105 / 127
第5章 おっさん、優勝を目指す
第103話 シフト
しおりを挟む試合後、リーフはすぐさま俺の所まで駆け寄ってきた。
「……せ、先生。すみませんでした……」
敗北したことで相当精神的苦痛がきているようで今にも泣きそうな表情でこちらを見てくる。
「……私のせいで、私がもっと冷静に対処していれば……」
下を向き、いつものような明るい笑顔はそこにはなかった。
励まそうと考えるもその姿を見ていると余計かける言葉が見当たらなかった。励ますにも下手なことを言っては逆効果になってしまうことを恐れていたからだ。
まだリーフには試合に出てもらう機会がある。というか我がクラスの主力なのだから機能停止はかなりの痛手となる。
だがこのままでは彼女はずっとこのまま悔やみ続けるだろう。
俺は多少のリスクを感じながらも彼女の頭に手を乗せる。
「リーフ、お前、いやお前たちはよく頑張った。感謝する」
「せ、せんせい?」
リーフは目の下に大粒の涙を溜めた顔を静かに上げる。
「いいかリーフ。世の中は上手くいかないことで溢れている。お前が陰で誰よりも頑張っていたことは俺も承知しているつもりだ」
「み、見ていたんですか?」
そっと頷き、頭に乗せた手を優しく動かし始める。
リーフは陰の努力者だった。夜遅く、講師陣ですら揃って帰りだす時間帯の時にも彼女はずっと演習場にいた。
当時仕事が終わらず夜勤続きだった俺はその姿を何度も目にしたことがある。
そして月の光で照らされた夜の演習場にいたのはいつものような控えめなリーフではなく、真剣な眼差しを向け、顔を強張らせた力強いリーフだった。
普段こそおっとりしていてしっかりかつ温厚なリーフだがその時に見た彼女の姿はまるで別人であった。
そんな姿を見てしまったからこそ、俺は下手に励ますことができない。もしここで俺が間違った励まし方を敢行すれば彼女のプライドを傷つけかねないからだ。
俺はただひたすらリーフの頭を撫でた。
そして俺は一言、
「リーフ、お前がこの数週間で鍛え上げてきた力はこのクラスにとって必要な時が絶対にやって来る。報われない努力などこの世にはないのだ。次の試合も頼んだぞ」
そう言って俺は静かに彼女を去る。本当はもっと励ましの言葉を言ってあげたい。
でも、それは今俺がやるべきことではない。今は列記とした戦の最中なのだ。次の競技に考えを切り替えなければ負の連鎖は一向に止まることはない。
だからこそ、上手くいこうがいかまいが即座に次の戦いのことにシフトしなければ勝利への希望すらなくなる。
「後味は悪いが今は次に集中せねばならない。そう、勝つために……」
■ ■ ■
決勝戦では一競技ごとにインターバルが設けられており、時間で言って大体15分程度。その間なら休養するなり作戦会議するなりして特にこれといった決まりはない。
もちろん、俺たち1年A組はその15分を作戦会議に注ぐことにし、待機所に講師陣三人を含め全員集合で次なる競技の作戦を立てていた。
「聖剣ですか!?」
「うむ。彼らの持っていたあの剣、あれは聖剣だ」
「それマジかよ。聖剣っつたらあの聖剣だよな」
「どういうことだよせんせー、何で何も言ってくれなかったんだ!」
案の定、聖剣と聞いてざわつく待機室。
もちろん、俺が聖剣についての情報を彼らに言わなかったことには理由があった。
「お前たちには何も考えずに彼らと戦ってほしかった。試合前に聖剣なんて単語を発すれば下手に考え込むだろう?」
「そうであっても事前に知っていれば対策のしようがあったかもしれないじゃんか。まさかの一戦目から圧倒的敗北を味わうなんて思ってもいなかったぜ」
舌打ちをしつつこう言うガルシアに俺は、
「ならガルシア一つ聞くぞ?」
「な、なんだよ」
「お前はあの試合を見て何か学ぶことはあったか? 対策は見つけられたのか?」
「そ、それはどういう意味だ」
「単純な話だ。勝つための策は見えたかと聞いている。お前はあの試合をじっくりと見ていたな? ならば何か気づくこともあろう」
そう言われるとガルシアは急に黙り込んでしまった。顔を険しくし、歯ぎしりを立て貧乏ゆすりが激しくなる。
「ん、ないのか?」
「ちっ……」
「ふむ。まぁ普通はそういう反応になる。すまなかったなガルシア、いじめるつもりはなかったのだが」
「くっ……」
不本意な表情を浮かべ目をそらすガルシア。
そんなやり取りを横で見ていたフィオナは俺に向かって手を挙げ、
「あの、先生。先生は何か対策を考えていらっしゃるのでしょうか? 恥ずかしながら私は全く思いつきません。空術の試合はしっかりと見ていたつもりなのですが……」
フィオナは正直に自身ではまったく考えが浮かばないことを話す。だがそれが普通であり、俺が望んでいた答えでもあった。
そりゃ相手は伝説級特殊武具の一つである聖剣を使う猛者たちだ。そのような雲の上の存在に等しい集団の相手をしていれば考えが詰まるのも必然的。
考えが出るとすればその力さえも超越するもの。そう……例えば俺たち神魔団のような存在だ。
俺の頭の中には既に聖剣集団に勝つためのビジョンが出来上がりつつあった。
勝てる見込みもある。
後はこのA組全員が俺の作戦にどう適応してくれるかが肝だ。そして限りなく正解へと近づけるか否かも彼ら次第と言える。
ここから彼らの心境がどうシフトしていくのか。
良い方向か悪い方向か……それは俺でも分からない。
だが確信していることが一つだけある。
それは決して勝てないような相手ではないということだ。
あの十人の聖剣使いを見る限り、彼らは聖剣という武具がどういうものか知らないということは理解できた。
そしてその瞬間を悟ったのはあの聖剣集団の一人であるスキンヘッドの男子生徒が見せた聖剣を呼応させる能力は【コネクト】と呼ばれる特殊型身体強化系の魔術だ。
そもそもの話、聖剣というのは相手を切り裂いたりするものでも契約の代償の代わりにその能力を自分へと還元させる……というものでもない。
あの剣たちは正確に言えば権力が形となって具現化したもの、大雑把に言えば確固たる支配者の象徴として作られたのが始まりである。
あの絶大な能力が秘められているのも権限を持つ者の絶対支配を民へと見せつけるため。
なので誤った使い方をすれば自動的に能力は収縮されていく。逆に正しい使い方を知ってしまえばこれほど恐ろしい武具はないとまで言い切れてしまうほどだ。
だがどうやら彼らはその正しい使い方とやらを知らないご様子。なので実質上、彼らが扱っているあれは聖剣というよりかはちょっと強力な魔力が込められた魔法の剣と言った方が正しい。
だからこそ負ける気が全然しないのだ。
『―――次戦開始まで残り5分を切りました。両チームは準備を整えた上、アリーナへと集まってください』
「おっと、もうそんな時間か」
警告のアナウンスが待機所に流れる。
俺はこの15分で彼らに出来る限りの情報を与えた。
そして次からは―――
「勝ちに行くぞお前ら! 気合い入れていけ!」
「「「「「はい!」」」」」
クラス内士気は上々。その甲斐もあって先ほどまで気持ちの落ち込みを見せていたリーフも回復したよう。
次なる競技は身体と身体のぶつかり合い、体術競技だ。
俺たちは再度気持ちを切り替え、大観衆の見守るアリーナへと戻っていく。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる