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第3章 おっさん、冒険をする

第30話 いざ、東の国へ!

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「すまんなレーナ。休日に付き合わせてしまって」
「いえいえ、事情を聞いて力になりたいと思ったので大丈夫ですよ」

 出発日当日。
 俺は学問研究という理由をつけて長期休暇を貰った。
 レーナも助手ということで同伴することになった。
 ちなみにレーナには協力してもらうべく真相を伝えてある。

 初めは同伴させるつもりはなかったのだ。
 ただ作戦を実行するにあたって一人だと効率が悪かった。
 ハルカは大胆には動けないし、何より協力者がいた方が負担も減る。
 なので仕方なく関係のない彼女を巻き込んでしまう結果となった。

「それでは皆さんをホンニへと案内します」

 ハルカは予め使いの馬車を手配しており、俺たちは東の国、ホンニへ向けて出発した。
 片道5時間以上の旅だ。
 2日、3日かからないだけでも助かった。
 それもそのはずホンニはクロード王国から東に進んだ隣国、ホニール王国のことだった。
 まぁ、行ったことはないのでどんな所かは分からない。

 焼けつくような暑さが俺を襲う。
 到着する前に俺がくたばりそうだが、気力でなんとかするしかない。

 ―――ガタガタガタ。

「暑い……死ぬぅ……」
「頑張ってください、レイナード」

 水筒に入れた水をレーナが差し出す。

「す、すまん」

 水を受け取り、ゴクゴクと飲みまくる。

 出発してから5時間くらい経っただろうか。
 早朝に出発したので時刻は昼時を迎えようとしていた。

「おい、ハルカ。どれくらいかかるんだ?」
「そ、そうですね……あと山脈を2つ越えなければならないのでざっと5時間くらいでしょうか」
「ま、マジか……」

 まだまだ長い旅路に意識がぶっ飛びそうだった。
 ぐたーっとしている俺の額にレーナが水を含んだハンカチを乗せる。

「大丈夫ですか……?」

 心配そうな顔をするレーナに俺は小さく頷く。

 魔術講師になってから色々ありすぎる。なんでこう度々イベントが重なるのだろうか。

 意識が朦朧もうろうとする中、馬車は目的地に向かう。
 
 山脈を超え、2時間ほどが経過した。

 すると、

「二人ともあそこを見て下さい!」

 ハルカが指差す方向を向く。

 その先にあったのは見たこともない巨大な湖だった。

「わぁ……綺麗です!」
「なんだ、ただの湖じゃないか」

 温度差が激しい。
 とにかく俺は生き抜くことに必死でそれどころではなかった。

「少し、休憩していきましょうか」

 ハルカの提案で湖近くで休むことにした。
 
 馬車を止め、湖に近づいていく。

「スゴイ……近くで見るとさらに綺麗ですね!」

 確かに神秘的な湖だ。
 日光に反射してここまで美しく輝く湖は見たことがない。

「ここはワビといってホンニ領最大の湖なんですよ」
「ん? ここはもうホンニなのか?」

 湖よりあとどれくらいで着くのが気になって仕方がない。
 とりあえず俺が気力を保てる限界までには到着をしたかった。

「はい、一応領内に入ってますよ。王都まではもう少しかかりますが……」

 まだまだ先だと思っていたので気持ちに余裕ができる。
 思ったより早く着くようなのでふぅーっと安心する。

「これだけ暑い日だと泳ぎたくなりますね」

 レーナが湖の水を触りながらボソッと言う。

 これを聞いていたハルカは、

「じゃあ、泳いでみます?」
「えっ……泳げるんですか!?」

 驚くレーナにコックリと頷く。

「おい、水着はどうするんだ? まさか全裸で泳ぐんじゃあるまいな?」

 木陰で話を聞いていた俺がハルカに聞く。

「ぜ、ぜぜぜぜぜ全裸ですか!?」

 俺の言葉を真に受けてしまったレーナが混乱し始める。

「んなわけないじゃないですか! レーナも落ち着いてください」

 混乱したレーナを落ち着かせる。

「じゃあどうするんだ?」
「まぁ見ていてください」

 ハルカは周りをキョロキョロしながら歩き出す。

「えっと……あ! これでいいかな」

 そう言って手に取ったのは二枚の大きな葉であった。

(何をするつもりなんだ?)

 ハルカはその葉をそばに置き、手書きで魔法陣を描き出す。
 そしてその魔法陣の上に葉を乗せ、詠唱を始めた。

「変成せよ。我、ハルカ・スメラギの名において欲するものの型となれ≪トランスドマター≫!」

 するとその二枚の葉は次第にヒト型になっていく。
 そして数秒後には葉でできた水着が完成していた。

「これは……変成術か」
「そうです、よくご存じで」
「こんな術があったんですか!?」

 レーナは初めて知ったようだった。
 まぁ、それも無理はない。
 なぜなら変成術は限られた人間しか使えない人を選びに選ぶユニーク魔術。

 ちなみに俺は試したことがない。
 だが、この魔術だけは生まれつきで特別な力を持った者しか発動させることはできないというのだけは聞いていた。
 生で見たのは初めてだが、不思議な感覚だった。

「ハルカはどうして変成術なんてものを使える?」

 俺が聞くとハルカは、

「これも私が魔術師になる決意をした一つの理由でもあるんです」

 ハルカが言うにはホンニで魔術師を目指す者はごく少数だという。
 ホンニでは剣術や体術を主に幼少期に叩き込まれ、魔術という物は異国人が持ってきた災いの種として教えることは一切なかった。
 それでも不運にも魔術の才能を持ってしまった者は周りに毛嫌いされながら魔術師として生活していた。
 ハルカもその一人だったようだ。

「そんな国があるんですね……」
「魔術が主流になったご時世で大きく劣る剣術や体術を教えられるとは……ある意味不運だな」

 俺は皮肉交じりに言う。

「で、でも今は少しずつですけど魔術師を目指したいっていう人が出てきているので昔と比べたらいい方ですよ。それより早く泳ぎましょう!」

 ハルカは気を取り直して完成した葉っぱでできた水着をレーナに渡す。

「あ、レイナード先生の分を作るのを忘れていました。すぐにつくりま……」
「いや、オレは勘弁だ。ここで疲れたら確実にくたばる」

 すぐさま拒否。
 二人だけで遊ぶよう言う。

「そうですか……残念です。じゃあレーナさん着替えましょう!」

 そういうと彼女はその場で服を脱ぎだした。

「ちょちょちょ、ハルカ!」「おい!」
「えっ……?」

 この表情は全く自覚のない顔だ。
 異性が目の前にいる中で服を脱ぎだすとは……まさに奇想天外な行動をする奴だ。
 もう少し若ければ目を引くものであっただろう。

「私はそこまで気にしないのですが……」
「いやいや、世間一般的にアウトですよ!」
 
 どうやら彼女に羞恥心というものはないようだ。
 その後ハルカはレーナに説得され、木の陰で隠れて着替えることになった。


「はぁ……オレの周りはアホばかりで困る……」


 俺は大きな樹木に背中を預ける。
 そして涼しい風の吹く木陰の下で目を瞑り、彼女たちを待った。
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