上 下
35 / 41
第3章 スノープリンス編

第31.5話「野望」

しおりを挟む
 ―――時間は少しだけ前に遡る。

「プリシア様、奴らを生かしていてよろしいのですか?」
「大丈夫よレントナー。彼等に勝ち目はないわ」
「ということは遂に”あれ”が……」
「ええ、完成したわ」
「おお……ついに……遂に悲願が叶うのですね!」
「そうよ、ホントに……待ちわびたわ……」

 ―――数年前。

「ねぇミンスリー。今日は私と外にでない?」
「ごめんなさいお姉様。今日は伯爵家への挨拶とお父様の演説の手伝いがあるの」
「えぇー、いいじゃんたまにはサボっても」
「それはできません。私たちはいつかは人の上に立つ身。お父様のお手伝いも立派な政治活動です」
「ホントにミンスリーはマジメよね。まだまだ先の話なのに」
「お姉様の自覚がなさすぎなんですよ……」
「仕方ない。私一人でいく」

 ミンスリーが外出した後、プリシアも支度を済ませて外へでる。
 ミンスリーは民に顔を知られているため、途中で民衆に囲まれないために、ちょっとした変装をして出て行った。

 プリシアはめったに表舞台に顔を出さないため、変装する必要がなかった。

「ミンスリーも大変よねぇ……わざわざ外出するにも変装しなきゃだなんて」

 自由気ままに街を歩く。
 今日はいい天気。散歩するにこんなにいい日はない。

 街を歩いていると、何度か同じ張り紙を目にする。

「王位継承……ね。まぁ……後から頑張れば大丈夫よね」

 まだまだ先の話とは言っても3年もない。
 時はすぐにやってくる。
 表舞台に顔を出さないのは単純で、面倒だからだ。
 疲れるし、したくもない笑顔をしなきゃいけないし。

 別に王位に関して興味がないわけじゃない。
 ミンスリーがやっているような地道なことが嫌いなだけなのだ。
 実に怠惰だが、性に合わないと思っているので仕方がないと思っていた。

「久しぶりに外に出ると疲れるわ……ちょっと休もうかしら」

 広場の椅子に腰をかける。
 広場は沢山の人で賑わっていた。
 耳を澄ませてみるとこんな声が聞こえてくる。

「―――ねぇねぇ王位継承の選挙、どっちに入れる?」
「―――もちろん、ミンスリー様だよ」
「―――やっぱり? ミンスリー様はこの国のこと、凄い考えてくださっているよね」

「さすがミンスリー。人気ね……」

 すると逆にこんな声も。

「―――なぁプリシア様は選挙にでる気あるのか?」
「―――そうだよな。俺なんか顔すら見たことないぞ」
「―――俺もだよ。長い間この国にいるけど見たことがない。もう伝奇レベルだぜ?」
「―――ホントは表舞台に出れない理由があるんじゃね?」
「―――何かやらかして監禁されてるとか?」
「―――あるかもな! はははは!」

「あいつら……人が見ていないからって勝手なことを……」

 だが、こんな意見は彼等だけではなかった。
 聞いていると次々と自分のよくない噂が出てくる。
 逆にミンスリーはどれもいい噂ばかり。

「気分が悪いわ……」

 プリシアが王宮に帰る頃には、ミンスリーが政治活動から帰ってきていた。
 父であるロック・ナパードの姿もあった。

「あ、おとう……」

 声をかけようとした時、ミンスリーと父の話が聞こえてきた。

「ミンスリー、お前はよくできた娘だ。誇りに思うよ」
「いえ、私もお父様に従事できて幸せですわ」

 仲良く話す2人。
 なぜか自分はあそこの輪に入ってはいけない気がした。
 最近は王宮も王位継承の件で忙しい。
 その中で自分だけ怠惰な生活をしていたからだ。

 日が経てばたつほど父親に声を掛けられることは少なくなった。
 逆にミンスリーには毎回のように楽しそうに話をしている。
 端から見れば自分はまるで元からいなかったような……そんな扱いを受けている気がした。
 母親が他界して数年。頼れるのは国王である父親しかいなかった。

 だがその父ですら離れていくような気がしてならなかった。

 その頃からだ。ミンスリーに対する認識に変化が出てきたのは。
 元々彼女の母が農村出身というイレギュラーな存在であったのが不満だった部分も少なからずあり、この日からプリシアの感情が大きく揺らぎだしたのである。

 月日が経つにつれて周りが騒がしくなってくる。
 父親のロックはすっかりミンスリーを特別扱いするようになり、完全に2人だけの世界が広がっていた。
 もう自分の入る余地なんてこれっぽっちもない。
 そう思った彼女は完全に部屋に籠る生活を送るようになった。

「あいつさえいなければ……」

 ミンスリーに対する感情は悪くなっていく一方。
 ミンスリー自体もプリシアを気にかける様子はほとんどなく王宮内ですれ違っても何も会話することすらなかった。
 その上自分とは正反対の悠々とした生活を送っていた。
 皆から愛され、支持されて……プリシアにはどれ1つも持っていない物だった。

「あとから入ってきた部外者なのに……お母様以外の違う血が流れた女なのに……」

 気が付けば感情は嫌悪から憎悪に変わっていた。
 もう既にあいつの笑顔を見ただけで不愉快になる……という感じだった。

「こうなったら調子に乗ったあいつを埋めてやる。私から大切なお父様を取った恨みを晴らしてやる」

 彼女の心には1つの野望が生まれていた。
 自分ではもうどうしようもできない強い感情が。
 
 ―――そう……彼女はいつしか野望という縛りに支配されていたのである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...