上 下
24 / 160

24.呼び出しをくらいました

しおりを挟む

 次の日の早朝。
 俺はある場所へと出かけるべく、準備をしていた。

「あぁ~眠いなぁ~」

 気の抜けた声を出しながら洗面室へ。

 洗顔して濡れた顔をタオルで吹き取り、寝間着を脱ぐ。
 そして防具などを一式着て冒険者スタイルに。

「でもまさか呼び出しをくらうなんて……俺なんかしたっけかな」

 昨日の夜。
 俺はアリシアさんから俺宛ての手紙を受け取った。

 差出人はドロイドギルドマスター。
 内容は今日の早朝にギルドまで来てほしいとの通達だった。

 特に長ったらしい文章はなく、ただその一言だけ。

 余計な文章はなく、端的な内容だった。

(いきなり来いと言われてもなぁ……)

 せめて簡単な理由くらいは書いてほしかった。
 
 おかげさまで昨日の夜から不安で眠れなかった。
 何かしたんじゃないかって思って。

「はぁ……不安だなぁ……」

 そう思いながら玄関先へ。
 すると、

「あっ、ランス。お出かけですか?」

「あ、おはようソフィア」

「おはようございます。あの……昨日はご迷惑をおかけしたみたいで本当にごめんなさい」

 頭を下げ、真っ先に謝ってきたのは昨日での出来事だった。

「気にするな。それよりも頭とか身体に痛みはないか?」

「い、いえ……それは大丈夫です」

 どうやら例のイケメンから貰った薬が効いたみたいだ。
 一応帰りに少量だけ飲ませてみたが、何とか二日酔いは回避できた様子。
 
 だが本人曰く、昨日の記憶が全くないとのことで……

「あ、あの……ランス。わたし、昨日何か変なことをしませんでしたか?」

「変なこと?」

「は、はい……」

「いや、別に何もなかったが、なんでそう思うんだ?」

「な、何となくそんな気がして……」

 まぁ変なことではなく、荒ぶってはいたけどね。

 流石に本人に言わないが。
 当の本人は自覚なしみたいだからな。

 でも……

「ソフィア。一つだけいいか?」

「は、はい。何でしょうか?」

「その……お酒は程々にな。飲み過ぎは厳禁だぞ」

 ソフィアに伝えるべきこと。
 それはお酒を飲むなということではなく、抑制してもらうことだ。

 実際、昨日の出来事の原因は飲み過ぎによるもの。
 抑制さえしてくれれば、別に構わない。

 アリシアさんも適度に飲むくらいなら大丈夫だって言ってたし。

 だがソフィアは今の言葉で何かを察したようで、

「や、やっぱりわたし何か……」

 したのかと言わんばかりに表情を曇らせる。
 
「大丈夫だ。ソフィアは何もしていない。気にし過ぎだよ」

「そ、そうでしょうか……?」

 多分、記憶の片隅に昨日の出来事がうっすらとあるのだろう。
 
 俗に言うあれだ。

 我に返った時にあまりの恥ずかしさに悶絶するやつ。

 だから俺としては思い出してほしくない。
 時には思い出さなくていいこともあるのだ。

「わ、悪いソフィア。俺そろそろ行かないと」

「あ、はい。すみません、呼び止めてしまって。ところでどちらに行かれるのですか?」

「ちょっと王都にな。昼までには帰って来る予定だ」

「分かりました。お気をつけて」

「ありがとう。んじゃ、行ってくるわ」

 そういうと俺は玄関を飛び出し、王都へと向かった。

 だがその後の事。
 ランスを見送った後、ソフィアは深く溜息を漏らしながら、
 
「はぁ……でもなんか引っかかることがあるんですよね。なんかこう……物凄く恥ずかしいことをしてしまったような……」

 頭の隅にある確かな記憶。
 かなり不透明だが、彼女にとってはこびりついて離れなかった。

「気のせい……ですかね」

 いくら思い出そうとも中々出てこない。
 ソフィアは振り返ると、

「考えても仕方ないですね。それよりも復習の続きをしなくては!」

 よりランスに貢献できるように、彼に近づけるように。
 まだまだ発展途上の少女はそんな想いを抱きながらも、自室へ戻って勉学に励むのであった。


 ♦


 そんな中、ランスはというと……

「えーっと、確か受付のお姉さんに名前を言えば通してくれるんだったな」

 早朝のギルド本部に足を運んでいた。
 
 手紙によれば受付で自分の名前を言うとある場所まで案内されるとのこと。

