上 下
6 / 127
第1章 おっさん、魔術講師になる

第6話 俺なりの教育

しおりを挟む
 俺は今、演習場でクラス全員分の≪ファイアボール≫を見ている。

 そう、個々の実力を図るために。

 で、今ようやく最後の一人を見終えた。

「レイナード先生、これで全員終わりました」
「分かった」

 俺は再度、生徒たちを集める。

「ご苦労。一人一人の実力の把握はできた」
「どうでしたか? 先生」
「その前に一つ聞きたい。お前たちはさっきの演習を真面目にやっていたか?」

 こう聞いたのはわけがあって、こういう類のものは必ず一人は手を抜くような奴が出てくる。
 ソースは俺。魔術訓練の際、皆が真面目にやっている中でとことん手を抜いていたのを覚えている。
 手を抜いていたのは俺だけではなかったが。

 するとフィオナは、

「私たちは手を抜くようなことは絶対にしません! 私たちにはそれぞれキャスターとしての明確な目標があります」
「ほう、そうか。ならよかった」
「それで……私たちの魔術は……」

 ここで一定の沈黙の時間が流れる。
 そして俺は彼女らにこの一言を放つ。

「ああ、ゴミ以下だ」
「……えっ?」

 容赦なく一蹴。だが、これは俺基準で語っているものではない。
 そんなことをしたら大体のキャスターが過小評価になってしまう。
 優秀さ故、彼女らには足りない所が多々あったのだ。

「ゴミってどういうことですか?」
「言葉通りだ。お前たちはキャスターと名乗るに値しない」
 
 いきなりこんなことを言われたら腹が立つだろう。
 クラス全員の表情がガラリと変わる。
 するとこの言葉を聞いて一人の男子生徒がいきなり俺の前へ出てくる。

「なぁ先生、あんた何様なんだ? フィオナにマジメに授業をやるよう言われてやっとマジメになったかと思いきや俺たちにダメ出しか?」
「やめなさい、ガルシア!」

 フィオナはすぐさま止める。
 ガルシアとかいう男子生徒は『ちっ』と舌打ちをして後ずさる。

「すみません、先生」
「いや、構わないが」

 まぁ、本気で学びたいという向上心を持った者の中にこんなやる気のない奴がいれば腹も立つだろう。
 それが講師であるなら尚更だ。特に反論を言う理由もない。

「だが、悪いが今のお前たちはそれほどの価値だということだ」

 こう言うとフィオナが、

「先生、その理由を教えていただけませんか? 理由を言ってくれないとみんな納得しないと思います」

 俺に訴えかけるような目でフィオナは見てくる。

(納得……ねぇ。正直説明するのも面倒だな)

 ヒントを与えただけでなく、答えまで与えるなんて講師としてどうなのだろうか。
 ダメだと指摘され、改善点を自分で見出すのが俺なりの教育だと思っている。
 まぁ、理由として説明するのが長くなって面倒ということも含まれているため教える気はない。

 俺は皆に背中を向け、

「それくらい自分で見つけてくれ。今の自分で満足だというのならそれまでだし、足りないと思っているのなら何が自分には足りないのか考えろ」

 そして俺は少し間をおいて話を続ける。

「一つ。俺からお前たちに助言できるのは全員、キャスターとして能力が足りないということだ。話は以上だ、レーナ行くぞ」

 俺はそそくさと彼女らを置いて演習場から出ていく。

「あ、ちょっと……レイナード先生待ってください! ごめんなさい皆さん。またすぐに戻ってきますね」

 レーナも足早に俺を追いかける。

「―――くそっ、なんなんだよあの先生は!」
「―――最悪ね。前の担任のレックス先生がいかに優秀な講師だったかよく分かるわ」
「―――俺たちもあんなファイアボールすら知らなかった講師に教えられる方がごめんだっつーの」

 クラスの雰囲気は最悪となり、フィオナはあたふたしながらも皆に声をかける。

「み、みんなちょっと待って。先生には何か考えがあるのかもしれない」
「そういうけどさフィオナ。お前は悔しくねぇの? あんなことを言われて」

 ガルシアはどうも怒りが収まらないみたいだ。
 ずっと歯ぎしりをして怒りを露わにしている。
 周りも至る所から不満の声が飛び交う。

 するとフィオナはいきなり大声で、

「私だって悔しいよ! あんなこと言われてさ!」

 クラス全員驚きを隠せない表情をする。
 いつも冷静で優しかったフィオナがここまで感情的になったからだ。

「ぐっ……フィオナ? ごめん……」

 ガルシアはかける言葉を失ってしまった。
 フィオナの目には一滴の涙が。それが頬を伝って地面に落ちていく。

「そ、そのお前が悪いわけじゃねぇよ。悪いのはあのセンコーだ」
「そ、そうよフィオナ。あなたが涙する必要はないわ」

 だが、フィオナは大きく横に首を振る。

「違うの。悔しいのよ……ワタシ。今まで頑張ってきたことが否定されたような気がして……」

 するとガルシアはそっとフィオナの肩に手を乗せて、

「だったらあいつを見返してやろうぜ。俺だってすげぇ悔しいしプライドが傷ついた。あいつに一発くらわしてやらないと腹の虫が収まらねぇ!」

 ガルシアのこの言葉と共にクラスメートたちもレイナードを見返してやろうといい始める。

「み、みんな……そうだよね、先生が私たちのことを認めてくれるよう頑張らないとだね!」

 そして今一度、クラス全員団結してレイナードへの復讐を誓った。

 


 * * *





 一方でレイナードはレーナに行き先を阻まれていた。

「先生、待ってください! 今のはあんまりすぎますよ!」

 頭に付けた猫耳は猫が威嚇するときのようにピンっと尖る。
 怒っているというのがすぐ分かる。
 ある意味便利かもしれない。俺的に。

「なんだ、レーナ。俺は疲れたのでリラクゼーションルームで休みたいのだが」
「まだ授業は終わってませんよ?」
「別に終鈴まで授業をやらなきゃならんとは言われていない。それにあいつらも授業が早く終わってさぞ歓喜なことだろう」

 すると頭の猫耳がさらに尖り、レーナの表情は一層怖くなる。

「先生は何も分かっていません。あの子たちの本気の目を見ていないのですか? その上、理由も言わずに彼らのことをゴミと罵倒し否定して……」
「事実なのだから仕方がない」

 こう言うとレーナは俺から目を反らし、

「……もう、先生なんて知らないです! 私が何とかします!」

 そのままレーナは引き返し、生徒たちの所へと戻る。

(はぁ……講師ってのはなんでこんなに神経を使うのだろうか)

 俺は深く溜め息をつき、臀部を掻きながらリラクゼーションルームへと向かう。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

方丈学園退魔クラブ1 今日から君も退魔クラブだ!

バナナチップボーイ
ファンタジー
方丈学園に通う相馬宗一はふとしたことから学年一の美少女である瀬戸田檸檬と出会い、怪しげなクラブ活動に勧誘される。この学園を影から守っている(?)という退魔クラブに勧誘されてしまうが…。怪しくもヤバイ連中とのドタバタ学園ハートフルアドベンチャー←(?)。以前、アマゾンで販売して身内にしか売れなかった快作をいよいよupする!!!!!! 需要あれば続き書くよ。いやマジ本当に…。  その昔々、小説を作ってみようと言うことで知人と作成しました。「学園物が良い」ということで書いてみました。※古めかしい設定など出てきますが、当時のものなのでご了承ください。いやー、個人的にはこういうノリも好きなんだけどねー……。今の子たちはどうなんだろうねー……。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...