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第20話:仲間割れ

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 その日の放課後、俺はザックと対立していた。

「悪かった、悪かったってザック」
「ふん、裏切り者め。どうりでおかしいと思ったんだ」
「ご、誤解だ! 俺はそういうつもりじゃ……」
「言い訳は聞かん! ったくこれだからイケメンは信用ならんのだ」

 完全にお怒りのご様子だ。
 だがそれもそのはず、これには明確な理由があった。
 それはザックが俺とセレスが二人でカフェに行っていたことを知ってしまったことにあった。

「ホントひでぇよイブリス。俺たちセレスちゃん同盟を結んだ仲じゃないか!」
「は、はぁ……」

 セレスちゃん同盟なぞ結んだ記憶は微塵もないが手伝うと言ったのは事実だ。
 それに今までの経緯を遡ってみると俺は彼の言う通り裏切り者だ。
 セレスを学食まで誘導する、それが俺のミッションだった。

(こればかりは何も言えないな……)

 朝のテンションとは一変、人が変わったように陰気と化す。
 とても話しかけられるような雰囲気ではなかった。

(……はぁ、謝ろうにも謝れないなぁ……)

 机に突っ伏し、小声で嘆くザックを見ていると自分のした罪の重さを実感する。

(やっぱり謝らないとな。しっかりと相手の目を見て)

 よく母上が言っていた言葉。謝る時は顔を上げ、相手の目を見てから頭を下げること。
 マナーは幼少期の頃から毎日と勉強をさせられたのを覚えている。
 人の上に立つ者として恥ずかしくないような立ち居振る舞いを身体に叩き込む、これが我がサタニール家の伝統だった。

 そんなことをこの年になって記憶が蘇ってきた。
 
「……よし」

 俺はザックの元へと駆け寄り、話をかける。

「ざ、ザック?」
「……」

 応答はない。もう聞く耳持たずということらしい。
 それでも俺は……自分のしたことを反省し、彼に謝りたい。

 なに言われようが俺は全てを受け止める。
 そう……魔王として、一人の男として。
 
 俺は覚悟を決めると、

「……ザック、す……すまな」
「あっ、忘れてた!」
「は?」

 突っ伏していたザックはまるで気力を誰かから注がれたかのように俊敏に起き上がる。
 そしてザックは、

「やっべ、今日は王国美女大全集の新刊が届く日だった!」
「お、王国? 美女?」

 何を言っているのか理解不能だが一つ明確に分かったことはザックのテンションが急激に上がったことだ。
 その王国なんちゃら大全集とやらのおかげで。

「おいイブリス!」
「な、なに?」
「俺はもう帰る。ちょっと用事を思い出した。セレスちゃんの件はまた計画を練り直そうぜ」
「いや、その……」
「んじゃなイブリス、また明日!」

 そういうとザックは目にも止まらぬ速さで教室を出て行った。
「待ってろ! 俺の女たちィ~~!」とよく分からんことを盛大に叫びながら。

「……なんだったんだ一体」

 予測不可能な展開にただ立ち尽くすだけしかできなかった。
 おかげで周りの人たちの注目が一気に俺に集まる。

(やばい……すっごい見られている。なんてことだ)

 失態。まさかこんな形で注目が集まるなんて……
 
「あらあら仲間割れ? あなたも大変ね」
「サーシャ……」

 背後から聞こえたのは聞き覚えのある声。昼休憩の際に初めて知り合った勇者候補の一人だ。
 
「あなたも悪い人ね~」
「誰のせいだ。ザックに例のこと言ったのサーシャだろ」
「別に何も言ってないけど? ただ親切にあなたのご友人がセレスといましたよって教えてあげただけよ。彼、あなたを探していたみたいだから」
 
 うふふと悪意に満ちた笑いをするサーシャ。
 完全にこれは楽しんでいる笑みだな。くそ……

 バカにされたような気がして不機嫌な様子を見せるとごめんごめんと謝りながら胸元をポンポンと叩く。
 するとサーシャはいきなり話題を変え、

「あ、そうそう。そういえばあなた、凄く強いってセレスから聞いたんだけど本当?」
「いきなりだな。なんでそんなことを聞く?」
「別に深い理由はないわ。あのセレスが強いっていうくらいだから気になっただけよ」

 気になった、か……確かに俺も勇者候補とやらの実力も気になる。
 勇者候補だけでなくSクラスの生徒たちの力もだ。
 その人物の個性やどういう人間なのかということを知ると言った目的の調査も有効なのだが何と言っても一番ほしいのは戦闘データだ。
 
 一応、グシオンからはできる限り有力な人間たちの戦闘データをかき集めて送ってほしいとも言われている。
 なので出来る限り戦闘に関する情報も集めたかった。
 
(どうにかして集められないものだろうか……)

 と、思ったその時だ。

「―――ま、魔物が出たぞーーーー!」
「―――だ、誰か来てくれーーーー!」
「―――助けてぇぇぇ!」

 男の叫び声と女の助けを呼ぶ声が地上の方から我がSクラスの教室までこだまする。
 その声に反応した俺たちはすぐに教室の窓から地上の方を確認する。

「あ、あれは……!」

 目に映ったのは複数の学園生たちが謎の二頭の魔物に襲われているシーンだった。
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