この歴代最強の新米魔王様、【人間界】の調査へと駆り出される~ご都合魔王スキルでなんとか頑張ります!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

文字の大きさ
上 下
8 / 37

第7話:まさかの……

しおりを挟む

 カーテンの隙間から差し込む光が俺を眠りの世界から解放する。
 外は快晴。これほどいい天気はないと言った感じだった。

「もう朝か」

 今日は運命の日、合格発表日だ。受験が終わり、数週間の時が経った。
 波乱の実技試験を終え、俺はこの日までクールダウンに徹していた。

「毎日ダラダラと……少しは身体を動かしたらどうなんですか?」

 コタツと呼ばれる異世界の魔道具の中に身を預け、お菓子を食べながらリリンは言う。
 
「そういうリリンこそ。悪魔大公爵の秘書官とは思えないくらい怠惰じゃないですか」
「私は普段頑張っているからたまには休まないと。秘書官も楽じゃないのよ?」
「それを言うならこちとら魔王やってるんだが……?」

 かれこれこんなやり取りが続いて数日。初対面だった俺も何とか馴染めていた。
 これから一緒に行動するパートナーだ。微妙な距離感でいても何のメリットはない。
 リリンもそれを承知の上だったのか住みたての頃は積極的に話しかけてきた。

「そういえば今日、合格発表よね? 見に行くの?」
「もちろん。見に行かない理由がない」
「まさかの落第ってオチだったりして……落ちだけに」

 はいはい。勝手に言ってなされ。
 俺は何も言わず、無言のままコタツから出て着替え始める。
 リリンは不満そうな表情を浮かべ、

「ちょっと、イブリス。何か言いなさいよ」
「ん? 何か言ったか? すまんな……俺の耳は都合の悪いことは聞こえない仕組みになっているんだ」
「子どもかっ!」

 こんなやり取りもまぁ日常となりつつあった。魔界では上司と部下の関係だが、今は共に同じ住処を持ち、学園に入学したら先生と生徒という関係に逆転する。
 魔王である俺の立場がガラリと反転するのはいささか腑に落ちないが魔界のためならば仕方がないことだ。
 それにリリンは自身の部下でありながら俺よりもずっと大人の人格を持った人だ。一緒に住み始めて分かったのはその面倒見の良さ。対等な関係になった時に初めて感じたのはそういう彼女の母性本能というか、女性らしい一面だった。
 この一面は上司と部下の関係では決して見られないものだ。

(ま、逆にうるさいと言ってしまえばそこまでなんだが)

 俺は素早く着替え、受験関係の書類を持ち玄関へ向かう。
 
「じゃ、行ってくる」
「ええ。いい報告待ってるね」

 その純粋で可愛らしい笑顔に少し照れてしまう。それはサキュバスとしての演技が反映されたものではなく本当に自然に作られた笑顔だった。
 そんな彼女の笑顔を後押しに俺は学園へと走る。

 正直、不安だった。受かれば天国、受からなければ地獄が待っているという分かりやすいもの。
 いっそのこと人間どもをマインドコントロールして強制的に合格にしてもらおうとか考えることもあったが、そんなことをしては王国軍に嗅ぎまわされる上に大きな罪悪感が残ることだろう。
 
(魔王が罪悪感なんて気にする時点がおかしいけどな……)

 ということで俺は正々堂々と勝負をかけた。
 学園へはすぐに到着。結果の開示まではあと1時間ほど時間に余裕があった。
 
(あと1時間か……その間に学園内の散策でもしてみるか)

 他に行くあてもないので開示時間まで時間を潰すことにする。
 それに今のうちに土地勘を把握しておくのも大切だ。暇な時間が作れるのならそれは自身の目的のため最大限に活かしてきたい。

「さて……まずはどこから行こうか」

 俺が辺りをキョロキョロし、行動も模索をしている時だった。

「ねぇ、ちょっといいかしら」

(う~んまずは一番人が多く来そうな場所を積極的にリサーチした方が……)

「ねぇ、聞いてる?」

(いや、観察スポットを探すのもいいな。今のうちに学園を一望できる場所を探すのも……)

「ねぇー!」
「うあっっ!?」

 耳元で大声を上げられ、飛び跳ねるようにして驚く。そして気が付いた時には目の前に女の顔があった。

「やっと気が付いたわね」
「い、いきなりなんですか! 耳元で大声出して……」
「なんですかはこっちのセリフよ。私が呼びかけても返事しなかったからでしょ?」
「え? 呼んでたんですか?」
「はぁ……声すら届いていなかったのね」
 
