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第6話:実技試験

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『これより、ホルン王立魔術学園。実技試験午後の部を始めたいと思います。午後の部受験者はお集まりください』

 実技試験を取り仕切っているらしい男が魔道拡声器を用いて受験者たちを集める。
 ざっと見積もって1000人……いや、2000はいるな。

 さすが超名門のホルン王立魔術学園だ。毎年数万といった受験者が大陸を超えて来るわけだからこの人数では全体の一割も満たしていない。
 受験日程が数週間に渡って行われるのも納得である。
 
(周りは……特に目立った奴はいないか)

 特に大きな魔力を持った存在は確認できなかった。皆、これといってぱっとしない風貌。勉強はできるといった感じの人がほとんどだ。

(ハズレか……)

 驚異的な異端者の存在に期待していたのだが、そううまくはいかないか。何万といった人間が受験してくるのだ。そう易々と見つかるのもおかしな話。
 となれば今することは一つしかない。最高のパフォーマンスをして合格をもぎ取るのみだ。
 
 俺は再度気合を入れなおす。

『それではルールを説明いたします―――』

 試験監督の男は淡々とルールの説明を始める。
 聞くところによるとルールは先ほど見たようなバトルロワイヤル形式。ただ受験者同士で戦うのではなくあくまでチームとしてだ。
 そしてもう一つの特徴はこの大規模な人数で一斉にやるのではなく、複数のグループに分けての試験となる。
 試験の内容は簡単、ただ生き残ればいいだけ。その代わりに三人の講師が各グループにつく。
 要するにその講師陣たちからやられないよう逃げればいいだけのことだ。

 なんだ簡単じゃないか。ただ逃げてればいいだけなんて。

 てっきり講師たちを倒すのが目的なのだと思っていたがそうではないらしい。ちなみに魔力が尽きたものは強制的にリタイア、そこで試験終了となる。いかに魔力がある間に自分をアピールできるかがカギ……と試験監督が強く言う。
 
(合格したきゃアピールしろってことね。おーけーおーけ)

 だったら逃げているだけでは合格はできない。筆記試験でできなかったところの埋め合わせをするためにもここで稼いでおく必要がある。
 少し手荒でも……まぁいいか。

 試験は受験番号が近い者同士でグループが組まれ、俺はcグループ。試験開始の順番は一番最後ということになった。
 そして俺たちのグループについた講師は男二人に女一人。役職は魔術師キャスター騎士ナイトと後の一人は見た目から推測するに司教ビショップか。
 どれも主に後衛を担う職ばかりが揃っていた。

(むやみに攻めたらやられるか)
 
 だがやってみるまでどうなるかは分からない。警戒はしておこう。

 その後、試験は順調に進んでいった。Bグループを終え、未だ目ぼしい能力者はなし。
 皆、ありきたりな魔法や召喚術を駆使して奮闘していた。

(動きも単純、魔法も初手に学ぶようなものばかり。これじゃあ1000人2000人いても講師三人で十分だな)

 人間とはいえ、名門と称されるホルン魔術学園ならば平均的に能力が高い者ばかりが来るのかと思っていたが見当違いだったようだ。

「ちょっと期待していたんだけどな……」

 予想を下回る結果に少し残念に思う。
 
 すると、

『それでは次はCグループの方、試験を行います。所定の位置にお集まりください』

 きた! とうとう実技試験の開始だ。
 皆、ワンドなり魔法杖なり、短剣なりを取り出し始める。俺はもちろん、手ぶらだ。
 
(そんなガジェットは俺には必要なし! 手ぶらで十分だ)

 俺は何も持たずに所定の位置へ。そして目の前には三人の講師の姿があった。
 
(さて、久々の運動だ。ちょっと力入れて……ん?)

 試験開始の準備中、耳を澄ますと観客席が何やら盛り上がっている様子だった。

「―――うわ……あのグループの相手講師エンペラー教授じゃん。ありゃ無理だわ」
「―――可哀想に、エンペラー教授相手だと魔法を放つ余裕さえないよ。貧乏くじ引いたな」
「―――御年80越えで大賢者とまで呼ばれた人だからな。流石に手加減しなきゃ試験にならないから手は抜くと思うけど……」

 話しを聞く限りあちらこちらから似たような会話が聞こえてくる。どの人もどうやら『エンペラー』という講師に注目しているようだった。

(エンペラー? ああ……あのワンドを持った老人のことか)

