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第4章 おっさん、祭りに参加する
第58話 成長
しおりを挟む「よーい」
この瞬間、周りは静けさを増す。
―――ピーッ!
笛の音が鳴り、両者一斉にスタートをする。
今日はB組との最後の模擬戦。
前回負けているのもあり、俺たちは特訓をして今日を望んだ。
第1飛者は前回と変わらずリーフが先陣を切る。
相手は前回と変わらずリアムが第1飛者だ。
滑り出しは両者とも互角。
ここまでは前回と同様、何も問題はない。
問題はその次の第1カーブだ。前回の模擬戦ではここで決着がついたと言っても過言ではない。
リアムは前回と同様にスピードを落とす気配はない。恐らく同じ戦法だ。
対するリーフのスピードはぐんぐんと落ちていく。
「前回と変わった様子はありませんねぇ。今日も我々の……」
その時だ。カーブに入りかかろうとした途端にリーフのスピードはどんどん上がっていく。
そしてぴったりとリアムの後ろにつけた。
「どういうことですか!? 確かにスピードは落ちていたはず!」
(ふん、どうやら驚いているようだな)
そう、これこそが一昨日の特訓で身に付けた新技だ。
カーブに入りかかる直前に一気にフルスピード、そして相手の後ろにぴったりとつけることによって前方からの風を遮断。
これならスタミナを減らすことなく効率の良い速さを実現することができる。
俺は特訓でこれを教えていたのだ。
B組の戦法は確かに鋭く、瞬間的なスピードはとてつもないものだ。しかし、それと同時にスタミナを代償にしなければならないという欠点も兼ね揃えている。
俺は彼らのその能力を上手く利用したということだ。
この戦法が実現できたのは俺が着任した当初、彼らに感覚の扱い方を教えたことが大きかった。
魔力の流れを曲がる方向へ一気に持っていくことによってスピードを落とさず曲がることができる。
ただそれでは彼らのスタミナが尋常ではないくらい必要になる。
それで編み出したのがこの戦法ということだ。
「なるほど……さすがレイナード先生ですね……」
終盤に差し掛かるとB組の勢いが一気に落ちた。
そして最後はアンカーのセリナが一気に追い抜き、逆転。我々A組は前回の敗北を払拭する逆転勝利を収めた。
「せんせー! 勝ちましたよ~!」
「ああ、よくやった」
真っ先にリーフが俺の元へやってくる。
輝くような眼差しを向けられ、少し動揺する。
だが良かった。この勝利はメンバーにとって非常に大きなものとなっただろう。
魔技祭まで期間はそこまでない。短時間の特訓で適応してきた彼女たちの才能はやはり素晴らしいものだ。
これなら十二分に優勝できる。
「よし、ひとまず初勝利だな。だがここで立ち止まるわけにはいかないぞ。他の競技も磨きをかけなければならないからな」
「そうですね。でもこれからどうすれば……」
勝利とはいえ、やはり不安があるのだろう。
リーフは不安げな顔する。
だが助言ばかりでは彼女らのためにはならない。
突き放すようで悪いが、ここは自分たちで考えてもらうことにしよう。
「お前がリーダーとなって練習をしておけ」
「えっ……? 私が……?」
「ああ、そうだ」
さらに不安を募らせたような表情をする。
奥手な彼女の性格上、無理もない。
リーダー格の人物ではないことは承知の上だが、能力あるものが先頭に立ったほうが良いのは明白だ。
「大丈夫だ、リーフならやれる。自分を信じろ」
考えるリーフ。でも勝ちたいのは一緒だ。
彼女はすぐに決断する。
「……はい、分かりました」
「よし、空術競技のことは頼んだぞ」
「はい!」
元気の良い返事だ。
この分なら問題ないだろう。
「お前たちもリーフに従って勝ちを狙いに行け! わかったか?」
「「「「「はい!」」」」」
こうして二度目のB組との予行演習は勝利で幕を閉じた。
* * *
「くそっ!」
思いっきり地面を殴るリアム。身体全体から悔しさがにじみ出ていた。
「リアム、落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられるか! 俺たちはまんまとハメられたんだ」
「でもまぁ、これが結果だから仕方ないんじゃなぁい?」
「そうですね、また対策を考えなければいけませんね」
B組主力メンバーたちがリアムの前に集まって来る。
ラルゴもその後に続く。
「申し訳ありません皆さん。私の判断ミスです」
「そうだ、お前が……!」
「リアム!」
ラルゴにくってかかろうとしたリアムを姉のルーシアが止めに入る。
「ちっ……」
姉には逆らえないのか素直に引き下がるリアム。彼は筋金入りの負けず嫌いなのだ。
今は悔しいという感情の高まりを抑えきれないという感じだった。
「リアムくんの気持ちも分かります。今のままでは優勝はできません。”あの方”どころかA組にも」
「先生もそう気を落とさないでください。まだまだこれからですよ」
「ありがとうございます、ルーシアさん。もう一度皆で考え直しましょう」
(そう……全ては私の悲願のために……)
その爽やかな素顔の中で彼は密かな闘志を燃やしているのだった。
* * *
全てが終わったのち、俺は講師室でぐったりとしていた。
「ああ……疲れた」
色々と頭を使った上にあの暑さだ。
もう既に頭のネジが取れたのではないかと疑うくらい脳の機能が停止していた。
「魔技祭まであとギリギリ一か月ってとこか。他の競技にも目を光らせないとな」
しかし全ての競技を完璧に磨き上げるのはほぼ不可能。それはどのクラスにも言えたことだ。
最後に勝つのは少ない時間でどれだけ競技のことを知り、能力を最大限に発揮できるかだ。
とりあえず……今は休むか……
この停止した脳では何を考えても無駄だ。
今はこのクソみたいに疲れ切った身体を癒すことが先決だ。
俺はそのまま自分の作業机に突っ伏し、いつの間にか深い眠りについていたのだった。
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