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第26話:勇者と護衛1
しおりを挟む私の名前はセレス・グラムレート。王族穏健派のジョージ・グラムレート侯爵の実の娘であり、次期グラムレート家の跡取りでもある。
グラムレート家は趣は王家支持側の貴族派閥に該当するのだが少し特殊な任務を王国から承っている。
そして私は今、その特殊任務の対象となる人物と共にカフェでゆったりとしているところだった。
「なーんで勇者候補の身である私が学園に通わなければならないのかしら。別に魔術なんて学ばなくても全然いいのに……」
「そういわないのサーシャ。学園に行くのはあなたも私も国が定めた義務的教育に従ってのことよ。卒業までは辛抱しないと」
「うーーーん……でも毎朝自分で起きるの辛い! いつもは使用人たちが起こしに来てくれるのに……」
この少し強気な性格の彼女、サーシャ・ノイン・アロウズは勇者候補である。
復活の兆しを待つ魔王軍に対し迅速な対応ができるようにとグルド大陸に属する大国家4国が共に手を取り合い、同盟を結んだ。
それにより同盟国は勇者の意図的育成を目標として掲げ、それを成し遂げるべく『勇者育成令』を発令。ホルンの王国軍が先行し、事を進め始めた。
その後育成のための舞台はホルン王立魔術学園に決定され、各国で選出された勇者候補が集結している。
最終的に勇者と認められし者が誕生するのは彼らが卒業してからホルンが国家を立ち上げて行われる勇者召喚の儀。そのための準備には膨大な時間を有するとのことでその者たちを一つの国に預けるのが不安という他国からの要望もあったことで一旦同盟国が指定する教育機関へと通ってもらい、きちんとした教育を受け、万全な状態で儀式に臨めるようにしようという同盟国の意図だ。
そんな勇者候補を護衛する任務を任せられたのが他でもない我がグラムレート家。なんでも数百年前に復活した魔王を討伐すべく派遣された当時の勇者の護衛にはグラムレート家の曽祖父の姿があったという。
私にとっては伝説級の昔話に近い物語になるが我がグラムレート家は古くから王国より信頼を寄せられており、一般貴族や冒険者組合でも関与できない特殊な任務や国家機密に関わるような仕事を生業としてきた、いわば一等貴族の中では少し変わった立ち位置にいるのが私の生まれた家系だった。
現に今、国家最重要人物リストに載っているこの女の子を護衛している。
ちなみに他の国の護衛もほとんどが王族派の一等貴族ばかりが任に当たっていた。
「ねぇ、セレス」
「ん、どうしたのサーシャ」
「あのイブリスって男、なーんか怪しいと思わない?」
「……怪しい? それってどういう?」
「いや、なんかこう嫌な臭いがプンプンするというか。学園内では割と人気があるっぽいしその上最近では生徒会にスカウトされた入ったって話よ」
「ああーその話は誰かから聞いたことがあるわ。なんでもソリダス副会長が直々に頼みに護衛なしでSクラスに来たとかなんとか」
「……そう。しかも極めつけはあの意味不明な絶大な力よ。第5位階級のモンスターを一瞬で消しちゃうなんて異常、というか人であるかすら疑うわ」
同感。確かにあのイブリスという男はとんでもない力の持ち主だ。
私も実技試験の時に彼の戦う姿を見ていたから分かる。素早さや力もそうだが、一手一手の攻撃に対する正確な対応や冷静な判断力、そして何より力を隠す技術がとにかく長けている。
私が思うに恐らくあの力は彼の本来の能力の半分も出していないことだろう。
動きだけじゃない、表情にも彼にはまだまだ余裕があった。
サーシャも同じことを考えているに違いない。前に勇者候補とその護衛役が王城へ一同に会した時も彼の姿はなかった。
ということは彼は勇者候補でもなければその護衛役でもない。
「だとすれば一体何者なの……」
「セレス? どうしたの?」
「……へっ? ああ、ごめん。なんでもない」
サーシャが心配そうに顔をのぞき込む。
そんな彼女の姿を見るとふと昔を思い出す。
そう……サーシャと初めて会ったあの日。
まだ普通に会話することすらできなかった時のことだった。
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