魔力を溜め、狙いをドラゴンに定める。
「もし、ファイアボールで効くならこの魔法なら……」
更なるダメージを与えられるだろう。
俺が独自に開発したこの魔法。
炎属性と闇属性の魔法の術式を複合化させた、威力特化の魔法だ。
名づけるならそうだな……≪ダークネス・フレイム≫とかか?
「……よし、十分に魔力は溜まったな」
これでいつでも魔法を放つことができる。
後は外さないようにしっかりと狙いを定めるだけ。
それと……
「リベルさん、準備できました。下がってください!」
俺は森に響くほどの大声でリベルに指示を出す。
それを聞き取ったリベルは俺の方へとドラゴンを引き寄せる。
ドラゴンはその先に俺がいるとも知らずにただ本能のままにリベルを追う。
「ランスくん、来るよ!」
俺の背後に走り去っていくリベル。
その後に続くようにドラゴンが物凄い形相で走ってきた。
「まだだ……まだ……」
ギリギリまで引きつける。
そして俺とドラゴンの間がものの数十メートルまで縮まった時――俺は両手にため込まれた魔力を一気に吐き出した。
「暗き炎よ、舞え! ≪ダークネス・フレイム≫!」
放たれる黒い影のような魔法。
黒い炎と言えばいいのだろうか。
その黒い炎がドラゴンめがけて放たれる。
流石のドラゴンもこれを避けることはできず、そのままその巨体全身を使って魔法を受け止める。
同時に身体全体に巻き付くように魔法がドラゴンの身体を蝕み始めた。
「――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA、GAAAAAAAAA!!」
痛みからか悶絶するドラゴン。
それから動かなくなるまで10秒もかからなかった。
ドラゴンの目は色彩を失い、ピタリと抵抗が収まる。
と、ドラゴンはそのままバタリと大きな音を立て、地に伏したのだった。
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