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第14話:初めての友人
しおりを挟む「君は……」
「ああごめんごめん。いきなり話しかけると怪しい奴だと思われるよな。俺はザック、お前と同じSクラスだ。よろしくな!」
「あ、ああ……俺はイブリス、よろしく」
「イブリスね、オーケー覚えた」
互いに自己紹介を済ませると、彼はすっと自分の手を差し出す。
(あ、握手を望んでいる……のか?)
とりあえず俺も手を差し出してみるとザックはその手をガシっと掴み、強く握る。
「おし! これで俺とお前はもう友人同士だ」
「ゆ、友人?」
「おうよ。共に名前を明かし、握手を交わせばもう友達さ。俺はガキの頃から両親にそう教わった」
な、なるほど……人間界にはそのような文化があるのか。
にしても平民の者と握手を交わしたのはいつぶりだろうか。
もう記憶にすらないほど前の出来事だ。
基本、魔界では平民が貴族をはじめとする目上の身分の者と握手をすることなんて決してできない。
カースト文化が根強く残る魔界ではこのように誰でも握手できるほどの自由がないのだ。上流階級の者と下流階級の者とが自由に握手できるような文化を作ってしまったら秩序が壊れてしまう。
上に立つ者と下に立つ者が平等な存在になってはならない……これが魔界での一般的な考え方なのだ。
「なんだか新鮮味があっていいな……」
「ん? なんか言ったか?」
「あ、いや、なんでもないなんでもない」
ついつい魔界にはない文化を味わうことができたので声に出てしまう。
(魔界も強いカースト制度がなくなれば民族紛争もなくせるのだろうか……)
魔界を統べる者として魔王は皆の模範、そして象徴となるような役目を果たさなければならない。
魔界の民は魔王という絶対的支配者を崇めて日々を過ごす。私が起こす行動はそのまま民へと反映される。
民族紛争を容認すれば毎日どこかで絶え間のない戦争が起こり続ける。戦争を無理矢理止めれば当然、否定派の魔族たちが不満を募らせ、最悪の場合反乱という形で王都へと襲いかかってくる。
「はぁ……難しいよなぁ」
「ん? どうしたイブリス、入学初日から大きな溜息とは……幸せが逃げるぞ」
「そ、そうなの?」
「おうよ、溜息した分だけ幸福ってのはどっかにいっちまうんだ。俺の住んでいた地元の言い伝えだよ」
初めて聞いた。そんな言い伝えがあるとはやはり人間界の文化は面白い。
(溜息で幸福が逃げる……か。今度リリンに使ってみよう)
そんな会話を交わしつつ、俺とザックはその重々しい扉を開け中に入る。
「ありゃ、中は至ってシンプルな教室だな。豪勢なのは扉だけか」
「そ、そうか? 俺には広く見えるけど……」
中に入ると沢山の机と椅子が綺麗に並べられており、その奥には黒板と呼ばれる巨大な黒い板みたいなものが壁面に取り付けられている。
Sクラスの生徒数は確か30人だがそれ以上の人間が入れるスペースは十分にあった。
机ごとに自分の番号が割り当てられているみたいなので指定した場所に座る。
「お、イブリス隣じゃないか!」
「あ、ホントだ」
机は二人一組という仕様になっており、隣はまさかのザックというこれまた運命的な配置となった。
まだ周りのは人っ子一人いない。
時間を見るとガイダンスまで数十分ほど時間があった。どうやら少し早めに着いてしまったようだ。
「ちょっと早かったな。ま、恐らくあの掲示板のせいなんだろうけどよ」
「確かにあれは見るのに大変だったな。なんとか強引に前に出てやっとみれたから良かったけど」
「人多いしなこの学園。なんで俺なんかが入れたのか……しかもSクラスとはたまげたもんだぜ」
このザックという男、会った時はあまり気にしなかったのだがそこまで強い力は感じない。
パッと見の容姿と推定魔力だけでの見解だがSクラスともなればそれなりの者が集まるのは必然的と言える。
(一応、調べてみるか)
魔王スキル『能力開示』を発動。ザックの能力を透視する。
(……ほう、なるほど。魔力量は至って平均的、他の数値も常人より少し高いくらいで特にこれといった特徴は無し……異能も持っていない、か)
強いて一つ注目すべき点を挙げるとなると備考欄に『ハーレム懇願症』という謎の病が表記されていた。
もちろん、聞いたことのない病なので詳細は分からないが彼が病気持ちだということは理解した。
「ふぅ……」
「お、おいなんだどうしたよ? さっきから俺の方をチラチラ見て」
「あ、いや……ごめん。ぼーっとしてた」
「そ、そうか……さっきもなんか溜息してたし大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫!」
やばいやばい、怪しまれていたか。
この能力は相手の持つ最低限のステータスを読み取ることができるという古代魔術の一種だ。
ただ相手から目線を離してしまうと解除されてしまうという欠点付きだが相手を知る上で重要な情報源となる優れ魔術だ。
(とりあえずメモは後でにしておこう。これを見られたらたまったもんじゃない)
するといきなりザックが俺の肩をポンポンと叩く。
「おいイブリス、誰かきたようだぞ?」
「ん……?」
出入り口の方を見ると一人の女子生徒が扉を開け、中に入ってきた。
「うわ~すっげぇ美人……あんな子がSクラスなのかよ最高じゃんか!」
「あ、あいつは……」
「え、なになにまさかのお知り合い?」
「いや……その……」
できる限り目をそらし、気づかないように配慮する。いや別に彼女が嫌いとかそういうわけではないのだが何というかこう……少々苦手意識があるというか。
特に合格発表の時には沢山の質問を投げつけられた。その上さっきの入学式の時もすごくこちらの方を見ていたしなんか怪しまれているんじゃないかという感覚があったわけだ。
そんな理由もあってか、彼女には気付かれないようにしたかったのだが二人しかいない教室ではその試みは効果を成さなかった。
女子生徒はゆっくりとこちらへと歩いてくる。
「お、おいイブリスあの子こっちに来たぞ」
「え?」
振り向いた所で遂に彼女と目が合ってしまった。
その美貌、そして獲物を捕らえるかのような鋭い眼光……やはり彼女だ。
「……あなたもSクラスだったのねイブリスくん、これからせいぜいよろしくね」
まさにその女はセレス・グラムレートという黒髪紅眼の女剣士だったわけだ。
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