 呆れた顔をして話す一人の女性。見た目はかなり若々しい。年も人間換算で言うと同じくらいだろう。
 
「あのそれで、俺に何か?」
「ええ。ちょっとこっちに来てもらえるかしら」
「えっ、ちょ、ちょっとー?」

 俺はそのままで腕を引っ張られ、誰も寄り付かないような狭い校舎裏へと連れていかれる。
 
「ここなら大丈夫わね」
「あの……そろそろ離してもらえないですか?」

 凄く力強く引っ張られたためか袖の部分がシワになってしまっていた。
  
 ……これ一応俺の一張羅なのに。シワ取るの意外と大変なんだぞ!

 まぁこの一言を初対面の相手に言えることはなく、心中に留める。
 にしても強引な女だ。
 一体俺に何の用が……

 だが俺のその疑問はすぐに解決する。
 彼女は腕を組みながら話し始める。

「早速だけど単刀直入に聞くわ。あなた……何者なの?」
「そりゃまお……やべっ!」
「まお……?」

 危ない危ない。危うく正体を言ってしまう所だった。

「いや、何でもない。何者かって? ただの学生だ。厳密には合格すればの話だけど」
「合格すれば……? じゃああなたは今まで何をして生きてきたの?」

 何をしてと言われてもなぁ……まったく見当がつかん。
 ただ前にグシオンは人間界には子どもでも鍛冶の仕事を任せる風習があることを聞かされたことがある。魔界では鍛冶師の手伝い、または仕事は未成年の者では一切ことにあたることはできない。
 グシオンから聞いた時は驚いたものだ。

(思いつくのはこれしかないな……)

「か、鍛冶師の手伝いをしていた」

 俺は自身に人間界での設定を追加する。
 
「鍛冶師の手伝い……? あなた、鍛冶師の子どもか何か?」
「え? あ、ああ……まぁそんなところだ」
「ふぅーん。鍛冶師の子があんな戦闘ができるなんてね」
「戦闘? なんのことだ?」
「あら、もう忘れたの? 私は見てたのよ観客席から」

(観客席……? あっ……!)

 そのワードで一気に記憶が蘇ってくる。そう、それはあの時、実技試験の時だ。
 自分の試験前にちらっとみた実技試験の最中、この女はそこにいた。
 印象深いあの黒髪、そして人間とは思えない驚異的な戦闘力。少し時間が開いてしまったのですぐに思い出すことはできなかった。
 
 間違いない、こいつは……

「黒髪の……女剣士!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!

宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。 前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。 そんな彼女の願いは叶うのか? 毎日朝方更新予定です。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

ダークナイトはやめました

天宮暁
ファンタジー
七剣の都セブンスソード。魔剣士たちの集うその街で、最強にして最凶と恐れられるダークナイトがいた。 その名を、ナイン。畏怖とともにその名を呼ばれる青年は、しかし、ダークナイトをやめようとしていた。 「本当に……いいんですね?」 そう慰留するダークナイト拝剣殿の代表リィンに、ナインは固い決意とともにうなずきを返す。 「守るものができたからな」 闇の魔剣は守るには不向きだ。 自らが討った聖竜ハルディヤ。彼女から託された彼女の「仔」。竜の仔として育てられた少女ルディアを守るため、ナインは闇の魔剣を手放した。 新たに握るのは、誰かを守るのに適した光の魔剣。 ナインは、ホーリーナイトに転職しようとしていた。 「でも、ナインさんはダークナイトの適正がSSSです。その分ホーリーナイトの適正は低いんじゃ?」 そう尋ねるリィンに、ナインは平然と答えた。 「Cだな」 「し、C!? そんな、もったいなさすぎます!」 「だよな。適正SSSを捨ててCなんてどうかしてる」 だが、ナインの決意は変わらない。 ――最強と謳われたダークナイトは、いかにして「守る強さ」を手に入れるのか? 強さのみを求めてきた青年と、竜の仔として育てられた娘の、奇妙な共同生活が始まった。 (※ この作品はスマホでの表示に最適化しています。文中で改行が生じるかたは、ピンチインで表示を若干小さくしていただくと型崩れしないと思います。)

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...