 確かに歳食っているだけあって威厳は感じる。残り二人よりも桁違いの魔力を持っているようだ。
 だが脅威には感じない。もしそうだとしたらとっくに危険視している。

 油断はできないけど―――

 そして遂にその時がやってきた。試験開始への合図だ。
 
『それでは只今より実技試験を執り行います。両者戦闘準備!』

 瞬間、闘技場全体が静まり返る。さっきまでの騒がしさが嘘のようだ。
 観客席にいたものも息を呑むように俺たちを見つめている。
 
「……魔力、解放」

 そして―――

『それでは実技試験、始め!』

「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」

 高らかに鳴り響く鐘の音と共に受験者たちは大声を出しながら講師陣へと向かっていく。
 俺も彼らの後に続き、様子を見ることに。

 まずは様子見から。これ基本。
 
 なにふり構わずツッコむにはバカのすることだ。しっかりと相手を見極め、一種の隙が生じた所に攻撃を叩き込む。
 昔、両親から教わった戦力論の一つだ。

 案の定、先陣を切っていった受験者たちは見事に返り討ちに遭う。
 なんと気の毒に。たった一撃で気絶してしまった人もいる。

(と、いうことは講師陣たちもそれなりの力を出しているという事だな)

 ヒントは状況把握によって得るものだ。戦況を見ずして勝利への布石を打つことはできない。
 どんな相手だろうとそれは同じだ。
 
 ざっと数分経っただろうか。だいぶ受験者が減らされ、今視認できる限りでは100名程度しか生存していなかった。そのほとんどがあのエンペラーとかいう老人による影響だ。

(……なるほどね。確かに別格なのかも)

 魔術の完成度、洞察力、そしてどのタイミングでどの魔法を行使するかという状況の分析……全ての事象を完璧に把握している。
 動きとしては模範解答と言っても過言ではないレベルだ。

(そろそろ動くか)

 受験者が減ってきて自分の目立つ環境が作られる。もちろんこれも計算の内だ。
 最後まで生き残れば沢山の目に止まることとなる。より多くの者にアピールできるというわけだ。
 
「解放、≪ソニックムーブ≫」

 音速を超える速さで移動を可能にする古代魔術。これで一気に講師陣たちの裏を取る。
 
「……まずはあなたからだ」

 狙いを付けたのは騎士ナイトの男講師。そして気づかれることもなく首元に軽い衝撃波を放ち、気絶させる。

 ますは一人―――

 次は魔術師キャスターの女講師。薄らではあるが自身の周りに人避けの結界が張られている。
 まさに不意打ちを防止するためのものだ。

「……でも、俺には通用しないんだな」

 アンチ魔王スキルの一つ、≪結界崩し≫で難なく結界の中へ。
 そして先ほどの男講師同様に気絶させる。

 これで二人目、最後は―――

 最後の標的に目を向けると既に俺以外に人の気配はなかった。
 完全に俺と老講師の一対一という状況が作られ、観客席にもどよめきが起こっている。

「―――おい最後の一人になったぞ」
「―――というか残り二人の講師倒れてね? あいつがやったのか……?」

 視線は一気に俺に集中。エンペラーも先ほどとは違い若干、身構えているようにも見えた。
 
(なるほど、力量はなんとなく把握済みってわけか)

 ならむしろ手加減せずに戦える。俺にとっては好都合だ。
 互いににらみ合いが続く。そして先手を打ったのは向こうからであった。
 
「我、精霊の言霊を……」

(……高位精霊魔術か。だが遅い!)

 魔術を軸に戦うものにとって詠唱時間は大きな隙になる。
 その瞬間に攻撃を……

 ソニックムーブで一気に距離を詰める
 しかし、

「ふっ、かかりましたな」
「……ん!?」

 まさか、あの詠唱はフェイク。ということは……!

「読みが甘かったですな。≪フェアリーレイズ≫」

 精霊の魂を込めた古代魔術が俺の身体に纏わりつく。
 だが魔王を舐めてもらっては困る。精霊魔術は魔族である俺からしたら牽制にすらならないのだ。

「ふっ、オベロン王の魔術か。だが……」
「……っ!?」

 俺は纏わりついた魔術を強制解除。アンチ能力を発動させる。
 
「……古代魔術を昇華させたじゃと! お主一体……」

 驚くのもつかの間、俺は勝利の一手へと既に動いていた。
 今の流れで完全に老講師の動きに隙が生じ、俺は気づかれることなく背後に回り込む。
 
「……ぬっ!?」
「これで……終わりだ!」

 俺は予め体内に収めていた魔力を放出、その一撃は見事老講師の腹部に命中し華麗に吹っ飛ばす。
 そしてその瞬間、大きな鐘の音と共に、

『そこまで!』

 老講師が吹っ飛ばされるのと同時に試験終了の合図が言い渡される。
 
(はぁ、やっと終わった……)

 試験が終わるのと同時に身体から脱力感が溢れ出る。
 今すぐベッドに横たわりたい気分だ。
 
(あっけなかったな。ま、こんなもんか)

 肩を叩きながら入場ゲートの方へと向かおうとしたその時だ。どこからか俺を凝視するかのような強い視線を感じ取る。

 なんだ、誰かに見られている? どこからだ?

 警戒心を強め、慌てて辺りを見渡す。
 そしてその視線の犯人はすぐ目の前にいた。

「……あ、あいつは!」

 目の前の観客席から見下ろすかのように見つめる彼女の姿は先ほど俺が気になっていた黒髪の女剣士。
 その澄んだ紅の瞳と艶のある黒髪はまさしくあの時見た彼女本人であった。
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