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第3章 スノープリンス編

第32話「アジト」

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「グハッ……!」

 俺たちは容赦なくベラルーナのマグ使いたちを薙ぎ倒していく。

「くそっ……こいつら化け物か! お前ら、引くぞ!」

 実力の差を感じたのか撤退しようとする……が。

「逃がさない」

 俺は逃げた1人を追いかける。
 端っから1人だけ捕虜として確保しておくつもりだったからだ。

「ふん、ここまでくれば……」
「ん? ここまでくれば、なんだって?」

 相手からすれば背後にいたはずの敵が目の前にいるということだけでも驚きだろう。

「そんな……バカな」

 こっそりと習得しておいた高速転移魔術が役に立った。
 とりあえず捕虜として捕獲することに成功した。

「さて、知っていることを吐いてもらおうか?」

 俺はあまり手荒な真似は好むような人間ではないが、情報を得るにはこれしか方法が思いつかなかったのだ。
 このほうが確実に聞けるし、何より探す手間が省ける。

「お、俺は何も知らない! 知っているのは組織の幹部連中だけだ!」
「本当なのか……?」

 アルベルトが凄い形相で相手に問いかける。
 ガタイがいいのもあってか迫力が凄い。というか普通に怖いわ。

「ほ、本当です! 俺は何も知らないんだ」
「じゃあ質問を変えよう。その幹部とやらはどこにいる?」
「そ、それは……」

 唐突に目を反らす。
 これは言うのをかなりためらっている感じだな……

「ちなみに言わなかった時はどうなるか分かっているよな……?」

 アルベルトが腰に差した短剣を露骨に見せつける。
 もうどっちが悪なのか、部外者には分からないだろう。
 こうされるとベラルーナのマグ使いは言わざるを得ない。

「い、今は王宮近くの酒場だと聞いています。店名は聞いておりません」
「王宮近くの酒場か……」

「それなら……」

 どうやらミンスリーにいくつか心当たりがあるようで後日、幹部たちのアジトを探すべく酒場巡りをすることになった。

「リュウタロウ殿、こいつはどうする?」
「アルベルトさんに任せますよ。あ、殺すのはなしで」
「こ、殺さないのか……?」
「いや、さすがに殺すのは……」
「わ、わかった。じゃあ……≪ブラウンド・ショック≫!」

 マグ使いの身体に電流らしき物が流れ、一瞬のうちに気絶させる。

(う、うわぁー、容赦ねぇな……なんかちょっと焦げてるし)

「これでいいかリュウタロウ殿」
「あ、はい。大丈夫だと思います……」

 とりあえずきっかけとなる情報は手に入った。問題はそのアジトがどの酒場にあるのかということだ。
 一度拠点に帰り、作戦を練ることにする。

「……と、こんな感じで私が知る所ですとこの5つになりますね」
「5つね……手当たり次第探すのも手だけど……」
「それだと効率が悪いですわね」
「それぞれ班を作って分担するのはどうでしょう?」
「だが、それだとここを守る者が……」

 最善の行動をするべく、議論が交わされる。
 議論は夕方まで続いた。
 そして出た結論は……。

「よし、内容は以上だ。俺とアルベルトさんで一番可能性の高いこの酒場に潜入する。時刻は大体今くらいの時間だ」
「私たちは此処で待機、でいいのね?」
「ああ、やはりいつどこで襲われるか分からない。大人数で行くとなると巡回部隊に見つかる可能性が出てくる」

 此処、ナパード公国では夕方から夜にかけて外出制限がかけられている。
 なので住民は外にでることすら許されないのだ。外に出て、万が一巡回部隊に見つかりでもしたらその場で処刑は免れない。

