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18.クエストを受けよう

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「とうちゃーく!」

「やっぱり人が多いですね……」

「職業別の人口ではナンバーワンだからな、冒険者は」

 というわけでギルド本部にやってきました。
 今日も本部は人で一杯!

 検査日はもう終わっているため、その時ほど人で溢れているわけではないが、流石は本部。
 それなりの人口密度である。

 と、その時だ。

「――おい、あれ……」

「――お、Gのランスじゃねぇか。連れがいるなんて珍しいな」

「――ああ。でもそれより、イェーガーウルフを倒したってのは本当なのか? 昨日の酒の席でもその話で持ち切りだったが、未だに信じられないな」

「――同意見だ。でもギルドは公式に認定したんだろ? 噂によればギルドマスターが直々に認定したらしいじゃんか」

「――ま、マジかよそれ! ってことはやっぱり……」

 あちらこちらからヒソヒソ聞こえてくる会話。
 内容はもう言わずもがな先の魔物騒動について。

 実はもう既にギルドマスターからギルド本部に今回の騒動についての詳細が伝えられているらしい。
 もちろん、俺が倒したっていう記録も全て。

 どっから漏れたのかは知らないけど。

「ごめんな、ソフィア。少し視線が……」

「い、いえ……わたしは大丈夫です」

 とはいってもソフィアは完全お忍びで冒険者をやっている。
 知っているのはギルドマスター含め、一部のギルド職員のみ。

 当の本人は最悪バレてもいいかなって言っているが、隠し通せるならその方が良い。

(あまりここで注目を浴びるのは宜しくないな)

「ソフィア、少し人目を避けるぞ」

「えっ、あ、はい」

 一旦、俺たちはひとけの少ない所に移動。
 俺も黒のマントをうまい具合に使って顔を隠すことに。

「ところでソフィア。クエストの受け方とかはもう分かっているんだよな?」

「はい、大丈夫です。あとクエスト後の報告の仕方や報酬の受け取り方も分かっています! この冒険者ブックのおかげですけど」

「ぼ、冒険者ブック! 懐かしいな、それ!」

 説明しよう。
 冒険者ブックとは冒険者登録されたその日に貰える初心者用ガイドブックのことである。

 クエストの受け方やその後の処理まではびっちり書かれており、右も左も分からない初心冒険者のお助けアイテムになっている。

 が、本当に基礎の基礎しか書いていないのでこれ一冊あれば完璧! というほどではない。

 あくまで何にも分からない人向けのアイテムなので本自体もかなり薄いし、文量もそこまでない。

 ちなみに俺はこの冒険者ブック、渡されたその日に無くしました!

 というか無くす前から見ること自体が面倒で開いてすらいない。

 しかしながら、ソフィアはこのガイドブックを余すところなく読破したようで、基礎を説明する必要はないご様子。

(流石はソフィアだ。マジメだなぁ……)

 勉強嫌いな俺にとっては厳しいものがあった。
 学生時代も勉強が嫌過ぎて毎朝白目剥きながら登校していたのを思い出す。

(ま、そんなことはどうでもいい。とりあえずは……)

「なら、早速掲示板観覧に行きますか」

 俺はソフィアを連れてクエスト掲示板の方へ。
 
 冒険者ギルドでのクエスト受注方法は万国共通だ。
 どこのギルドにもクエスト掲示板というものがあり、依頼が送られてくると、その掲示板に張り出される。

 冒険者はこの掲示板から受注したいクエストの依頼書を持ち出し、受付で認可を取り、許可が下りれば受注完了となる。

 クエストランクもS帯からG帯まであり、自身の等級を越えるクエストを受注することは基本出来ない。
 例えばAランク帯の冒険者はAからGまでのクエストは受けられるが、S帯のクエストは明確な理由がない限り不可能というわけ。

 理由さえあればいいというのは冒険者法だか何だかよく分からない法規に当てはまっている場合にのみ適用されるということらしい。

 ちなみにこれはあくまでソロであった場合の話。

 二人以上のパーティーの場合は少し勝手が違う。
 
「う~ん、どれを受けるか」

「そうだな~とりあえずソフィアと同じランク帯までなら何でも受けられるから好きなのを選ぶといいよ」

「わ、分かりました!」

 そう、実は冒険者の制度には少し裏がある。

 それはパーティーの場合に限り、下位のランクでも上位のランクのクエスト受けることができるという特別な制度。

 例えば、パーティー内にAランクがいて他の人間がBランク帯でもギルドから許可さえ下りればクエストを受注することが可能ということ。

 ただ、それは許可が下りて初めて成立する話になる。

 ソフィアの総合等級はBになるため、許可が下りればBランクのクエストをGランクの俺でも受けることができるわけだ。

「えーっと……じゃあこれにしようかな」

 と、ソフィアが一枚の依頼書を掲示板から剥がし、手に取った。

「なになに……レッドウルフの討伐か」

 ソフィアが手に取った依頼書はCランククエスト。
 内容はレッドウルフの群れの討伐だった。

 レッドウルフとはその名の通り、赤い毛皮を持ったモンスターで種族別だと狼族に当たる。
 ちなみにイェーガーウルフも狼族だが、あれは魔物化した少々特殊な存在。

 レッドウルフは魔物化していないため魔物ではなく、モンスターに分類される。

「どうでしょうか? ランス」

「いいんじゃないか。レッドウルフは魔法耐性の強いモンスターだから魔法の練習にも最適だしな」

「じゃあ、これにします!」

 ということで受注するクエストは決まった。
 
 後は許可が下りれば――

「はい、問題ありません」

「即答!?」

「やったぁ! これでクエストを受けることができますね!」

 受付に持って行った途端、受付のお姉さんは何も確認することなく許可を出してくれた。
 本来ならば本人確認とちょっとした検査が入るはずなのに……

「え、えーっと本当にいいですか?」

「はい。一応ギルドマスターからGランク冒険者のランス・ベルグランド様だけはどのクエストも通していいとお達しが来ているので」

「ま、マジですか……」
 
 どのクエストってことはSランククエストもOKってことなのか?

 聞いていないぞ、そんな話!

「ら、ランス……? どうかしました?」

「い、いや……何でもない」

(ま、とりあえず許可は下りたのでよしとしよう)

 俺たちは受付で必要な手続きを済ませ、受注を完了させた。

「はい、これで受注は完了となります。クエスト達成次第、24時間以内に再度受付へとお申し出くださいませ。クエストの途中破棄はキャンセル代金を頂戴致しますのでご了承を」

 受付のお姉さんは注意事項をさらっと説明すると、認印を押した依頼書を渡してくる。

「では、ご武運をお祈り申し上げます」

「ありがとうございます。じゃ、行くか!」

「はい!」

 こうして。
 俺とソフィアの初クエストは幕を開けたのだった。
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