この歴代最強の新米魔王様、【人間界】の調査へと駆り出される~ご都合魔王スキルでなんとか頑張ります!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第4話:魔王様の受験!

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 張り詰め、重苦しい雰囲気が感じるこの空間。俺はそこに一人の受験者として座席に座っている。
 
(いよいよだな)

 眼鏡をかけやせ細った中年の男が大量の書類を持って姿を現す。あのとんでもない量の書類は此処にいる受験者全員分の解答用紙と問題用紙だ。
 やせほそった男は俺たちの前へと出る。

「それではこれより試験の解答用紙と問題用紙を配布いたします」

 すると数名の講師らしき人物が出てきて素早く用紙を各人に配布していく。数十分後、全員の元に問題用紙と解答用紙が行き渡った。そして試験監督であるやせほそった男が注意事項等を話し始め試験開始1分前となる。
 
(落ち着け俺……あれだけやったんだ。行ける……行ける……)

 心にそう念じ、自らを奮い立たせる。もし仮に落ちてしまったら調査計画はまったく意味をなさないものとなってしまう。
 それに……

(試験に落ちて入学できませんでした、なんて言えないよなぁ……)

 もちろん俺にだってプライドはある。俺は現魔王だぞ? プライドなくして務まるものか!
 ここで無様に散るなんてことは決して許されることじゃない。

(さぁさぁどんとこいやぁ!)

 そして遂にその時は来た。


 ―――カーンカーン

「……それでは、試験開始!」

 始まった。試験開始のチャイム、そして合図により全員が一斉にして二種類の用紙をひっくり返す。
 最初の科目は魔法学。自分の中では割とすんなりと覚えられた分野だ。

 これなら行ける……! そう思ったのだが……

(……あれ? 分からん)

 おかしい。なぜおかしいかと言うと問題を見てもさっぱり見当がつかないからだ。
 しかも一つや二つじゃない。結構な数の設問で俺はつまずいてしまった。

(やべぇ、やべぇよ!)

 混乱に陥りそうになるが同時に冷静を保とうとする自分もいた。俺が魔王になった時、紛争が起こり混乱に陥っていたあの時と似たような感覚だったからだ。

(いや、まだだ! 考えるんだ俺!)

 自身を激しく鼓舞。慎重に問題を解いていく。完全に集中モードに入った。
 その冷静さが持続したことによってその後の他の科目も同じように慎重に解くことができ、無事に筆記試験を終えることができた。

 

 ■ ■ ■



「……あぁ、やっと終わったぁ」

 午前中に詰め込まれていた筆記試験を終え、俺はひとときの解放感に包まれていた。 
 午後には筆記試験とは別に実技試験もある。もちろん実技には自信しかないが油断は禁物。
 
(その前にひとまず身体を休めよう)
 
 俺は近くのベンチに腰を掛ける。そして見渡す限り広がる大規模な学園内の敷地を眺め、改めてその広さを実感する。
 季節のおかげでかなり寒い気温だが耐寒スキルによって身体全体に膜を張っているため肌寒いくらいだ。

(実技試験まで時間があるな。ちょっと寝ていくか)

 そう思って目を瞑った時だ。横から聞きなれた声が聞こえてくる。

「あら、イブリスじゃないですか」
「り、リリン!?」

 その声の主は講師用制服に身を包んだリリンだった。その姿は普段とは一新し、いつも結んでいる金髪は下ろされており、眼鏡もかけていなかった。
 普段の厳格そうなイメージとは違ってこれもまた一人の女性として魅力がある姿だ。

「よく気づきましたね。少しイメージを変えてみたのですが」
「ま、まぁ最初は一目見た時は気づかなかったけど……」

 彼女だと気付いた要点としてはまずは目の下にあるほくろだ。あとは胸元にかけている眼鏡がリリンのものとそっくりだったからと言う理由で判断に至った。
 それがなかったら恐らく気づかなかっただろう。

「それでイブリス、試験はどうなったの?」
「今筆記試験が終わった所だ。あとは実技だけ。リリンこそなんだその恰好は」
「見ての通りです。私は今日からこの学園に新任講師に着任するのですよ」
「ほ、本当かそれ……」

 リリンは首を縦に振る。嘘は……ついてはいないようだ。

「本当は私も生徒として入学したかったのですけどね……ちょーっと障害が」
「ああ、ねんれ……」

 そう言った瞬間、俺はリリンに胸ぐらを掴まれ脅される。

「イブリスさん、違いますよ? 年齢による問題ではなく立場上で問題があったからです~」
「わ、分かった! 分かったから離してくれ。く、苦しい……」
「分かればよろしいのです」

 彼女は胸ぐらから手を離し、解放する。
 
(……ぐぅ、なんて力だ。やはりこの人はただのBBAババアじゃねぇ)

「ただのババアじゃない……ですか?」
「……!」

 あれ? 俺声に出していたか? いや出していないはずだ。
 リリンの顔色が良からぬ方向へ変化していく。
 
「声に出さなければ伝わることはない……とでも思っていましたか?」
「いや、俺はそんなことは……」
「シラをきっても無駄ですよ。サキュバスを舐めないでください」

 彼女の静かなる怒りは俺の身に傷跡となって深く刻まれる。
 さ、サキュバス恐るべし……

「それではイブリス。私はもう行きますので実技試験、頑張ってください」
「あ、ああ……」

 そう言い残すと、彼女は立ち去ろうとする。
 だがリリンは再度立ち止まり、

「ああそうでした。イブリス、今回の勇者候補ですが、結構……スゴイですよ?」
「ん? それはどういう……」
「うふふ、それでは」

 何も答えず笑みだけ浮かべるとリリンは足早に去っていった。
 
「……なんだったんだ?」

 俺は疑問に思いつつ、学園内にあった時計塔に目を凝らす。
 
「うわやば! もうそろそろ時間じゃないか!」

 いつの間にか時間が経っており、気づけば試験10分前を指していた。
 俺はリリンから貰った案内を頼りに全力疾走で実技試験の会場へと向かう。
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