この歴代最強の新米魔王様、【人間界】の調査へと駆り出される~ご都合魔王スキルでなんとか頑張ります!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第28話:勇者と護衛3

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「ふ、ふふ~ん♪」
「ご、ご機嫌ですね、サーシャ様」
「あったりまえよ! なんかこうワクワクするじゃない?」
「そ、そうでしょうか……?」
「そうよ! あ、あと私のことはサーシャって呼んで。”様”なんてなんか変な感じだわ」
「も、申し訳ありません……」
「その敬語もやめて。私と二人の時は砕けた口調でいいの」

 彼女は上下関係というものが嫌いな人だった。従う者がいれば従われる者もいるこの決まりはどの国でも共通して言える絶対的な慣習。
 国が保護するほどの重要人を護衛する身としたら私は従われる者。敬意を払うのは当然のことだ。

 だけど彼女は私に砕けた関係をするようにとそう言ったのだ。

「あ、見えてきたわよ!」
「……あれがミトン山ですか?」
「そう! 別名『嘆きの岩山』、組合の言う通りあそこは強大な魔獣やらモンスターやらの巣窟で危険も多い。その代わり……」
「お宝もそれなりのものが……?」
「そのとーり! だからこそ行く価値があるの」

 サーシャの気分は上々で小さい子のようにはしゃぎながら山を目指す。
 そして私たちは警戒心のない軽いノリで立ち入り厳禁の場所へと入っていたのだ。





 ■ ■ ■







 ―――ホルン山、大地下墳墓



「ううん、光彩魔術を使ってもまだ暗いわね……」
「ここはどこでしょうか? 暗くて何も見えません」

 私たちはホルン山に入り、目的地である地下墳墓を目指していた。
 今の所モンスターや魔獣が出る気配もなく至って平和に進むことができていた。

「墓石……っぽいものの破片が飛び散っているから結構近いはずなんだけどなぁ……」
「うぅぅぅ……もう帰りたいです……」

 恐れおののくことなく奥へ奥へと進むサーシャに対し私はもう今すぐにでも帰りたいという気持ちが強かった。
 
「もう、なに弱気なこと言っているの? あなたは私の護衛でしょ?」
「そ、そうですけど私自身、今まで要人護衛なんてしたことないしこれが初めてなもので……」
「え、護衛の仕事は私が初めてなの? なら尚更都合がいいじゃない。しっかり私を守ってよね」

(そんなこと言われてもぉ……)

 怖いものは怖い。初仕事にしては難易度高すぎですよお父様……

 心の中で嘆きながらも私はサーシャと共に山の奥深くへと進んでいく。
 すると……

「ねぇセレス、あれ見て!」
「は、はい……?」

 何を発見したサーシャは私の肩をポンポンと叩く。
 私はサーシャの後ろでくっつきながらも恐る恐る前を見る。

「ひ、光……? ここは地下のはずじゃ……」
「行くわよセレス、もしかしたらお宝かも」
「ちょ、ちょっと待ってくださいサーシャ!」

 走るサーシャに追いかける私。暗くゴツゴツとした道を全力で駆ける。
 そして……

「……こ、ここは」
「す、すごい……なんて数のお墓なの」

 一筋の光の先にあったのは誰のかも分からない大量に墓石。
 かなり古いものらしいが決して色褪せているわけではなく、綺麗なまま陳列されていた。
 そしてその明るさの正体は大量の電光虫によるものであった。

「ここは一体誰のお墓なの……? 見た感じかなり古そうだけど……」

 するとここでサーシャが、

「ね、ねぇセレス。こっちにきて!」
「ど、どうしたんですか?」
「これを見て」

 墓石に被った砂を払い、そこに書かれた文字を読むと……

「アイズ・セイクリッド……エクスカリバーの継承者、此処に死す……?」
「そう。他にも聞いたことのある名前ばかり、しかも名前が……」

 他の墓も手当たり次第見ていくと一致する点が次々と見られた。
 
「もしかしてここって……」
「うん、間違いない。かつて魔王を滅ぼし、その代償として聖剣に取り込まれたという勇者たちの魂が眠る場所……聖墓だ」
「で、でもあれはおとぎ話の中にあった設定じゃ……」
「じゃあ、これは何よ。紛れもなく真実じゃない」
「う、うーん……」

 かつて魔王がこの世を恐怖の底へと陥れたことは実話だと父から聞いたことはあった。
 でも魔王と封印と同時に勇者たちも姿を消したというのが実際の話であるらしいので、勇者の墓などは全て作り話の中にある設定に過ぎなかった。

 でも……

「スゴイ……かの有名な大魔術師、アラァバ・マックガーンのお墓まである。凄いよセレス、ここはかつてこの世に名を轟かせた重鎮のお墓ばかりよ!」

 興奮を抑えきれないサーシャ。でも私はこの時、不安のあることが一つだけあった。
 
(聖墓、もしここがそうであるとしたらとしたらあのおとぎ話に出てきた守護者も……)

 私の思惑はすぐに現実へと変わる。

『ナニモノダ、キサマラ』

 どこからか図太く大きな声が墓地の中で轟く。
 サーシャもそれにすぐに気づき、

「だ、誰!?」

 返答。
 すると、

『ワレハ、コノスウコウナルボチノシュゴヲウケタマワッタモノ。ナンジラハナニヲシニココヘキタ?』

 ゆっくりと話すその謎の声はこう問いかけてくる。
 周りを見渡す限り誰かがいる気配もなかった。
 そしてサーシャもその異変に気付くと、

「しゅ、守護者ってまさかあの……」
「に、逃げようサーシャ! この流れだと私たちは……」

 童話『魔王と勇者』の最終章では勇者に助けてもらった少女が花束でお礼をするために聖墓へとやって来る話から物語は始まる。
 無事花束をお墓の前に置き、祈りを捧げた少女だったがその直後にその聖墓を守護するドラゴンに墓荒らしと間違えられ、最後は身体丸ごと食べられてしまうという悲惨な結末で物語は終焉を迎える。

 もしこれがおとぎ話通りの結末になるのだとしたら……

「私たちは墓荒らしになる……ということ?」
「うん! そして今でも聞こえるこの声の主は……」

 ―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 地鳴りと共にその恐れていた脅威がいきなり目の前に現れる。
 私たちはただその巨体を見上げ、ただ呆然するばかりであった。

「……うそ、そんな……」
「ドラゴン……なの?」

 その巨大は鋭い目をこちらへ向け、ギロリと睨んでくる。

『オマエタチハコノキダカキバニドロヲヌロウトシタ。カツテノエイユウタチノハカヲアラスナドグノコッチョウ。シュゴシャトシテミノガスワケニハイカナイ』

 謎のドラゴンはそういうと高らかに咆哮をあげ、両翼を広げて威嚇してくる。
 
 その姿、その振る舞い、そしてこの身体の芯までゾクゾクと伝わってくる威厳。
 まさしくそれはおとぎ話に出てくる伝説の竜、『黒竜』の姿そのものだったのだ。
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