この歴代最強の新米魔王様、【人間界】の調査へと駆り出される~ご都合魔王スキルでなんとか頑張ります!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第18話:勇者

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 イブリス・エルタードは攻めたてられていた。
 
「……それで、私を昼食に誘った理由をお聞かせ願えるかしら?」
「ああ、いやその……」

 やばい、理由がない……というかそもそも目的が……

 元々はザックが提案したこの計画。俺はただの助手役で本命はザックだ。
 その本命がいないということはこの計画は既に失敗、助手の俺もこれ以上やる意味がないというもの。
 だがもう後には引き返せなくなってしまった。

(まさかこんな展開になろうとは……完全に計画が狂った)

 こうなれば失敗案もいくつか提示しておくべきだったと後悔する。
 どうにか現状を打開しようと脳内で試行錯誤を繰り返すが中々ひらめいてこない。
 ただ無言を貫き、怪しまれるだけだった。

「……あのイブリスくん、読書中の私を遮ってまで誘ったのには何かわけがあるからなんでしょ?」
「いや、それはそうなのだが……」

 まずいぞ。このまま沈黙を長引かせたら確実におかしいと思われる。というかもう既に怪しまれているのだけど……

(こ、こうなったらもうやぶれかぶれだ!)

 勢いだけで乗り切る!

「い、いやぁその、実は俺一回セレスさんとゆっくりお話がしてみたかったんだよねぇ」
「私と……お話?」
「う、うん! 初めて会った時からなんかこう……気になっていたというかなんというか」

 無理な後付だが致し方あるまい。下手に疑心を招くよりはマシだ。
 
「そ、そう……なるほどね」

 セレスはそう言うと目をそらして軽く頷く。

(よしよし、どうやら俺の選択は間違いではなかったようだな)

 テーブル下でバレないよう軽くガッツポーズをする。
 なんとか乗り切れそうだこれなら……と思ったその時だった。

 セレスはいきなり黙り始め、俺の方を凝視する。
 
「あ、あのセレスさん? 俺の顔に何かついています?」
「いえ、別に」

 唐突にドライな反応。そして俺を見るその目力は時間と共に強くなっていくのを感じる。

(なんだなんだどういうことだ? 何か不快なこと言ったかオレ)

 記憶にある会話の経緯を遡ってみても心当たりはない。
 だがどうみても……

(怒っているような感じだよなぁ、あれ……)

 なんとも言えないにらめっこタイムは2分ほど続いた。
 そしてにらめっこ開始から2分過ぎ、セレスはついにその口を開く。

「……ねぇイブリスくん」
「は、はい……」

 何を言われるのかという不安で思わず萎縮してしまう。
 そんな状態の中、セレスは俺に問う。

「さっきあなたの言っていたことはズバリ私と交際したい、ということかしら?」

 ……は?

 セレスは真顔でそう一言、とんでもない問いがその透き通った声で発せられる。
 
(いやいや、ちょっと待て。なんでそうなる?)

 ただでさえ初っ端からハプニングが発生しているというのにさらにその傷口は広がっていく。

「えっとセレスさん。言っている意味がちょっと……」

 分からない。なぜ彼女がその回答に辿り着いたのか。
 そして俺自身何を言ったのかも……
 
「え、分からないって。あなたさっき私のことが気になっているっていったじゃない」

 言いましたっけそんなこと、というレベルで記憶がない。
 必死の弁解で脳ミソを使い果たし、その会話の一言一句記憶することまでは頭になかった。
 というかそういったとしても俺は彼女に交際を求めるつもりで言ったことではないのは確実だ。
 それだけは胸を張って言える。

「……えーっと、ごめん。俺なんか変なこと言っちゃったみたいで」
 
 後頭部を掻きながら苦笑する。
 だがセレスは至って冷静だ。仮にも自分が告白されているかもしれないと思い込んでいたはずなのに顔色一つ変えない。
 
「まぁいいわ。出会ってまだ間もない人にいきなりナンパを仕掛けられて困っていたのだけれど科思い違いだったようね。ま、たとえあなたがそのつもりで言ったとしても私はすぐにお断りしたのだけど」
「あははは……そうですか」

 なんだろう、特に何かされたわけでもないのにこの惨めな感じは。
 何も知らない第三者から見ればただただ俺がフラれただけのワンシーンだ。
 ここにもしリリンが途中介入していたらさぞ腹を抱えて笑ったことだろう。
 
 だがしかし、周りには知り合いがいる気配はない。
 そのような心配はなさ……

「あっはっはっは! セレスも酷い人ねー」

 ……!?

 突然背後から誰かの笑い声が響く。
 気配を察知し、急いで後ろを振り向くとそこには金髪ロングヘアの小柄な少女がニヤニヤと笑みを浮かべながら立っていた。
 その可憐でしっかりと手入れの行き届いた髪は周りの男子たちの目線を釘付けにしていた。
 
(い、いつの間に……)

 気配が全くなかった。まるで何もないところから急に現れたかのように。

(背後を取られるなんて……この子一体)

 毎度言うが俺は腐っても魔王という立ち位置に座する者だ。政治的才能は歴代の魔王たちには劣るもののその代わり戦闘能力は前魔王で父親でもあるゼメスターをも凌ぐ。
 意識下になかったとはいっても瞬時に背後を取られることなんてことは今まで経験上なかった。

「……サーシャ、まさかさっきの話聞いていたの?」
「さっき来たばかりだったから少しだけね。でもセレスがナンパやらなんやら言っていたからこの人を振ったのかなってなんとなく想像できたけど正解のようね」

 おいおいなんで俺がフラれたことになってるんだ?
 ていうかこの子いったい誰よ。
 見た感じ初等部の生徒みたいだが……

「あ、ごめんねイブリスくん。紹介するわ、彼女はサーシャ。私たちと同じSクラスよ」
「は、はぁ? Sクラス?」

 こんな子いたか? いや俺自身まだクラス全員の顔と名前が一致していないので何とも言えない。
 だけどこの子どうみても……

「初等部の子にしか見えない、とでも思っているのかしら?」
「うわっっっ!? どうして?」
「ふん、図星なようね。まぁ大体初対面の人は大体そういう反応よ。ホントイライラするわ」

 小柄なのがコンプレックスなのか少し機嫌をを損ねてしまったご様子。だがそのサーシャとかいう人物は俺の顔を見るなり何かを閃く。
 
「あなた……確かイブリスって言ったわよね?」
「あ、ああ……そうだけど」
「ということはまさか……例の存在を話を聞いたってのは……」

 サーシャはセレスの方を見て何か訴えかけている。
 するとセレスは気まずそうに頷き、

「え、ええ……その人につい言っちゃったの。例のことを」
「例のこと? 一体何のことを言って……はっ、まさか……」
「そうよ、この子は王国より選抜された勇者候補の一人、そしてその護衛が私よ」
「セレス!!」

 これ以上言わすまいとセレスの口を塞ぐサーシャ。軽々しくセレスは言っていたがどうやら言ってはならない機密事項だったようだ。
 だが俺にとっては一気に都合が良くなった。

(そうか、そうなのか)

 この少女こそ我が魔王軍にとっては因縁の災厄、5人の内の勇者候補の一人だったわけだ。
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