上 下
1 / 127
第1章 おっさん、魔術講師になる

第1話 英雄から引きこもりへ

しおりを挟む
 俺は天才である。

 生まれた時から魔術に才があり、両親を驚かせたのを覚えている。
 
 魔術には複雑な定式があり、発動するためには一つ一つ解読をしていく必要がある。
 実際に行えばとてつもなく時間のかかる重作業だ。
 だが前世の魔術師キャスターたちはこれに苦を覚え、複雑な定式を一瞬にして簡略化することのできる技術を生み出した。

 それがスペル、いわゆる呪文である。
 決められた呪文を発して詠唱することで複雑な定式を容易く解読することができ、魔術を発動させることができるわけだ。
 これは歴史上、魔術革命と呼ばれ、人々は自らの利益のために魔術を行使した争いを行うようになった。
 沢山の人間が赤い血を流し、魔術によって人間は醜い生き物と化した。

 そして現世。今のキャスターは当たり前のように呪文を詠唱し、魔術を発動させている。
 キャスターというのはもはや一種の職業ジョブとなっていた。
 そしてなぜ俺が天才なのかというと……








「まさか……SSSSSランク……じゃと……」

 俺は学園に入学して初の魔術査定を受けた。
 結果はSSSSSランク。当時6の歳の頃だ。

「な、何かの間違いでしょう。もう一回査定してみては?」
「そ、そうじゃな。アーク・シュテルクストくん、もう1回魔術を行使してはくれんかのお」

「あ、はい」

 俺は黙って何も詠唱することなく高位魔術≪ヘルマグナム≫を放つ。
 かなり手加減はしたが、査定場を軽く焼野原にする。

「そんなバカな……高位魔術を詠唱なしで……」

 どんだけやっても査定結果はSが5つ並ぶ。

「歴代でもSSSランクが最高だというのに。しかもこんな幼い年齢で……」

 あまりの破格さに教師陣は唖然。
 だが、俺からすれば詠唱なしで魔術を発動させるなど朝飯前だった。

 俺はすぐさま学園で有名人となった。何万年に一度の天才として毎日のように祭り上げられる始末。
 人との関わりが苦手だった俺には苦痛でしかなかった。
 元々人付き合いが苦手であったため学園に入学すること自体不満であったのだが、両親の凄まじい押しに負けて入ることになってしまった。

 学園は高等部まで存在したが、とあるきっかけによって初等部卒業と同時に学園を去った。
 なぜかというと、とある組織に入らないかと誘いを受けたからだ。
 その組織とは……。

「ようこそ神聖魔術団へ。君を7人目の仲間として迎えよう」

 神聖魔術団。いわゆる神魔団は元々6人からなるキャスターズギルド。
 数百年の歳月をかけ復活した魔王を倒すべく、世界中から人材を集めたキャスターの精鋭たちだ。
 俺の魔術の才能に目を光らせ、団長直々にスカウトしてきたわけだ。

「君の噂はよく聞いている。前代未聞のSSSSSランクキャスターであるとね」
「そうですか」

 彼の名はプリュー・アンドレス。神魔団団長にしてこの世界で最強のキャスターと言われた男だ。
 プリューという名を聞けば、分からない者はいない。それくらい有名なキャスターに声をかけられたわけだ。

「当時、SSSランクだった俺と比べると確かに破格の才だ。神魔団に入ってくれたことを光栄に思うよ」
「はぁ……」

 実際の所、俺は神魔団にもプリュー団長にも全く興味がなかった。
 名前だけ知ってはいたが憧れがあるわけでもなかった。
 ただ今の学園生活が自分にとって心地よくない場所であったがために入団することを決意したのだ。

