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第3章 おっさん、冒険をする

第46話 帰還

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「うっ、うう……ここは?」
「ん? 起きたか?」

 レーナとオルカが揃って目を覚ます。

「れ、レイナード? ここって……」
「ああ、講堂の外だ」
「あ、あれれ? 私……あの時、結界に飲み込まれてそれで……」
「ん? オルカ、記憶がないのか?」

 オルカはうんと頷く。

「そ、それよりレイナードさんって男の人だったんですか!?」
「え? あ……」

 そういえば元に戻っていたんだった。レーナも元に戻っていたみたくオルカは全く姿が違う俺たちをみて呆然とする。

「ま、まぁ色々事情があったんだ。これが俺たちの本当の姿ってことだ」
「お、驚きです。まさか変装が得意な方々だったなんて……」

 何か俺たちを芸人か何かだと勘違いしているらしいがどちらにせよ都合がいい。
 話すと長くなるしな。
 
 それにしても俺がゲッコウの作りだした仮想世界にいた時、彼女たちはどこにいたのだろうか?
 レーナもどうやら記憶を失っているみたいだった。
 
 たが俺は鮮明に残っている。
 何かの過程で記憶操作が行われたのだろうか?

 いや、詮索しても無意味だな。
 とりあえず、ハルカが起きるのを待つか。

 と、ここでいきなりレーナが、

「れ、レイナード! ゲッコウは? どうなったのですか?」
「え? ああ、オレが倒した」
「え、ええええええ!? あのゲッコウ様を倒したって……」
「ウソじゃないぞ? なんなら証拠を見せようか?」

 俺はオルカの手足に縛られた鎖を魔力による圧で引きちぎろうとする。

「れ、レイナードさん! それは……それはダメです!」
「いいから、見てろ」

 俺はそのまま鎖を引きちぎる。
 
 するとどうだろうか。魔術が発動しないではないか。

「あ、あれ……? 魔術が発動しない?」
「これで分かっただろう。奴はもういない」
「そ、そうなんですね……私、もう……」

 オルカは思わず笑みを浮かべる。

 するとハルカが、

「ん……頭が……」

 頭を抱えながら起き上がる。

「やっと目覚めたか?」
「えっ……レイナード……先生? それにレーナさんやオルカまで……それにここは?」

 状況把握がまだできていない様子だ。
 
 俺はハルカを救うまでのいきさつを全て話した。

「そんな……ゲッコウ・スメラギがそう簡単に……」

 一番驚いたのはオルカと同じくゲッコウについてだった。
 ハルカは唐突に目を瞑る。

「……ホントだ。ゲッコウの気配が……」
「な? オレは嘘はつかない」

 しかしどうも信じられないようで、

「レイナード先生……あなたは一体何者なんです?」
「ただの魔術講師だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 まさか自ら魔術講師を名乗ることになるとは。
 数か月前の俺では考えられないことだ。

「それでレイナード、これからどうするの?」
「ん? もう用は済んだから帰るぞ」
「えっ……?」

 そう、俺はレーナたちが目を覚ます前にやるべきことをやっておいた。

 だがやることはただ一つ。そう……人々の洗脳を解くことである。。
 薄々感じ取ってはいたが、ゲッコウは洗脳によって巨額の財産と地位を得ていたのだ。
 洗脳者は幅広く、使用人から国の関係者まで全ての人間を洗脳によって支配していた。

 確かにアンデッドは洗脳系の魔術は得意分野だ。
 アンデッドとしてのメリットを最大限に活かし、奴はこの世を生きていたわけだ。

 関わる全ての人間を洗脳によって手中に収めていたため、面倒なことなく事態を解決することができた。

 ゲッコウの財産の源、奴隷売買も商人を洗脳によって操っており、これも難なく解決することができた。 

 一つ驚いたことを言えば、洗脳だけで権力を牛耳っていたことだ。
 高い能力を持った者が洗脳魔術を使えば、国さえも支配できる。

 昔と比べて国家が衰退している証拠だ。
 ひと昔前ではそう簡単に国を支配することはできなかった。

 ある意味、恐ろしい世の中になったものだ。

 そして全てを終えた後、全ての洗脳者からゲッコウ・スメラギの記憶を消した。
 語り継がれるには色々足りない男だ。
 なかったことにすればこの国にとっても都合がいいだろう。

 俺はスッと立ち上がる。

「さ! 帰るか!」

 俺が歩き出すとハルカが、

「あ、あのっ! レイナード先生」

 俺は後ろを振り向く。

「なんだ?」

 彼女はもじもじしてなにか言いたげな様子だった。

「どうした? 他に何かあるのか?」
「い、いえっ! そうじゃなくて……その……」

 なんだ? 事件は解決したのになぜ不安そうな顔をする?

 ハルカの表情に疑問を抱く。

 すると、

「あっ、あのっ! 私たちもご一緒してよろしいのですか?」
「は? どういうことだ?」
「その……お二人には多大なご迷惑をおかけしました。感謝してもしきれません。それなのに……」

 彼女たちは罪を感じているようだった。
 ハルカとオルカの表情はどこか不安が残る、そんな顔をしていた。

 それを見て俺は溜息をつく。

「はぁ……おいハルカ」
「は、はいっ!」

 思わず声が裏返ってしまう。

「もう一度確認するがオレたちは何をしにここまで来た?」
「そ、それは……」
「お前に自由を与えるためだ。それ以外に理由はない。そうだろ?」

 ハルカは黙ってしまう。

「オルカにも言ったはずだ。自由を与えるとな」
「は、はい……」

 オルカもどこか引っかかるような顔を見せる。

「そういえばうちの学園長様が美人な先生と可愛い生徒が欲しいって言っていたなぁ」

 俺は続ける。

「しかも早急にだ。誰か適任はいないものか……」

 俺は二人の元へ寄る。

「じゃあ、オレから頼もう。ハルカ、オルカ、ついてくるんだ」

 ハルカとオルカは下を向いた顔をゆっくりと上げる。

「い、いいのですか……?」
「ああ、オレから頼んでいるんだ。責任は取ってやる」
「本当ですか? 私みたいな奴隷なんかがそんな甘えたこと……」
「オルカ、お前はもう奴隷じゃない。これから一人の人間として自立するんだ」

 二人の表情が段々と明るくなっていく。

「さぁ、どうするんだ? お前たちの本音を聞きたいだけなんだが」

 こういうとハルカとオルカは少しだけ微笑んで、

「その……私たちを連れて行ってください!」

 二人は声を張り上げる。

「よし、じゃあ帰りの馬車を手配しよう」
「はい! 私が手配してまいりますっ!」
「手伝います!」

 自由という名の解放を得た彼女たちは初めて会った時より幾分も生き生きとしていた。

「はぁ、世話のかかる奴らだ」

 するとその横でレーナが微笑ましく見ていた。

「なんか言いたげだな」
「はい。さっきのレイナード、凄くかっこよかったです」
「ふん、お世辞は止めろ」
「あ、もしかして照れちゃったりしてます?」
「バカにするな。そんなわけあるか」
「またまたー」
「ちっ……」

 俺は舌打ちをしつつハルカたちの後を追う。

「まぁあれだ……悪かったなこんなことに付き合わせて」
「どうしたんです? レイナードらしくないですよ。私は全然気にしていないですよ」
「らしくない……か。それもそうだな悪い」

 昔の俺では人助けを進んでやろうなど思わなかった。
 面倒事には一切関与しない。そういう人間だったのに。

 なんだろうか、気分は悪くない。

 

 そうか……これが……

 
 俺は今まで感じたことのない感情を抱きながら、クロードへの帰路を辿る。




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