上 下
21 / 160

21.祝杯

しおりを挟む

 ということで、例の酒場へとやってきました。

「「かんぱーいっ!」」

 ジョッキをぶつけ、初クエストクリアを祝う。
 時間もちょうど夕暮れ時になり、あの時は閑古鳥がないていた酒場も今では沢山の人たちで賑わっていた。

 今は馴れ馴れしく接してしまっているが、相手は一国の姫君。
 やはり格式の高いお店がいいかなと最初は思ったが、ソフィアが大衆酒場の方がいいというので初めて会話した時に使ったこの場所となった。

「ぷはーっ! やっぱここのグレープジュースは最高だな!」

 身体に溜まった疲れが少しずつ消えていく。
 初めてクエストをやりっきった感じがあった。

(今まではクエストと呼べるほどのことをしてこなかったからな)

 それに今回のクエスト報酬だけでいつもやっていたクエストの10回分に相当するっていう……

 今までどれだけ割に合わないことをやってきたかがよく分かった。

 対してソフィアも見た目に似合わず良い飲みっぷり。
 一回でジョッキに注がれた飲み物を飲み干してしまった。

「ぷはーっ! 久しぶりにお酒を飲みましたが、やはり美味しいです」

「あれ? さっきのってお酒だったの?」

「はい。カルア酒という地方酒だそうです」
 
(え? ってことはソフィアって……)

 俺はまさかと思い、ある質問を飛ばしてみることに。

「あ、あの……ソフィア」

「はい?」

「今更なんだけど、ソフィアって歳はいくつなの?」

「今年で20になりました。あれ? 言ってませんでしたか?」

「は、初耳です。それ……」
 
 ってことはソフィアは俺より年上ということか。

 今更だが、俺は彼女の歳を聞いたことがなかった。
 見た目だけで判断していたから、同い年か少し下かと思っていた。

(あ、でもそういえば王城に行く時にアルバートさんがソフィアに仕えてから20年が経つって言ってたよな……)
 
 逆にソフィアは俺の歳を知っているみたいだった。

「ま、まさか年上だったなんて……すみません、なんか偉そうにしてしまって」

「ぜ、全然大丈夫ですよ! 気にしないでください! 確かに見た目だけだと幼く見えるので仕方ないです。よく城内で開かれるパーティーとかでも子供と間違われたりしますし……」

 ソフィアは息をつく間もなく続けた。

「それに、ランスにはいつも通り気兼ねなく接していただきたいです。その方が、その……落ち着くというか……」

「落ち着く?」

 最後の言葉が聞き取れなかったので再度聞いてみると、ソフィアは顔を赤くし、

「い、いえ! 何でもありません。と、とにかくランスには今まで通りに接していただきたいということです!」

「お、おう……分かった」

 勢いよく身を乗り出しながらそう訴えてくる。
 なんか結構険しい顔を向けながら。
 
 俺、なんかしたかな?

「お待たせしました~~~!」

 と、ここで予め注文していた料理が一斉にテーブルの上に。
 少し大きめのテーブルに所狭しと並べられる。

 どれもおいしそうで腹ペコだった俺たちの目線は一気に料理の方へ向いた。

「うおっ、めっちゃうまそう!」

「ですね! あ、すみません。カルア酒、もう3杯追加でお願いします」

「かしこまりました~~~!」

 ソフィアは何の躊躇もなくお酒を3杯追加する。
 もしかして結構お酒強かったりするのか……?

「け、結構飲むんだね……」

「はい! 実はお酒は成人の儀以来飲んでいなくて、沢山飲もうとしたら何故か途中でお父様に止められてしまったのであまり飲めなかったんです。なので今日は一杯飲もうと!」

「そ、そうか。未成年の俺が言うのもあれだけど、ほどほどにな」

「大丈夫です! 加減はできる方だと思うので!」

(だといいけど……)

 お酒って人を変える力があるからなぁ……。
 特にうちの両親とかそうだったし……。

(ま、でも今日は宴なんだ。そこまで気にする必要はないか)

 と、そんなわけで俺たちの宴は盛大に始まったのであった。
 

 ……のだが。


「……ねぇランスぅ~どうして君はそんなにつよいのぉ~~?」

「そ、ソフィア?」

 宴が始まって約1時間とちょっと経ったとき。
 事件は起こった。

 ソフィアの様子が酔によって一変したのである。

「お姉さん、お酒ぇ~!」

「は、はい……かしこまりました」

 ウエイトレスのお姉さんも少し引き気味に答える。
 何とこれで驚異の20杯目なのだ。

「ソフィア、流石に飲みすぎじゃ……」

「まだいけるよぉ~(ひっく)。疲れを癒やすにはまだ足りないの~(ひっく)」

 ……どう見ても酔っているよな、これ。

 しかもかなりの悪酔い。

「で、でもこれ以上飲むと明日に響くし……今日はもうこれくらいで――」

「やぁーだっ! もっと飲むの!」
 
 ソフィアは言葉を遮り、即否定。
 しゃっくりをしながらジョッキを机に叩きつける。

(ま、まるで別人だ……)

 思考回路がざっと-10歳減と言ったところか。

 普段のソフィアとは全くといって良いほど気品がない。
 口調もなんだか一気に子供っぽくなったし……。

 国王陛下が止めた理由がよく分かった。
 
 そして同時に理解した。
 この人はお酒を与えてはいけない人だということを。

「ランスぅ~お酒ぇ~」
 
 マズイ。
 俺の中にあるソフィアの人物像がどんどん崩れ去っていく。

(これは早いところ、連れ帰った方が良さそうだな……)

 でもどうやって?
 
 今のままじゃ、どんどん酷くなるばかりだし……

 そう思っていたその時だ。

「お困りのようですね、お兄さん」

 背後から聞こえてくる誰かの声。
 振り向くとそこには、さらりとした金色の髪を持ったイケメンが立っていた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...