「とりあえずまずは此処に慣れてもらうために色々と覚えてもらう」

 と、まぁこんな感じで俺は12の歳に神魔団に入った。もちろん団の中では最年少である。



 月日が流れるのは早いもので気が付けば16の歳になっていた。

「アーク! いけるか?」
「大丈夫っす」
「お前がいると頼もしい。魔王は頼んだぞ!」
「ういーす」

 俺たちは魔王との最終決戦に臨んでいた。

「はっはっは! 貴様一人が俺の相手をするのか?」
「そうだが。なにか不満でも?」
「ふん、命知らずな奴め。自分が死ぬことも理解できぬとは」
「さぁ……そりゃあやってみないと分からないんじゃない?」
「そうか……ならばここが貴様の墓場となる。覚悟するんだな」
「うん、分かった分かった。じゃあ始めようか」

 決着。俺は最高位魔術≪エンシェント・レイ≫を放った。

「ぬあっっ!? バカな……人間ごときが伝説の最高位魔術を発動できるわけが……」
「勝敗は決した。安らかに眠れ」

「ぐあああああああああああああ!」

 こうして再び魔王は封印され、長きに渡った魔王討伐に終止符が打たれた。

「アーク! 生きてるか!?」
「あ、だんちょー。終わりましたよ」
「そうか。ふっ……やはりお前は破格のキャスターだな」

 俺はこの日、魔王を討伐したことにより若くして英雄となった。
 沢山の人々に祝福を受け、アーク・シュテルクストの名を世界中に響かせた。

 だが、俺は人付き合いが苦手な男だ。これは何年経っても克服することはなかった。
 どこを歩いても英雄としての肩書に苦悩する日々が続いた。

 そして俺は決心する。

「アーク・シュテルクストの名を捨てて引きこもろう」

 アーク・シュテルクストは死んだ。原因は病死。
 このニュースはすぐに人から人へ、国から国へと流れ渡った。
 
 そしてこの俺、アーク・シュテルクストは団のメンバーの協力もあって人のいる世界から姿を消したのである。



 姿を消して十数年という時が経った。
 35歳となった俺は未だ引きこもりの生活を続けていた。

「ねぇアーク、本当にこのままでいいの?」
「おい、俺をその名で呼ぶのはやめろ。レイナード・アーバンクルスと呼べ」
「わ、分かったわよ……」

 彼女は神聖魔術団の一人、フィーネ・アロナード。
 俺、プリュー団長に次ぐ神魔団のナンバー3だ。

「このまま引きこもりニート生活を続けていると本当に死ぬわよ」
「うるさいな。俺は一生こうやって生きることを決めたんだ」
「最近は団も金銭面で苦しんでいるのよ? それなのに……」
「悪いな、俺は働く気はさらさらない。というか外界にはでない」
「外界って……はぁ……」

 深い溜息をつくフィーネ。だがここである名案を思い付く。

「ねぇ、あー……じゃなくてレイナード?」
「今度はなんだ?」
「学園の先生を……」
「断る!」

 俺はフィーネの話を聞く前に否定で遮る。
 言いたいことは言われなくても分かる。
 学園の教師として働かないかということだろう。

 フィーネは神魔団の傍ら、王国にあるアロナード学園の学園長でもある。
 だが、俺に働くという選択肢は存在しない。よって俺は彼女の誘いを受ける前に断った。

「あっそう。じゃあプリュー団長に言っておきますね」
「は? 何をだ?」
「アーク・シュテルクスト改めレイナード・アーバンクルスは神魔団のメンバーから除外しますと」
「そうか、分かった。なら勝手に除外してくれ」
「いいのね。除外するということは……」

 この言葉を聞いて俺は『はっ』と思いつく。
 俺が住んでいる施設は世界中にある神魔団の活動拠点の一角だ。
 もし除外されるようなことになったら……住む場所がなくなる。

「ちょ、ちょっと待てフィーネ!」
「ん? 何か?」
「分かった。学園で働く」
「あら、そう? 助かるわ。今、魔術講師が不足していて困っていた所なのよー」

 一気にフィーネの表情が変わる。
 くっそ……見事にハメられた。こいつ狙っていたな。

 俺はフィーネの望んだ通り、学園の魔術講師になることを決意した。
 あくまでこれは住処を確保するためと資産稼ぎ。
 金さえ貯まったらすぐにでもやめてやる。

 こうして俺は後日、学園に魔術講師として出向くことになった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...