 俺はすぐに受付へと向かった。

「すみません。ギルドマスターのドロイドさんにここへ来るように呼ばれたものですが……」

「お名前をお教え願えますか?」

「ランス・ベルグランドです」

 そういうと受付のお姉さんは何やらデッカイ名簿を取り出すと、何かを調べ始めた。
 そして一度席を立ち、もう一人の受付嬢の方へ行くと、

「ランス様ですね? マスタールームにてギルドマスターがお待ちです。ご案内させていただきます」

 もう一人の受付のお姉さんが案内してくれることに。
 
(てかギルマスの部屋ってマスタールームっていうんだ……)

 そんなことを思いながらも、受付のお姉さんの案内の元、本部の上の階層へ。

 普段、本部の上の階層は認可を受けたものしか入れないことになっている。
 
 冒険者たちが使えるフロアは主に下階層でそれより上は許可が必要なのだ。

 で、俺が今から行こうとしているのは本部の最上階に位置するマスタールーム。

 受付のお姉さん曰く、関係者でも滅多に入れない場所らしい。
 
「……こちらになります」

「こ、ここが……」

 エレベーターを降りると、目の前に現れたのは豪勢な装飾が施された大扉。
 もう扉だけで、VIP感が漂ってくる。

「中でギルドマスターがお待ちになっております。ご準備はよろしいですか?」

「は、はい……大丈夫です」

 そういうと受付のお姉さんは扉を三回ノックし、

「マスタードロイド、ランス・ベルグランド様がお見えになりました」

『……入れて構わないですよ』

 部屋の中から声が。
 どうやら入室の許可は取れたようで……

「失礼いたします」

 受付のお姉さんはそっと扉を開扉。
 半分くらい開けたところで一旦止めると、俺に中へ入るよう頭を下げて、指示をしてくる。

「し、失礼します!」

 少し緊張しながら豪勢な扉を潜って部屋の中へ。
 すると、内部は全面ガラス張りで360°王都の絶景が見える仕様になっていた。

(な、なんだこりゃ……)

 まさに圧倒的。
 まるで別世界にいるかのような空間に思わず息を飲む。

 そして、この空間の一番最奥にあるチェアには背中を向け、座る人物が。

 その人物はゆっくりと立ち上がると、俺の方へと視線を向けてきた。

「一昨日ぶりですね、ランスくん」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。 しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。 宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。 「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」  悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。 ————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。

独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下
ファンタジー
 鍛冶師ハルクは幼い時から、道具作りが好きな青年。だが独裁的な国王によって、不本意な戦争武器ばかり作らされてきた。  そんなある日、ハルクは国王によって国外追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、生きていくために隣の小国で冒険者になる。だが多くの冒険者が「生産職のクセに冒険者とか、馬鹿か!」と嘲笑してきた。  しかし人々は知らなかった。実はハルクが地上でただ一人《鍛冶女神の加護》を有することを。彼が真心込めて作り出す道具と武具は地味だが、全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。それを知らずに追放した独裁王国は衰退していく。  これはモノ作りが好きな純粋な青年が、色んな人たちを助けて認められ、《超伝説級》武具道具で活躍していく物語である。「えっ…聖剣? いえ、これは普通の短剣ですが、どうかしましたか?」

処理中です...