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54.試み
しおりを挟むリベルの攻撃がドラゴンの至る部位へと放たれる。
だがドラゴンの外殻はそれを阻み、戦いは膠着状態に入っていた。
「――エンハンス!」
俺はリベルの指示通り、後衛の仕事に尽くしていた。
攻撃をかわしながら、リベルに強化魔法を付与し、支援する。
俺も攻撃参加をしようかと提案はしたが、それはダメだと言われた。
多分、俺を巻き込んでしまったことによる罪悪感があるのだろう。
とはいってももう既に引けない状況になっているんだが。
「ぐっ……!」
怒涛の攻撃がリベルを襲う。
重みのある連撃だが、リベルは剣の剣体を横に構え、何とか攻撃を防ぎきる。
が、その絶え間ない攻撃で少しずつリベルの息が上がり始めていた。
「大丈夫ですか、リベルさん!」
「な、なんとかね」
「やっぱり俺も攻撃に参加します。このままじゃ、リベルさんの身が……」
「で、でも……君まで危険な目には……」
「そんなことはここに残った時から覚悟の上ですよ。それに、リベルさん一人だけに任せるわけにはいきません」
体力的にも向こうが上なのは明白。
泥試合になれば、俺たちに勝機はない。
ここは二人で力の限りを尽くすしかない。
たとえそれで倒せずとも、時間稼ぎくらいはできるはずだ。
リベルは下を向き、何やら考え込む。
だがすぐに俺の方へ視線を向けてくると、
「すまないランスくん。手伝ってもらえるだろうか?」
リベルも自分の限界を感じていたのだろう。
俺に手伝うように求めてきた。
俺は「はい」と一つ、返事をすると、前線に出る。
近くで見ると、やはりその巨体に圧倒される。
自分の身体の何倍もあるその巨体から繰り出される攻撃はさぞ強力なのだろう。
一発でも喰らえば大変なことになりそうだ。
「ランスくん、僕が敵を引きつけよう。その間に君は奴にありったけの魔法を頼む」
「分かりました。でも……」
「気にしなくていいよ。今の僕にはこれくらいしかできないからね。それに僕たちの最終的な目標はあくまで時間稼ぎだ。分散してかく乱した方が時間は稼げる」
「分かりました。じゃあその作戦で」
決まった途端、リベルはニコリと最後に笑みを見せると、ドラゴンを挑発しながら道の反対側を走っていく。
その間に俺は魔法を放つ準備をしていた。
というのも詠唱ではなく、どの魔法で対処するか考える方の準備だが。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ドラゴンはその挑発にまんまと乗るとリベルの方へ走っていく。
完全にヘイトはリベルの方へ。
今の俺はドラゴンからすれば視界にすら入っていない。
「確か、ドラゴンは魔法耐性があるんだったな……」
これもかつて俺が読んでいた書物からの知識。
ドラゴンは肉食な上に凶暴で、物理・魔法に耐性を持った数あるモンスターの中でも一二を争うくらい危険な種。
おまけに人間と同じように詠唱して魔法も使うことができる。
Sランク冒険者のみ、討伐が許されているらしいが、本当のところは分からない。
世の冒険者の大多数がドラゴンと戦ったことがないからだ。
だから弱点はどこにあるか、どの属性の魔法が有利かも分からない。
それでは打つ手なしじゃないか、と言いたいところだが、俺はさっきの出来事をふと思い出した。
それは、俺がドラゴン相手にファイアボールを放った時の事。
その時。
どういうわけか、効いているように見えたのだ。
下位魔法であるファイアボールなんてドラゴンからすれば、石ころを投げられているのと同等と言っても過言ではないレベルの魔法なのに、何故か反応が可笑しかった。
(もしや……いや、まさかな)
頭に過る一つの可能性。
それは普通ならあり得ないこと。
でも不思議と違和感はなかった。
今までの経緯から踏まえると、だが。
「いや、考えている暇なんかないな」
やれることなら片っ端からやっていきたい。
リベルも自分の命を懸けて囮役を名乗り出たんだ。
下手に考えるより、打てる手は打っておくべきだな。
俺は片手を前に伸ばし、前方を行くドラゴンに照準を合わせる。
「じゃあ、まずは手始めにこれからやってみるか……」
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