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29.再び王都へ

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 翌朝。
 俺たちは屋敷の近くにある平原地帯で魔法の練習をしていた。

「はあっ!」

 ソフィアから繰り出される魔法。
 最近は朝鍛錬が習慣になっており、おかげさまで毎朝が早起きだ。

 というのも朝は一番人が集中できる時間帯だと言われているので、特に集中を必要とする魔法の練習には適したから。

 俺も前の晩に学んだことはすぐに翌朝で試してみるという日常を送っていたので、朝鍛錬の有用さはよく分かっている。

 本当に集中して魔法に打ち込むことができるのだ。

「どうでしょうか? 上手くできていましたか?」

「ああ、バッチリだ。もう完全にモノにしたな!」

 最初の時に比べ、ソフィアは見違えるほど成長した。
 今ではもう一部の魔法を無詠唱で出せるほどに。

 レッドウルフの時も思ったが、改めてソフィアの才能には驚かされる。

「やっぱソフィアはすごいよ。ほんの数カ月でここまで成果が出せるなんて」

「そんなことないです! これも全てランスが丁寧に教えてくれたからこそ、会得できたものです。わたしだけじゃ絶対に無理なことでした」

「そんなことはないさ。俺はただ自分の経験を言っているだけ。それを吸収し、自分のものにできているのは紛れもなくソフィアの才能だよ」

「お、大袈裟です……」

 照れくさそうに目線を反らすソフィア。

 ホント、その吸収力を分けてほしいくらいだ。
 俺が結構な時間をかけてやってきたことをほんの数日でやってのけてしまうのだから。

「ランス、次は何をすればいいんですか?」

「う~ん、そうだなぁ……」

 もう魔法の基礎という基礎はほぼ全て叩きこんだ。
 後は回数をこなして応用する力を身につけ、自分なりの感覚やタイミングを見つけて伸ばしていくだけ。

 正直、俺から口頭で教えられることなんてもうなかった。

(あとは実戦あるのみだが……)

「あっ、そうだ。ソフィアに一つ言ってなかったことがあったんだ」

「言ってなかったこと……?」

 そういえばと思いつく。
 それは一昨日の晩にあった出来事。

 パーティーに勧誘されたことについてだ。

「えっ、パーティーに勧誘されたんですか!?」

「うん。A級冒険者のリベルって男の人にね」

 あの時のソフィアは完全にご臨終状態だったので、当然覚えてなかった。
 俺はソフィアにその時にあったことを事細かく説明した。

「そういうことだったんですか……私が酒に酔っていた時に……」

「その時はもちろん、保留の返事をしておいた。ソフィアの意見も聞かないとって思ったからさ」

「ご、ごめんなさい……」

「い、いや謝るようなことじゃないよ。仕方のないことだし……」
 
 むしろこうしてゆっくりと話す時間が出来たので良かったくらい。
 他人のパーティーに入るって結構勇気のいる行為だからな。

 何せ元々関係が出来ている場に入っていくのだから。

(俺はその関係に入っていくことすら許されなかったわけだけど……)

 それにあの時はソフィアが寝ていたからか俺一人がパーティーに誘われた。
 でも、もし俺一人を勧誘したいだけなら断るつもりだ。

 入る条件を提示するならソフィアも一緒ってのが絶対条件になる。

 そういうところもしっかりと話しておきたいってのもあった。
 
「ソフィアはどう思う? 俺以外の冒険者と組むってことは」

「わ、わたしは大丈夫です。いずれ人々を知るためには他の人とも交流していかないといけませんし……」

 ああ、そうだった。
 ソフィアが冒険者をしていたのはこれから自分が統治することになる民の事を深く知るためだったっけ。

 魔法のことに夢中になっていてすっかり忘れていた。

(だとすればパーティーを組むってはいい経験になるかもな。複数人の仲間がいる環境で実戦を行うことで協調性や冷静な分析力も身につけられるだろうし……)
 
 まぁ、それは俺も同じことなんだが……。

「じゃあ、とりあえず話くらい聞いてみるか?」

「聞けるのですか?」

「連絡先を貰っているから可能だ。ただ、行くとすれば夜になってしまうが……」

「大丈夫です。行きましょう、ランス!」

 どうやらソフィアはパーティー加入に賛成みたい。
 でも一応細かな話を聞いてから慎重に決断をした方がいい。

 もしかすれば悪なことばっかりをやっているブラックパーティーかもしれないしな。

(たまーにあるんだよなぁ……超グレーゾーンな活動をしているパーティーが)

 もしそうならそんな危険な場所にソフィアを入れるわけにはいかない。
 
 でもソフィアの目的のためには出来る限り前向きに検討したい。
 
「それじゃあ、夜に訪問してみるか。話によればほぼ毎日同じ酒場で飲んでいるらしいからな」

「分かりました。じゃあ、夜までに準備しておきますね」

「おう! じゃ、今日の鍛錬はここまでにして屋敷に戻ろう。動いたら腹減った」

「はい! わたしもお腹空きました!」

 何事もない平和な日常。
 俺たちは天高々と上がる日の出を背景に、屋敷へと戻る。

 だがこの時の二人はまだ知らなかった。
 自分たちのもとに魔の手が伸びようとしているということを……。
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