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第3章 スノープリンス編

第31話「観光」

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 ファックスとの闘いの後、俺たちは崩れゆく研究所から脱出し、活動拠点に帰還していた。

「お帰りなさい、リュウタロウ様」
「おかえりです!」
「ただいま、2人とも。姫様は?」
「奥の部屋にいますよ」

 ―――ガチャ。

「あ、皆さま帰っていらしたのですね」

 アルベルトはミンスリーにすぐさま駆け寄り、

「特に何もございませんでしたか姫様」
「え、ええ。大丈夫よ。それで作戦のほうは……」
「いや……成功はしましたが……」

 俺たちは3人に研究所であった出来事を全て話した。

「そうでしたか……」
「はい、プリシアは此処は捨てると言っておりました。もしかするとあそこ以外にも研究施設があるのかもしれません」
「それにあのファックスとかいうマグ使い……強かったな」
『奴の身体から膨大な魔力を感じたからな。本当にあいつの言う通り、錬金術はビジネス的要素でしかないのだろう」
「ですが、その人はベラルーナの一人ではないんですよね?」
「金で雇われているということは言っていましたが、定かかどうかは……」

 俺が思うにはあの人はベラルーナの一員ではないだろう。
 1体1でマグを交えた時には邪悪な感覚はなかった。
 恐らく本当に金でしか動いていないのだろう。

「それでこれからどうするのです?」
『観光ー!』
「リュウタロウ殿のマグよ。今はそれどころでは……」
「いや、観光いいかもしれませんよ」
「それはどういうことだリュウタロウ殿?」
「敵の拠点が分からない以上、不用意に動くのは危険ではないかと思ったんです」
「なるほど、観光は視察という点も兼ねていると」
「はい、それに身体を休めることも重要ですし……」
「だが……」

「私はいいと思いますよ」

 ミンスリーはすぐさま賛成の念を押す。

「ですが、姫様。今は一刻も早く……」
「アルベルト。お気持ちは分かりますが、リュウタロウ様のおっしゃる通りです。行動を起こすにはまずは綿密な準備からです。宛てもなく行動しても収穫を得る可能性は限りなく低いと思います」
「……分かりました。それで姫様がよろしいというのなら私は従うまでです」
「では明日、皆さんで観光へ行きましょうか!」
「え、姫様も行かれるんですか?」
「もちろんです。この国をよく知っている者が行かなくてどうするんですか」
「万が一奴らに見つかりでもしたら……」

 心配そうなアルベルトにミンスリーは、

「アルベルトやリュウタロウ様たちがいるので安心ですよ。それに、もし1人の時に襲われたら全員蹴散らして差し上げますよ」
「そ、そうですか……」

 こう見るとどっちが守る側で守られる側か分からない。
 でもアルベルトさんのミンスリー姫による忠誠心は凄いものだということはよく理解した。
 にしてもあのお嬢様、パワフルだなー。全員蹴散らすって……

 ということで明日、俺たちはナパード公国の観光に行くことになったのである。

 * * *

「これすっごく美味しいわ!」
「ええ、ふんわりした生地の中にトロっとした甘いソースが絶妙ですわね!」
「ベラードにはない新感覚のスイーツですね!」

 3人はナパードの街を堪能していた。

「午前中だというのに凄い賑わいですね」
「ここの市場は午前中にしかやっていないんですよ」
「そうなんですか」
「はい、夕方から夜にかけての外出制限がかけられている今、買い物をするとなると今の時間しかないんです」
「そういうことですか……」

「賑わっているだけあって景気は悪くはなってはないみたいだが、今のナパードは鎖で縛られているような息苦しさを感じる」
「それを俺たちが変えようとしてるってことですよね」
「どうした? 怖気づいたのか?」
「いえ、その逆ですよ。凄いワクワクしています!」
「ワクワクか……面白い奴だな君は」

『それが主様なんだぜ。たまにクレイジーな所があるから私は好きなんだけどな』
「ヴィーレそれは褒めているのか、侮辱しているのかどっちなんだ」
『もちろん、侮辱だ!』
「この野郎……」

「ふふふ、リュウタロウ様はヴィーレさんとホントに仲良しなんですね」

 俺たちのやり取りを見てミンスリーが笑いこける。

『ま、私たちは一線を越えた仲だからな! 当然さ』
「お、おいヴィーレそんなこと言うと……」

「リュウタロウ様! 私という者がありながら一線とはどういうことですの!?」
「あんた……もしかしてヴィーレと……」
「不純ですっ!」

 迫る3人、後ずさる俺。

「お、落ち着けみんな。誤解だ!」
「信用ならないわ。ヴィーレは人間の姿になれるものその気になれば……」
「なれば……なに?」
「いや、それはちょっと……」
「なにさ、言ってみてよ」

 思い返してみると外道なことをしたなと反省している。
 顔を真っ赤にして目を反らすアイリスの姿に非常に萌え……いや、可愛かったのでついやってしまった。

「リュウタロウ様……」
「最低です……」
「うぅ……リュウタロウのバカ……」
「ごめんなさい……もうしません」

 なんか最近ドS気質になっている気がする。
 これも異世界による作用なのか……?

「きゃーーーーー! 助けて!」

 悲鳴が聞こえる。場所は近い。

 俺たちはすぐさま悲鳴のした方向へ。

「あれは……」

「―――国王陛下の命により、現在外出中の者全員を処刑とする。逃げた者には身内まで処刑されると思え!」
「―――そ、そんな……検察は夕方から夜にかけてでは……」
「―――国王陛下の気が変わられた。異論はないな?」
「―――そんな……いきなりすぎだ……」
「―――外出制限がかけられているのなら分かるだろう。こういうケースもあり得るのだ」
「―――ふ、ふざけ……ぐはっ!」

 民が1人殺される。脆い物を一瞬で切り裂くように。

「―――お前たちは逃げられない。覚悟しておくのだな」

「……なんて理不尽な……なぁヴィーレ」
『なんだ主様』
「ちょっと俺、耐えられんわ。あいつらに目にものを見せてやりたい」
『奇遇だな、私もだ。あの下等生物をどうやって調理してやろうかと思ってたさ』
「ふっ……ならやることは」
『1つだな』

「ねぇリュウタロウ。何を勝手に話を進めているのよ」
「そうですわ。私たちも混ぜてください」
「私もあの人たちは許せません!」

 3人も殺る気のようだ。
 皆、あの行いに関して怒りを覚えているようだ。

「アルベルトさん。姫様をお願いします」
「お、おう……大丈夫か4人で」
「任せてください。これでもギルドやってるんで」
「……分かった、気を付けろよ。彼らは恐らくベラルーナのマグ使いだ」
「よしギルド『RIMA』の名声を上げるべくいっちょやるぞ!」

 俺たちはマグを召喚、人影から奇襲をかけるのであった。
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