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第1章 おっさん、魔術講師になる
第4話 新任講師は怠惰
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『とりあえず自習やっとけ』
放ったこの一言で教室内が物音一つしない静寂の空間へと化す。
(なぜだ? なぜ皆、不思議そうな顔をするのだ? 普通、自習と言われたら飛び跳ねて喜ぶものだと思うのだが……)
俺の学生時代なんて自習と言えばこれほど嬉しいものはなかった。
サボれるし、自由気ままに寝ることもできるし、学校にいながら自由が与えられた気がして大好きだった。
だが、ここの生徒は誰一人として嬉しそうな顔をしていない。というかその逆、なに言ってんだこいつみたいな勢いで見てきやがる。
「あ、あのレイナード先生? いきなり最初から自習は……」
まず最初に口を開いたのは助手のレーナ。
レーナもなぜか困った顔をしている。今のご時世は自習というとこんな認識なのだろうか。
「ダメなのか?」
「いや、ダメとかじゃなくて……他にもっとあるんじゃないかなって。例えば自己紹介だとか」
「また自己紹介しなきゃならんのか。しんど」
「しんどいって……」
レーナがさらに困ったような顔をする。
だが、ここで座席の最前列にいた金髪の生徒が手を挙げて話し始める。
「先生、一つよろしいですか?」
「ん? ああ、何?」
「まずは自己紹介とかをお願いしたいのですが……まだ私たち先生のことよく分かっていないですし」
そういうものなのか。真面目だな。
学生時代の時にセンコーの名前なんて覚えようともしなかった。
俺にとって学校とは暇つぶし以下だったし、仕方なく通っていたという気持ちが強かった。
仕方ない。言われたからにはするしかないだろう。
溜め息をつき、重い腰をよいしょと持ち上げる。
「えー、はい。自己紹介ね。えーっと新任魔術講師のレイナード・アーバンクルスって言いまーす。今日から担任を勤めることになったんでよろしくっす」
あまりのやる気のない自己紹介に生徒たちも苦笑いする。
自己紹介が済むとすぐに着席し、教卓に肘を突く。
「おい、レーナもしたほうがいいんじゃないか?」
「え? あ、うん。そうだね」
ふぅ……と深呼吸。レーナはゆっくりと話す。
「皆さんこんにちは! 今日からレイナード先生の助手としてこのクラスの担任になりました、レーナ・アルフォートです。少しでも早く皆さんと仲良くなりたいと思っています。よろしくお願いします!」
おぉ……完璧な自己紹介だ。これには生徒たちも大きな拍手をする。
表情やクラスの雰囲気も俺が自己紹介をしたときよりも明るくなった気がする。
まぁ俺が労力を使ってまで自己紹介をしてやったのに微妙な反応されたのは癪に障らないが。
「―――あの先生は良さそう……」
「―――というか座ってるほうの先生やる気あるの?」
早速よくない陰口が叩かれる。
自慢ではないが、俺は地獄耳なので常人が聞き取れないようなことも聞き取ることができる。
「で、これでいいか? 金髪のお嬢さん?」
「え……あ、はい。大丈夫です」
「じゃあ……さっき言った通りに自習ってことで……」
「あ、あのっ!」
先ほどの金髪のお嬢さんがいきなり立ち上がる。
突然、大声を出して立ち上がったのだからびっくりだ。
「ん? どうしたんだ? 金髪のお嬢さん」
「も、もっとマジメにやってくれませんか? それに私には金髪のお嬢さんじゃなくてフィオナ・ミラーフィールドって言う歴とした名前があります!」
「いや、オレは大真面目に言っているんだが。あと呼び方の件で傷つけたのなら謝ろう」
「レーナ先生!」
「は、はい!?」
いきなり振られたレーナは驚きのあまり声が裏返る。
唐突に振られた時は大体こうなる。気持ちは分からないでもない。
するとフィオナは、
「ホントにこのクラスの担任は”あの人”なんですか? レーナ先生の間違いじゃないんですか?」
「え、う、うん。このクラスの担任はレイナード先生で間違いないけど……」
「そんな、あんなテキトーな人が……」
初対面のしかも目の上の人に向かってあの人よばわりとは。
近頃の若いもんは礼儀がなってない。俺の学生時代は礼儀について色々言われた記憶がある。
これも時代の流れなのか、そう思う。
「悪かったな、テキトーで」
ちょっとふてくされたような雰囲気を出す。
「とにかく、あの人を先生だなんて認めません。私は家の名に恥じぬキャスターになるためにこの学園にきました。それなのに……」
フィオナの目が少し潤ってくる。
やばい、このままでは泣かせてしまいそうだ。
クラスもガヤガヤとうるさくなってきた。
「レイナード先生、授業をしましょう!」
レーナもこう言い始める。あー、もう仕方ねぇな。
確かに初っ端から講師としての評判を落とすとやりにくいことも出てくる可能性は否定できない。
後々、フィーネにごちゃごちゃと面倒なことを言われることも想像ができる。
「分かった、授業をやろう。テキトーなこと言って悪かったなフィオナ」
「先生……!」
フィオナの顔に笑顔が戻ってくる。
まさかここまでやる気があるとは……俺とは大違いだ。
さてと……まずは……。
