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39.緊急事態

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「お、俺がソフィアのことを……ですか!?」

「はい」

「それは人として……じゃなくて?」

「もちろん、一人の女の子としてです」

「で、ですよね……」

 正直にぶっちゃけると俺は多分、ソフィアのことをガンガン意識しているんだと思う。
 思う……というのは自分でも確証がないからだ。

 意識しているのはソフィアのことを頼まれたからかもしれないし、また別の感情かもしれない。
 
 それにそもそも異性との付き合い(友達としても含めて)をしたことがないからこれが好きという感情だけで纏めていいのか分からない。

 でも自分が意識しているのは分かる。

 要は自分でもソフィアのことを真にどう思っているのか分からないのだ。

「まだ分かりません。俺がソフィアのことをどう思っているのか」

「まだ時間が足りない……ということですか?」

「それもありますけど、俺はそもそも異性と関わったことがあまりないので……」

 異性と話したのは学生時代が最後。
 でも基本、俺は学内でもぼっちだったから異性は愚か同姓ともあんまり話したことがない。

 異性だけに絞れば指を折るほどの回数だ。

「なるほど。本当は何かを感じ取ってはいる……でもその感情が何なのか分からない。そういうことですね?」

「そ、そうです! すごいですね、アリシアさん……」

「ふふふ、これでも色々な方を見てきましたので。私、昔から人を観察するのが好きなんですよ」

「そ、そうなんですか……」

 何となく納得できる気がする。
 さっきの盗聴の件といい、普段からソフィアのことをじーっと見ている件といい……

「でも私が見る限り、ソフィア様の方はランス様のことをかなり気にかけているご様子ですよ」

「そ、ソフィアがですか?」

「はい。それに、ソフィア様があんなに笑うお姿を見るのは久しぶりです」

「久しぶり……? ソフィアって普段からあんな感じじゃなかったんですか?」

「初めは毎日ニコニコと笑顔が眩しい女の子だったんでした。でも、それから色々あって徐々に彼女から真の笑顔が消えていったのです。仮に見せたとしてもどこか悲し気な表情をされてたんです」

「そう、だったんですか……」

 色々……か。
 
(あの笑顔がトレードマークみたいな人が……)

 信じがたい。
 でも前に国王陛下が訪問してきた時も何か意味深な話題が挙がったし……

「ですが、私はランス様と出会って少しずつソフィア様が変わっていっているような気がするのです」

「俺との出会いがソフィアを?」

「そうです。お二人はこの短い時間の中でかなり親睦を深めていらっしゃる。ソフィア様もちょっとずつですが、前のソフィア様に戻りつつある。単純にお二人はお似合いなんだと思います」

 お似合いか……

 でも俺とソフィアはまず身分の上の差がある。
 今はソフィアに冒険者のことについて教えるという大義名分があるから、この生活があるけど……

(もしそれが必要なくなったら、俺は……俺たちはどうなるのだろう)

 また普段通りに平民と王族の関係に戻り、リセットさせるのか。

 あるいは……

「あ、あの……! アリシアさん!」

「はい?」

「その……教えていただけませんか? ソフィアの――」

「わたしがどうかされました?」

「ことに……ってソフィア!?」

 いつの間に隣にいるソフィア。
 驚きで思わず声が裏返ってしまう。

「い、いつからそこに……?」

「ほんの数秒前ですけど……アリシアと何を話されていたのですか?」

「い、いや……ただの世間話だ。ね、アリシアさん?」

 と、アリシアさんのいた場所を見るが……

「あ、あれ? アリシアさん……?」

 もうそこには姿はなかった。
 確かにさっきまでそこにいたはずなのに……

「アリシアならさっき少し席を外しますと言って浴室から出て行きましたよ」

「そ、そうか……」

 いつの間に……

(ソフィアのことを聞けるチャンスだと思ったのにな……)

 前に聞けなかったから、どこかしらで聞きたいと思っていた。
 だが今回もそれはお預けのようだ。

「あの……ランス?」

「ん、どうした?」

「そ、その……えっと……」

 ソフィアは言い出せないのか言葉を詰まらせる。

 だが少し様子が変だった。
 何故か顔を真っ赤にしてふらふらと辛そうにしていたのだ。

「お、おい大丈夫かソフィア? 顔真っ赤だぞ?」

「だ、だいじょうぶです……これくら……い……………」

 バシャン!

 突然。
 大きな水しぶきを上げてソフィアが倒れ込んでしまう。
 
「そ、ソフィア!?」

「ソフィアちゃん!?」

 後から水をかき分け走ってきたさすがのイリアも驚きの表情。
 俺もいきなりのことで動揺を隠すことができなかった。

「と、とりあえず浴室から外に運び出そう。手伝ってくれ、イリア!」

「わ、分かった!」

 不安で手が震えながらも。
 俺とイリアはソフィアを救出するため、行動に移るのだった。
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