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第36話:粛正
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~一章最終話になります~
「そろそろイブリス陛下がおいでになられる。決して無礼のなきようにお願いしたい」
魔王軍兵の声が会議室内にこだまする。
その場にはガーゴイル、ヴァンパイア両部族の族長を初めとする有識者や軍の幹部までもが姿をみせていた。
『族長、万一の場合に備えてこれを』
『転移用マジックアイテムか……だがお主たちは』
『我々なら大丈夫です。とにかく族長だけはご無事でなければ族の者たちに大きな影響を及ぼします』
ガーゴイル側陣営のイービルのガンドレイがヒソヒソと会話をし始める。
だがヴァンパイア側の族長と周りの有識者は何もせずただイブリスの到着を待つばかりだった。
♦
「では魔王様、準備はよろしいでしょうか?」
「ああ、いつでも構わない」
表にいた軍兵に頷くと、会議室の扉をゆっくりと開扉させる。
「ではゆくぞグシオンよ」
「はい、仰せのままに」
ゆっくりと中へと入って行く。
「魔王様!」
「大魔王イブリス殿、お久しぶりで御座います」
口々に自分の名を口にする両部族の有識者たち。
俺は簡単な会釈だけ済ませ、一番最奥にある上座に座する。
「……では、主役は皆集まったな」
本題に入る前に周りをよく見渡して全員がいることを確認する。
「よし。ではこれよりヴァンパイア族、ガーゴイル族による緊急条約会議を執り行う!」
静寂に満ちた中、条約会議は幕を開けた。
♦
―――それから数時間後
「お疲れ様です魔王様」
「ああ、グシオンも良い働きをしてくれた感謝する」
「いえ、それが我々のやるべきことですから」
条約会議は滞りなく進んだ。両族も和解に向けた会議を後日行うという顛末で事は終幕を迎えた。
後は……
「魔王様」
「ああ、後は頼む」
「はい、お任せを」
条約会議は終わった。だがまだ彼らに対する制裁は終わっていない。
穏便な幕引きをしたとはいえ彼らは支配者たる我々に牙を向けたことに変わりはない。
彼らにも分かっているはずだ。このままで終わるはずがないと。
「仕方のないことなのだ」
支配する者とされる者。世の中はこの二つの立場があるから成り立っている。
当然、支配者されるものが刃向かえばそれ相応の罰がくだる。
そして今がまさにその時。
魔界を統べる王としての責務は果たさなければならない。
そうしないと他の魔界の住人に示しがつかないのだ。
「―――あまり殺しはしたくはないが……」
支配者である以上そんな甘いことは言っていられない。
滅ぼさなくとも楯突いた分だけの血は流してもらわなければならない。
そう、それが……
「粛正だ」
二度と同じことが起きないよう、厳しく取り締まるのも仕事のうち。
俺は魔王である以上やるべきことを成さねばならない。歴代の魔王がそうしてきたように。
「最後によいか、グシオンよ」
「はい、なんでしょうか?」
去ろうとするグシオンに一声。
その声に反応し、すぐに振り向く。
「あまり苦しめないように殺すんだ。それを守ってもらえるなら後はお前の好きにしてよい」
「おぉ……なんと慈悲深い。あんな下等魔族に苦しめずに殺せとおっしゃるとは」
「お、おぅ……」
グシオンは誰よりも魔王である俺に忠実だ。指示を下せばなんでも注文通りに事をこなしてくれる。
ただ、何も言わなければ大体残虐に事を済ませて帰ってくるため、幹部連中の中では一番残忍なやり方で解決させることに手慣れている。
よっぽど彼の方が魔王っぽい。
「分かったか? 頼んだぞ」
「はい、承りました。では……」
グシオンは胸に手を添え、一礼すると早足で去っていった。
ホント、忠実だよなぁグシオンは。
「感心するよ、本当に」
自分は魔王の器には程遠い。だが魔王になる資格を持った血が流れている以上跡目を避けることはできない。
「血の盟約……ねぇ」
実際グシオンのような有能な魔族が支配者になるべきなのだろう。
なんか劣等感が強くなる。
「ま、今は俺にできることをするのが先だな」
どうやらリリンは任務を終え、先に人間界へと戻ったようだ。
「俺も早く戻ろう……」
かれこれもう一週間以上学園を休んでしまった。
これ以上休むと出席率に影響が出でしまう。
(一年目から留年なんてごめんだ)
後の仕事と魔界の警備や幹部連中と近衛兵たちに任せるとする。
「一応、全員にメッセージをと」
予め用意しておいた手書きのメッセージを近くの近衛兵に渡す。
「よし、これで帰れる」
俺は再び人間界に適応した容姿に変え、魔王城の地下にある異世界に繋がったワープゾーンへと向かう。
「みんなにはなんて言い訳しようか……」
そう呟き、ワープゾーンの中へと入っていく。
まぁ、適当に言っておけばなんとかなるか。
こうして、俺は再びイブリス・エルタードとしての学園生活へと戻るのであった。
※
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。続きはまだ未定ですが、書ければ書きたいなと思っています。
