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37.どうしてこうなった?

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 どうしてこうなった?

 俺の脳内にはただこの言葉だけがグルグルと回転していた。
 
 場所は自室から変わって浴室前の更衣室。
 俺は今、そこである人物たちを待っていた。

「おっまたせ~~~!」

「どうも……です」

 バタンと扉が開き、更衣室内に入ってきたのは二つの華。
 イリアとソフィアだ。

 二人とも可憐な水着姿で更衣室に登場する。
 そしてこの俺も今、水着を着用していた。

 もちろん、風呂に入るためだけに。

(ま、マジなのか、これ……)

 なぜ、こんなことになったのか。
 それはざっと数十分前に遡る。


 ♦


 ――ねぇランス、一緒にお風呂入らない?

 全ての発端はこの一言から始まった。

「お、お前……それ本気で言っているのか?」

「うん、本気だけど」

 真顔でそう話すイリア。
 普通なら異性相手に平然とした顔して言えるようなことじゃない。
 
 ストレートに混浴しようって言っているんだぞ? 

 あり得ない、というか正気の沙汰ではない。
 
「い、イリア……お前熱でもあるんじゃないか?」

「なんで?」

「そ、そりゃいきなり異性に向かって一緒に風呂に入ろうだなんて……普通は言わないぞ?」

「あ、そうなんだ。わたしは結構普通だと思ってたから……」

「ふ、普通!?」

 なんだ? この子って結構なプレイガールなのか?
 普通ってことは今までもそういうことをしてきたってことだよな?

(ま、まさかの痴女だったり……!?)

 次々と連想するイリアの人物像。
 まだほとんど妄想みたいなものだが、これだけ直球で言われたらそう思わざるおえない。

「ま、まぁイリアにとっては普通かもしれないけど、流石にお風呂はちょっと……」

 と、あたふたとする俺を見てイリアは何かを感じ取ったのか、

「あの、何か勘違いしてない?」

「え、勘違い?」

「うん。確かにさっき一緒にお風呂に入ろうって言ったけど、裸で入るわけじゃないんだよ?」

「……え、違うの?」

 まさかの事実。
 でもどうやらそれは本当のようで……

「そんなわけないよ! 帝国ではお風呂って水着か着衣のまま入るんだよ。もちろん、家でも外でもね。だから帝国内のある温泉や浴場は基本的に混浴になってるんだ」

「ま、マジか……じゃあ男湯とか女湯とかっていう区別自体がないってこと?」

「そういうこと。あ、でもこればっかりは王国と帝国の文化の違いだから勘違いしても仕方ないか」

 知らなかった。
 風呂に何かを着たまま入るのがスタンダードだったなんて……。

 そりゃあ真顔でお風呂入ろって言えるわけだ。

(いや、でもよくよく考えたらそれでもちょっとあれだと思うけど……)

「で、どう? お近づきの記しに」

「ま、まぁ……そういうことなら」

 と、返事をしたことで着衣風呂に入ることが決まった。
 
 のだが……

「今のお話、お聞きいたしました!」

「あ、アリシアさん!? いつの間にそこに……」

「よ、よければわたしもご一緒してもよろしいでしょうか?」

「そ、ソフィアまで!?」

 またも現れるメイド長のアリシアさん。
 そして何故かソフィアも。

 てかさっき部屋から消えていったばかりなのに、なぜ……

「細かいことはいいのですよ、ランス様。それよりも水着が必要とのことで?」

「あ、はい。でも、もしなければ服のままでも大丈夫です」

「いえ、ご心配なさらず。こういうこともあろうかと水着は用意してありました」

「こ、こういうこともって……」

 どういうことだよ。
 
(てか用意周到だな、おい!)

 色々とツッコミを入れたいところだが、疲れそうなので抑える。

「そういうことなら心配なしだね。じゃあ、早速みんなでお風呂入りにいこっ!」

 と、こんな経緯があってみんなでお風呂に入ることになったのである。


 ♦


 そしてあれから時は進んで更衣室内。
 水着姿の二人が入ってきたところに話は巻き戻る。

「どう、ランス。可愛い?」

「あ、ああ……可愛いんじゃないか?」

「なんで疑問調なのよ。じゃあ、ソフィアちゃんのは?」

「え、ちょっ……イリアさん!?」

 と、言ってイリアは俺の目の前にソフィアをドンと持って来る。

「あ、あの……ランス。この水着は……」

「あ、いや……」

 あまりジロジロ見るべきではないと思い、逸らしていたが、かなりきわどい水着だった。
 王女様にこんなの着せて大丈夫なのかと思うほど露出多めの水着。

 ただでさえ露出が多いのにソフィアのはさらに攻めていた。

「あ、あんまり見ないでください。恥ずかしいので……」

「わ、悪い!」

「ん~やっぱりそっちの方が反応いいかぁ~やっぱりわたしのチョイスは間違っていなかったようだね。わたしも同じのを着れば良かったよ」

「いや、決めたのお前かよ!」

 と、その時。
 コンコンとノックする音と共に扉が開き、中に入って来る人物が。

「お待たせいたしました。皆さま」

「おお、すっごいナイスボディー!!」

「あ、アリシアさん!? アリシアさんも入るんですか!?」

 中に入ってきたのはまたもアリシアさん。 
 しかも今度はまさかの水着姿でのご登場である。

「わたしもイリア様にお誘いを頂きまして。本来なら使用人が一緒に湯船を共にするのは良からぬことなのですが、今回は混浴とのことなので……」

「何か起きないように監視を……ってところですか?」

「そんなところです。まぁ本音を言えばソフィア様の水着姿を拝むのが目的……おっと、失礼。何でもないです」

 ……いや、思いっきり言ってたし。誤魔化せてないし。

 でもこのメンツは……色々とマズイ気が……

「さぁ、みんな揃ったところで早速入ろう!」

 ルンルン気分で浴室内に入っていくイリア。
 続いてアリシアさんも中へと入って行った。

(行くしか……ないか)

 別に水着とはいえ布一枚来ているんだ。
 見えてはいけないところも見えてないし、大丈夫。

 ギリ、大丈夫だ!

「い、行こうか……ソフィア」

「は、はい……」
 
 ソフィアも恥ずかしいのかかなり顔を真っ赤にし、身体を覆うように手で隠していた。
 ま、ソフィアの水着に関しては俺も目のやり場に困っている。

 極力見ないようにしないと。

(はぁ……もう頭の中、滅茶苦茶だよ……)

 これから起ころうとする出来事にただただ困惑するランスであった。
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