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第10話:唐突な……
しおりを挟む学園初日、俺はいきなり黒髪の女剣士ことセレス・グラムレートに出会うこととなった。
当たり前なのだが今回は学園の制服姿での登場。やはり顔立ちは美人なだけあってかなり制服映えしている。制服自体黒基調の可愛らしいものなので、彼女の黒髪と見事にマッチしていた。
「どうやらあなたも合格できたようね」
「ああ。お前もな」
まぁ彼女は勉強できそうだし、校舎裏で会った時も余裕そうな表情を浮かべていたから落ちるとは思ってはいなかった。
それより自分の心配をしてたってのもあるからな。落ちたら絶望的だったし。
「お前のことは何て呼べばいいんだ?」
「セレスでいいわ。あ、そういえばあなた名前は?」
「イブリスだ。イブリス・エルタード」
「イブリス……ね。分かったわ」
互いに自己紹介を済ませ、講堂の方へと振り返ると人集りはさらにエスカレートしていた。
「そういえばあれは一体なんだ? 朝から随分と大盛り上がりだが……」
「ああ、あれは会長さんね」
「会長……?」
よく見てみると人集りの中心には一人の人物の姿があった。しかもなんか周りに護衛みたいなのが同伴している。これもまた美しい金髪金眼の女性で案の定、男たちの視線は全て彼女の方へと向いていた。
「凄まじい人気だな……しかも護衛まで」
「当たり前よ。大陸でも五本の指に入る名門、ホルン王立魔術学園の生徒会長ともあれば注目されるのは当然。此処の秩序や校風はあの人によって綺麗な形に保たれていると言っても過言ではないわ。もう扱いはお国の要人並みの待遇よ」
なるほど。要約すればあの女はこの学園を掌握する長、生徒内のリーダーで重要人物ということか。
ただ聞くところによると校風や秩序も彼女によって保たれているとのこと。そういうのは普通は大人の仕事になるはずなのだがそうではないらしい。
(恐らく、学園長、理事長、教師陣の中でも発言力はそれなりにある奴だと見た!)
俺はすぐさま魔王覚書を開き、メモり始める。
「それは何かしら?」
「え、うわッッッ!?」
いきなり横からのぞき込まれたので思わず驚きの声が出てしまう。
「な、なによいきなり」
「いや、いきなりのぞき込むからだろ!」
「あ~それはごめんなさいね。で、それは?」
「え? これは……ただのメモ手帳だ」
「メモ手帳? なんでそんなものを……」
「それはもちろん調査の……じゃなくて学園の事をもっと知るためだ」
またも危ないシーンに。流れで行ってしまう所だった。
クソッ、この俺をトラップにハメようとしやがって!
根拠もないことをつい思ってしまう。
だがこんな所でもし素性がバレてしまったらそれこそ一貫の終わりだ。
ましては隣にいるのが勇者の護衛ともあれば尚更。一番バレてはいけない奴らだ。
とにかく、下手なことが言わないよう心がけよう。学園生活初日から終焉を迎えるなんてごめんだ。
なんだかんだ言って人間界での学園生活に期待を膨らませている自分がいるのも事実だ。
早速、退場……なんてことはしたくはない。
それにしてもなんだか周りがかなり騒がしくなってきた。
あの会長……の仕業でもあるのだがそれ以外にも何かありそうな雰囲気だった。
今度は……女生徒の声援が強い。
「今度はなんだ?」
「あ~、あの女子からの声援からしてソリダス副会長ね」
「ソリダス? 副会長?」
すると前方、まだ距離はだいぶあるが一人の男の姿が目に映った。
彼もさっきの会長同様、周りに多くの護衛を従えて真っ直ぐ講堂の中へと向かっていく。
「これまたスゴイ支持率だな」
「まぁ、あのルックスとカリスマ性を考慮すれば当然よね」
そのソリダスとかいう男は確かに顔はカッコよく、何やらせてもできそうな雰囲気はあった。
人集りで見れたのはほんの一瞬だったが威厳という何かは感じた。支持を受けるのも少しは納得がいく。
(あいつも重要人物としてメモっと……)
そんなこんなで時間は流れていき、式典開始まで30分をきっていた。
「そろそろ入学式ね。それじゃ、また後で会いましょ。せいぜい遅れないようにね」
「お、おう……」
セレスはそう言ってその場を駆け足で去っていく。
(さて、俺もそろそろ行かなければならないが……)
その前にトイレに行かねば!
いきなり尿意に襲われ、近くのトイレを探し始める。
朝からずっと用を足していなかったので仕方のないこと。魔王だろうがなんだろうが人間と同じ、生き物に変わりはない。
トイレもするし、風呂にも入る。日常は魔族も人間もそんなに変わらないのだ。
そんなわけでトイレがないか急いで模索。すると講堂裏にポツンと一つ、トイレらしき建物を見つけた。
「良かった。結構近い場所にあったな」
俺はそのまま駆け込み、用を足す。
もう式典開始まで時間がなかったためか周りには人気がまったくなかった。なので有意義に尿意を解消することができた。
「ふぅ~すっきりしたぁ」
よし、早速講堂へ……と思った時だった。
トイレから出ると俺の視界には一人の女性が映った。
「あれは……」
遠くからみてもその華美な金髪ですぐに把握できた。
先ほど人集りに囲まれていた生徒会長さんだ。
何やら講堂裏のすぐ近くにあったベンチに座り、黄昏ているご様子だった。
(どうしたのだろうか?)
俺はつい気になってしまい、近くへと寄る。
「……あ、あの。大丈夫ですか?」
俯いたその美麗な顔が俺の方へと向く。
「あ、あなたは……?」
「通りすがりのものですが……なんか落ち込んでいらっしゃるご様子でしたので」
するとこの言葉に反応したのか彼女の眼から大量の涙が溢れ出てくる。
「あ、あのぉ……?」
大丈夫かと顔を伺おうとした時、彼女はいきなり俺の元へと抱きついてくる。
「え……ちょ、ちょっと!?」
いきなりの事で対応が出来なかった。彼女は俺を完全にホールドして離さない。
(ち、力……つ、つよっ!)
そして抱き着いて数秒だった。彼女はいきなりこう言う。
「あ、あの……無礼を承知でお頼みします。私の代わりに入学式でスピーチをしていただけないでしょうか?」
「……ん。え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
涙ぐみながらそういう彼女に俺は混乱と驚きでしばらく何も話すことが出来なかった。
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