「そろそろイブリス陛下がおいでになられる。決して無礼のなきようにお願いしたい」
魔王軍兵の声が会議室内にこだまする。
その場にはガーゴイル、ヴァンパイア両部族の族長を初めとする有識者や軍の幹部までもが姿をみせていた。
『族長、万一の場合に備えてこれを』
『転移用マジックアイテムか……だがお主たちは』
『我々なら大丈夫です。とにかく族長だけはご無事でなければ族の者たちに大きな影響を及ぼします』
ガーゴイル側陣営のイービルのガンドレイがヒソヒソと会話をし始める。
だがヴァンパイア側の族長と周りの有識者は何もせずただイブリスの到着を待つばかりだった。
♦
「では魔王様、準備はよろしいでしょうか?」
「ああ、いつでも構わない」
表にいた軍兵に頷くと、会議室の扉をゆっくりと開扉させる。
「ではゆくぞグシオンよ」
「はい、仰せのままに」
ゆっくりと中へと入って行く。
「魔王様!」
「大魔王イブリス殿、お久しぶりで御座います」
口々に自分の名を口にする両部族の有識者たち。
俺は簡単な会釈だけ済ませ、一番最奥にある上座に座する。
「……では、主役は皆集まったな」
本題に入る前に周りをよく見渡して全員がいることを確認する。
「よし。ではこれよりヴァンパイア族、ガーゴイル族による緊急条約会議を執り行う!」
静寂に満ちた中、条約会議は幕を開けた。
♦
―――それから数時間後
「お疲れ様です魔王様」
「ああ、グシオンも良い働きをしてくれた感謝する」
「いえ、それが我々のやるべきことですから」
条約会議は滞りなく進んだ。両族も和解に向けた会議を後日行うという顛末で事は終幕を迎えた。
後は……
「魔王様」
「ああ、後は頼む」
「はい、お任せを」
条約会議は終わった。だがまだ彼らに対する制裁は終わっていない。
穏便な幕引きをしたとはいえ彼らは支配者たる我々に牙を向けたことに変わりはない。
彼らにも分かっているはずだ。このままで終わるはずがないと。
「仕方のないことなのだ」
支配する者とされる者。世の中はこの二つの立場があるから成り立っている。
当然、支配者されるものが刃向かえばそれ相応の罰がくだる。
そして今がまさにその時。
魔界を統べる王としての責務は果たさなければならない。
そうしないと他の魔界の住人に示しがつかないのだ。
「―――あまり殺しはしたくはないが……」
支配者である以上そんな甘いことは言っていられない。
滅ぼさなくとも楯突いた分だけの血は流してもらわなければならない。
そう、それが……
「粛正だ」
二度と同じことが起きないよう、厳しく取り締まるのも仕事のうち。
俺は魔王である以上やるべきことを成さねばならない。歴代の魔王がそうしてきたように。
「最後によいか、グシオンよ」
「はい、なんでしょうか?」
去ろうとするグシオンに一声。
その声に反応し、すぐに振り向く。
「あまり苦しめないように殺すんだ。それを守ってもらえるなら後はお前の好きにしてよい」
「おぉ……なんと慈悲深い。あんな下等魔族に苦しめずに殺せとおっしゃるとは」
「お、おぅ……」
グシオンは誰よりも魔王である俺に忠実だ。指示を下せばなんでも注文通りに事をこなしてくれる。
ただ、何も言わなければ大体残虐に事を済ませて帰ってくるため、幹部連中の中では一番残忍なやり方で解決させることに手慣れている。
よっぽど彼の方が魔王っぽい。
「分かったか? 頼んだぞ」
「はい、承りました。では……」
グシオンは胸に手を添え、一礼すると早足で去っていった。
ホント、忠実だよなぁグシオンは。
「感心するよ、本当に」
自分は魔王の器には程遠い。だが魔王になる資格を持った血が流れている以上跡目を避けることはできない。
「血の盟約……ねぇ」
実際グシオンのような有能な魔族が支配者になるべきなのだろう。
なんか劣等感が強くなる。
「ま、今は俺にできることをするのが先だな」
どうやらリリンは任務を終え、先に人間界へと戻ったようだ。
「俺も早く戻ろう……」
かれこれもう一週間以上学園を休んでしまった。
これ以上休むと出席率に影響が出でしまう。
(一年目から留年なんてごめんだ)
後の仕事と魔界の警備や幹部連中と近衛兵たちに任せるとする。
「一応、全員にメッセージをと」
予め用意しておいた手書きのメッセージを近くの近衛兵に渡す。
「よし、これで帰れる」
俺は再び人間界に適応した容姿に変え、魔王城の地下にある異世界に繋がったワープゾーンへと向かう。
「みんなにはなんて言い訳しようか……」
そう呟き、ワープゾーンの中へと入っていく。
まぁ、適当に言っておけばなんとかなるか。
こうして、俺は再びイブリス・エルタードとしての学園生活へと戻るのであった。
※
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。続きはまだ未定ですが、書ければ書きたいなと思っています。
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