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第2章 おっさん、旧友と会う

第20話 レイナードの休日3

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「ふぅ……やっとか」
「これで食材は揃いましたね!」
「そうだな」

 俺はレーナと王都でバッタリと会い、彼女の買い物に付き合った。
 そして俺の買い物にも付き合ってもらうということで同行してもらった。

 で、今その買い物が全て終わったところだった。

「レーナはこれから”あの人”の元へと行くのか?」
「あ、はい。あ! もしよろしければご一緒しますか?」
「え?」

 予想もしない誘いに少し動揺するオレ。
 だが俺は、

「いや、オレは部外者だ。関係のない人間が立ち入るのはいささかどうかと」
「い、いえ! いつもお世話になっているということで……挨拶と言っても私の故郷みたいなものですから」

 レーナは続ける。

「そ、それにかなり前に連絡した時にレイナードの事を話したら「是非会ってみたい」と言っていましたし……」
「だ、だが荷物がこんなにあるのでは……」

 するとレーナはニコッと笑って、

「私が手料理をご馳走しますよ!」
「……!」

 悪くない。正直最近、自分の作った料理が不味いことにも悩んでいた。
 どんなに作っても不味くなる。
 アジトにいた時がどんなに幸福であったか理解することができた。
 魔術はすぐに会得できるのに料理は中々会得できなかったのだ。

「いいのか?」
「はい!」とレーナ。

「じゃあ、世話になるとしよう」

 ということでレーナの恩人宅に俺も行くことになった。

「どうやって行く?」
「馬車を使います。ここから30分くらいの場所にあるものですから」
「なら乗降場に行かないとな」

 俺たちは馬車乗り場まで足を運ぶ。

「それにしてもこの街は綺麗ですよね」
「そうだな、どの産業で進出しても黒字で返ってくる可能性が高いからな。この国は」
「それほど繁栄しているんですね」

 話を聞く限りレーナは王都に住んでいるわけではなさそうだった。

 俺は試しに聞いてみる

「レーナは此処に住んでいるわけじゃないのか?」
「はい、王都の外れにあるクルトっていう町に住んでます」
「そこで一人暮らしか」
「そうですね」

 距離で大体王都から15分ほどの場所だった。
 小さい町ではないが静かで住みやすく、住民同士のコミュニティもあってとてもいい町だそうだ。

「そういえば、レイナードの故郷ってどんなところなんですか?」
「故郷か……」

 難しい質問である。なぜならほとんど記憶にないからだ。
 人が寄り付かないような小さな村に生まれ、育ったらしいがあまり覚えていない。
 学園の記憶はある。学生時代は寮に住んでいた。
 だが、その前の記憶がないのである。

「あまり……覚えてないな」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、小さな村に生まれたというのを聞いたのは覚えているのだが」
「そうですか……なんかすみません。あまり良い話ではなかったみたいで……」
「いや、気にするな。過去の事だ」

 落ち込むレーナに一言言う。

 と、こんな話をしている内に乗り場にたどり着いた。
 
「じゃあレーナ。案内頼む」
「は、はい! 分かりました!」

 俺たちは馬車に乗り込もうとする。

 その時であった。

「ん……あれは何だ?」

 俺の目に入ったのは一人の女性の不穏な動きだった。
 その後ろから時間差で数十人の男たちが追いかけているようにも見えた。

「どうしたんですか? レイナード」

 クイっと首を傾げるレーナ。
 
「悪いレーナ。少し時間をくれ」
「えっ!?」

 そういうと俺は荷物を馬車に預け、その現場へ真っ先に向かった。

 


 * * *



 女性は走る。

「はぁ……はぁ……はぁ……ここまで来れば……」

 足を止め、身を潜める。

「もう休憩ですか?」
「……!?」

 振り返ると黒いローブを纏った数十人の男たちの姿があった。

「くっ……!」

 女性は逃げようとするが一気に囲まれる。

「もう逃がしませんよ」
「どうして! どうして私を狙うんですか!?」
「はぁ……あなたはまだお分かりになっていないのですね」

 先頭にいる男が呆れたように言う。

「あなたは我々財団の掟を破っただけでなく、重要書類を持って逃亡まで図りました。総帥から処分するよう命(めい)が下っています」
「な、何かの間違いです! 私は総帥に頼まれて……」
「頼まれて? そんなことを総帥が頼むわけないでしょう。言い訳など見苦しいですよ」
「ほ、本当です!」

 必死に説得するも男には届かなかった。
 そしてその男は手を彼女めがけて翳し、

「あまり時間をかけるわけにはいきません。あなたには此処で死んでいただきます」
「……!」
「それでは……存分に死者の世界で所業を後悔してください」

 魔術を発動しかけたその時、

「おい、ちょっと待て」
「ん?」

 なんとか間に合ったようだ。
 男たちは一斉に俺の方を向く。

「あなたは何者ですか?」
「通りすがりの冒険者だ。女性が襲われているのをたまたま目撃してな。追いかけてきたわけだ」
「冒険者……ですか。それにしては貧相な服装ですね」
「悪いな。これがオレのスタイルなんだ」

 すると男たちはヒソヒソと話し始める。

「おい、結界を張ったはずだ。なぜ入ってこれる?」
「いや……張ったはずですが……」

「結界の話か? それならオレが壊しといてやったぞ」
「なに?」

 男たちは驚きを隠せないようだった。

「バカな……平凡な冒険者ごときがあの結界を破れるはずなど……」
「そうか? 貧弱な結界だったぞ?」
「レイナード!」

 すぐ後ろからレーナが追いかけてきた。

「レーナ、下がってろ」
「あ、はい……」

 俺は彼らの元へと近づく。

「あまり面倒なことに巻き込まれたくはないのだが、よってたかって弱者をいたぶるのは快くないな」
「っ……! 面倒なことになりましたね。皆さん、戦闘準備!」

 ザザっと周りの黒ローブの男たちが構える。

「じゃ、怠いんで一瞬で終わらせてもらう。≪ファストムーブ≫」

 一瞬だった。
 視認不可能な速さで次々と敵をなぎ倒していく。

「なんだこいつは! ぐあっ!」

 ざっと1秒かかってないくらいだろうか。
 いつの間にか男たちは地面に突っ伏していた。

「すごい……魔術を使わず、体術強化だけで……」

 驚くレーナ。
 そしてその脇にビクビクとする女性の姿が。

「大丈夫か?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「こんなに大勢に追われていたみたいだが、何かあったのか?」
「あ……はい。ちょっと職場で……」

(そんな小さいことでもない気がするが……)

「まぁ、無事なら何よりだ。これからは気を付けるんだな」
「す、すみません。お手数を」
「気にするな。では」

 レーナに「行くぞ」と呼びかけその場を去ろうとする。
 するとその女性は、

「あ、あの……!」
「ん?」
「その、ハルカ……ハルカ・スメラギです! あなたは?」
「レイナード・アーバンクルスだ」
「レイナード……アーバンクルス……」

 彼女はその名を心に刻む。

 
 そして俺たちはレーナの恩人の住処へと向かうべく、馬車に乗り込むのであった。
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