「じゃあ手始めに外にでてもらおうか。さっさといくぞ」
「えっ、先生!?」
俺は唐突な指示を出し、教室を出て行く。
放ったこの一言で教室内が物音一つしない静寂の空間へと化す。
(なぜだ? なぜ皆、不思議そうな顔をするのだ? 普通、自習と言われたら飛び跳ねて喜ぶものだと思うのだが……)
俺の学生時代なんて自習と言えばこれほど嬉しいものはなかった。
サボれるし、自由気ままに寝ることもできるし、学校にいながら自由が与えられた気がして大好きだった。
だが、ここの生徒は誰一人として嬉しそうな顔をしていない。というかその逆、なに言ってんだこいつみたいな勢いで見てきやがる。
「あ、あのレイナード先生? いきなり最初から自習は……」
まず最初に口を開いたのは助手のレーナ。
レーナもなぜか困った顔をしている。今のご時世は自習というとこんな認識なのだろうか。
「ダメなのか?」
「いや、ダメとかじゃなくて……他にもっとあるんじゃないかなって。例えば自己紹介だとか」
「また自己紹介しなきゃならんのか。しんど」
「しんどいって……」
レーナがさらに困ったような顔をする。
だが、ここで座席の最前列にいた金髪の生徒が手を挙げて話し始める。
「先生、一つよろしいですか?」
「ん? ああ、何?」
「まずは自己紹介とかをお願いしたいのですが……まだ私たち先生のことよく分かっていないですし」
そういうものなのか。真面目だな。
学生時代の時にセンコーの名前なんて覚えようともしなかった。
俺にとって学校とは暇つぶし以下だったし、仕方なく通っていたという気持ちが強かった。
仕方ない。言われたからにはするしかないだろう。
溜め息をつき、重い腰をよいしょと持ち上げる。
「えー、はい。自己紹介ね。えーっと新任魔術講師のレイナード・アーバンクルスって言いまーす。今日から担任を勤めることになったんでよろしくっす」
あまりのやる気のない自己紹介に生徒たちも苦笑いする。
自己紹介が済むとすぐに着席し、教卓に肘を突く。
「おい、レーナもしたほうがいいんじゃないか?」
「え? あ、うん。そうだね」
ふぅ……と深呼吸。レーナはゆっくりと話す。
「皆さんこんにちは! 今日からレイナード先生の助手としてこのクラスの担任になりました、レーナ・アルフォートです。少しでも早く皆さんと仲良くなりたいと思っています。よろしくお願いします!」
おぉ……完璧な自己紹介だ。これには生徒たちも大きな拍手をする。
表情やクラスの雰囲気も俺が自己紹介をしたときよりも明るくなった気がする。
まぁ俺が労力を使ってまで自己紹介をしてやったのに微妙な反応されたのは癪に障らないが。
「―――あの先生は良さそう……」
「―――というか座ってるほうの先生やる気あるの?」
早速よくない陰口が叩かれる。
自慢ではないが、俺は地獄耳なので常人が聞き取れないようなことも聞き取ることができる。
「で、これでいいか? 金髪のお嬢さん?」
「え……あ、はい。大丈夫です」
「じゃあ……さっき言った通りに自習ってことで……」
「あ、あのっ!」
先ほどの金髪のお嬢さんがいきなり立ち上がる。
突然、大声を出して立ち上がったのだからびっくりだ。
「ん? どうしたんだ? 金髪のお嬢さん」
「も、もっとマジメにやってくれませんか? それに私には金髪のお嬢さんじゃなくてフィオナ・ミラーフィールドって言う歴とした名前があります!」
「いや、オレは大真面目に言っているんだが。あと呼び方の件で傷つけたのなら謝ろう」
「レーナ先生!」
「は、はい!?」
いきなり振られたレーナは驚きのあまり声が裏返る。
唐突に振られた時は大体こうなる。気持ちは分からないでもない。
するとフィオナは、
「ホントにこのクラスの担任は”あの人”なんですか? レーナ先生の間違いじゃないんですか?」
「え、う、うん。このクラスの担任はレイナード先生で間違いないけど……」
「そんな、あんなテキトーな人が……」
初対面のしかも目の上の人に向かってあの人よばわりとは。
近頃の若いもんは礼儀がなってない。俺の学生時代は礼儀について色々言われた記憶がある。
これも時代の流れなのか、そう思う。
「悪かったな、テキトーで」
ちょっとふてくされたような雰囲気を出す。
「とにかく、あの人を先生だなんて認めません。私は家の名に恥じぬキャスターになるためにこの学園にきました。それなのに……」
フィオナの目が少し潤ってくる。
やばい、このままでは泣かせてしまいそうだ。
クラスもガヤガヤとうるさくなってきた。
「レイナード先生、授業をしましょう!」
レーナもこう言い始める。あー、もう仕方ねぇな。
確かに初っ端から講師としての評判を落とすとやりにくいことも出てくる可能性は否定できない。
後々、フィーネにごちゃごちゃと面倒なことを言われることも想像ができる。
「分かった、授業をやろう。テキトーなこと言って悪かったなフィオナ」
「先生……!」
フィオナの顔に笑顔が戻ってくる。
まさかここまでやる気があるとは……俺とは大違いだ。
さてと……まずは……。
「じゃあ手始めに外にでてもらおうか。さっさといくぞ」
「えっ、先生!?」
俺は唐突な指示を出し、教室を出て行く。
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