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第1章 おっさん、魔術講師になる
第16話 レーナの悩み 前編
しおりを挟むとある日の朝。
「はぁ……」
レーナは深く溜息をする。
「どうしたレーナ? 溜息なんて珍しいな」
「あ……ご、ごめんなさい! 私、溜息してました?」
彼女はどうやら自覚がないようだった。
「ああ、お前らしくない溜息だったぞ」
「そ、そうですか……」
よくよく考えてみれば前に行った課外授業からこんな調子が続いている気がする。
少しだけだが、以前と様子が違う気がした。
「悩みでもあるのか?」
俺はさり気なく聞いてみる。
だが、レーナは首を横に振り、
「い、いいえ。大丈夫です」
「そうか。体調が悪いとかであったらすぐさま救護室へ行くんだぞ」
「は、はい。心配をおかけしてしまってすみません」
俯く彼女に俺はそっと答える。
「気にするな。お前には世話になっているからな」
その後のレーナはいつも通りだった。
クラスの生徒たちと仲良く話し、弛む様子もなく魔術講師としての仕事を全うしていた。
「ふむ……どうやら心配はなさそうだな」
俺もその後はいつも通りのだらけ自習授業でしっかりと睡眠をとった。
* * *
そして時刻は夕方。放課後になった。
「レイナードは……もう帰宅しましたね。相変わらず帰るの早いなぁ」
講師室にあるレイナードのデスクを確認する。
「さてと……私は処理しきれていない書類を片付けないと」
溜まりきっている書類を手に取り、仕事を始める。
だが、数十分経つと集中が途切れてしまう。
いつもは何時間やっても集中が途切れることはなかった。
なのに今回はたった数十分しか集中ができなかったのだ。
理由は自分でも分からなかった。
(どうしちゃったんでしょうか……イマイチ乗り気になれません)
レーナは気晴らしのために学園の最上階にある展望デッキへと行く。
「……きれい……」
展望デッキからは王都全体が見渡せる。学園内にある絶景スポットだ。
真っ赤な夕焼けが王都全体を茜色に染めあげる。
その景色には前に課外授業で行ったハーバー高原も見えた。
「私とレイナードが恋人同士に……周りから見ればそう見えるのでしょうか」
突然、あの時の記憶が蘇る。
そして彼女は『はっ』と思いつき、
「もしかしたらこの悩みが原因で仕事が……」
いつものように仕事に集中できないのはこの悩みのせいなのかもしれない、そう思い始めた。
悩んでいるという自覚がそれまでなかった。だが、今思うと悩んでいないということは嘘だったことに気付く。
それと同時に恋人関係という目で同じようにレイナードも見られていて迷惑したりしていないか、もしかしたらそういうのが彼のストレスの原因になっているのではないかと心配するようになる。
「悩みはないか……か……」
時折吹く気持ちのいい涼やかな風が疲れた身体をリセットしてくれる。
今の悩みと疲れで疲弊しきった身体には丁度いい薬だった。
「もうすぐ暑い時期が来ますね……」
身も心もリフレッシュしていると背後から聞いたことのある声がした。
「先生ー! レーナせんせー!」
「この声は……」
後ろを振り向くとフィオナの姿があった。
フィオナの金髪ロングヘアが夕焼けの色と同化してなんとも綺麗な髪色に変わる。
フィオナはレーナの元へと駆け寄る。
「こんなところで何をしているんですか?」
「仕事に集中できなくてここでリフレッシュしているの」とレーナ。
そして立て続けにレーナが話す。
「フィオナは何をしているの? 下校時間はとっくに過ぎているけど……」
「魔術の自主練習をしてました。少しでも早く上達したいので!」
フィオナの少し疲れた表情を見ると、すごく練習していたということがよく分かる。
「フィオナは努力家ね」
こう言うとフィオナは、
「そんなことないですよ。夢のために頑張っているだけです」
「夢?」
「はい。私の祖父は宮廷魔術師を志す心優しい人でした」
フィオナは続ける。
「私にいつも魔術のことを熱心に教えてくれて誰よりも努力家で、私は尊敬していました。数年前に病で亡くなってしまいましたけど、死ぬ間際まで私に魔術の事を教えてくれました」
「よっぽど魔術が好きだったのね」
「はい、それで私も次第に興味を持つようになって祖父が叶えられなかった宮廷魔術師になるという夢を叶えたいと思うようになったんです」
「それでこの学園に?」
「そうです! 今は亡き祖父の意志を受け継いで立派な宮廷魔術師になるのが夢なんです」
「そうなんだ。素敵なお話ね」
フィオナは少し照れるような仕草をする。
そして彼女は熱心に語り始める。
「ちなみに目標としている魔術師はアーク・シュテルクスト様です!」
「アーク・シュテルクスト……ああ、幻の大英雄と呼ばれた方ね」
「はい! 私の目標であり、憧れなんです。病でお亡くなりなってしまったのは残念でしたが……」
彼女の熱心さを見ると自分も魔術を習っていた時のことを思い出す。
私を救ってくれた恩人に魔術を教わっていた時の事だ。
「レーナ先生はなんで魔術講師になったんですか?」
「え……? 私……?」
聞かれたことがなかった質問に少し戸惑う。
フィオナほどたいそうなことではないけど理由はあった。
「聞きたいの?」
「はい! よろしければ是非聞かせてください!」
目を輝かせながら見つめるフィオナ。
彼女は私のことを先生として見てくれていることを思うと数年前の話が嘘のように思えてくる。
「分かったわ。私が魔術講師になったのは……」
レーナはフィオナに向かって魔術講師になった経緯を話し始める。
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