「3人とも姫様を頼む」
「分かったわ。リュウタロウも気を付けてね」
「ああ」

 日が落ち、都から人の気配が消えていく。
 耳を澄ませても何も聞こえない静寂の世界。
 不気味な空間に包まれたこの都で俺たちは闇夜の如く街を駆け抜ける。

「よし、大丈夫だ。奴らはいない」

 事は順調に運んだ。障害にぶつかることもなく目的地に到着した。

「よし、後は……」

 裏口に回り、扉があることを確認する。

「よし、この前と同じ要領で行くぞ」
「了解です」

 ―――ガチャ。

「……!?」
「まずい、隠れましょう!」

 間一髪建物の物陰に隠れることができた。
 そして中から出てきたのは、

「はぁ……全く、此処のお姫様は人使いが荒くて困るねぇ」
「ま、これも仕事だ。俺たちは言われた通りに動くだけ」

 1人は若い男、もう1人は年齢で言えば中年層くらいだろう。

「あ、結局脱獄したもう1人の姫様はどうしたんですかね?」
「まだ調査中とのことだ。まぁ俺たちには関係ないがな」

 恐らく彼らはゴミを捨てに来たのだろう。平気でその辺にゴミを捨てて再度中に入っていった。

「アルベルトさん」
「ああ、的中だ」

 1発目にしてアジトを発見し、俺たちは再度裏口へ。

「解放(リリース)」

 当然の如く鍵のかかった扉を開けることができる。
 現実世界でこんなことをできたら史上最悪の犯罪者になれそうだ。
 これもまぁ異世界ならではという感じなのだが。

 俺たちは監視ができる場所を探すべく、屋根裏へと身を潜める。

「構造だと……こっちだな」

 ミンスリーが書いてくれた建物の構造を頼りに進む。
 てかなんでこんなこと知っているのだろうか。情報も適確だし……
 まぁ細かいことを考えている暇もないので任務に集中する。

「この辺のはずだ」

 耳を澄ませると男たちがはしゃぐ声が聞こえた。
 どうやらこの位置がベストポジションのようだ。

 小さく穴を開け、音をたてぬよう覗く。

「まーた負けたぁ! お前セコしてんじゃねぇだろうな?」
「してないわ! 貴様が弱いだけなんや!」

 なにやら賭け事をしているみたいだった。
 そこら中に酒の瓶やら色んなものが転がっていて長い間、ここを拠点としていた形跡が見えた。
 この中で一番偉そうな奴は……

「恐らく幹部をまとめ上げているのはあいつだな」

 図体がデカく、体中にギラギラした装飾品を纏った異様な男が1人。
 周りの人間の気づかいや言葉づかいを見ているとその男が幹部連中の親玉みたいだ。

「ゴルク様、そろそろ王宮地下の本研究所に出向くお時間では?」
「ああん? ちっ、もうそんな時間か」
「お送りいたしましょうか?」
「いらん、ワシ1人でいく」
「分かりました」

「本研究所だと……? ということは」
「はい、もしかしたらこの上ない情報が得られるかもしれませんよ!」

 ゴルクなる男は立ち上がり、部屋から出ていく。

「追いかけるぞ! リュウタロウ殿」
「はい!」

 と、その瞬間だった。

 ―――バキッ!

「あ……」

 脆かったのかいきなり大きな音を立て、屋根が崩れ落ちる。

 ―――ドドドドドド

「くう……リュウタロウ殿大丈夫か?」
「え、ええ。なんとか」

「お、お前ら何者だ!?」
「あ、やば」

 いきなりのことで驚いているようだが、対応は早くすぐにマグを構える。

「アルベルトさん……」
「作戦変更だ、こいつら蹴散らすぞ!」
「はぁ……ですよねぇ」

 正直あまり動きたくない俺であったがこうなった以上戦うしかないようだ。

「貴様ら例の奴らだな? ふん、ちょうどいい。ここでお前らを殺し、ゴルク様への株を上げる材料としてくれよう」

 さすが幹部。下っ端とはオーラが違う。

「ちょっと力いれますかねぇ」
「ああ、油断は禁物だな」
「じゃ、行くぞヴィーレ」
『りょーかい、全くこの頃こんなの多いな』
「全くだ」


 俺は嫌々ながらマグを構える。
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