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第3章 スノープリンス編
第29話「天界の奇術師」
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数十体にも及ぶ魔獣たち。
あの凶悪な生物が当たり前のように保管されている様子を見て俺は驚愕する。
「一体、どういうことなんだ?」
「おそらく、人の手が加えられた魔獣だな」
「改造種ね。この前のギガンテスと同じような」
「ということはベラードを襲ったのは……」
「ええ、恐らくね」
これを見ればこの前のギガンテスのような魔獣が現れたのも理解ができる。
だが、襲ってきた理由が分からない。ベラルーナの魔の手がベラードにも伸びているということなのだろうか。
「よし、記憶完了。これで証拠は手に入った」
「アルベルトさん、これからどうするんですか?」
「この施設の中枢部分の破壊が最終目的だ。そして今、目の前に研究所の中枢システムがある」
「じゃあこれを破壊すればいいのね」
するとここで俺が予め張っておいた探知魔術が反応する。
「待て、アイリス。誰か来る」
俺たちはすぐさま迷彩魔術を張って身を隠す。
「よくぞいらしてくださいました。プリシア様」
(プリシア……?)
「ええ、貴方もお変わりないようで」
(なっ……!?)
その容姿はミンスリーに瓜二つだった。双子だったのかと疑うくらいだ。
唯一の違いと言えばプリシアの方が多少髪が長いか、というくらいだ。
「ミンスリーにそっくりだな。本当に腹違いの姉妹なのか?」
「あの容姿は魔術によるものだな」
「そうね。あれは本当の姿ではないわ」
「そんなことができるのか」
「変幻魔術が使えるのならね。普通はスパイ職などにつくマグ使いが会得するものなんだけど」
プリシアは周りを見渡しながら歩いて回る。
「順調のようね」
「はい、おかげさまで」
「ま、あなた方に大量の資金を預けたのだからこれくらいやっていただかないと」
「ベラルーナが誇る技術でこのファックス、全力でご期待に応えさせていただきます」
「期待しているわ」
1通り見て回った後、プリシアは研究員らしき男と奥の施設の方へと姿を消していった。
「……まさかあの男が関与しているとはな……」
「あの男?」
「ファックス・レイ・バーレンシュタイン……『天界の奇術師』の異名を持つ男よ。主に錬金術に定評があるとか」
「さすが嬢ちゃんだ。よく知っているな」
「有名よ、私の両親も昔、面識があってね」
「だが、そんなにすごい人がなぜ犯罪組織に……」
「それは分からない。先の話を聞く限りでは金で雇われているという感じだったが……でもまぁとりあえず目的はあの中枢システムの破壊だ。あれさえ破壊すれば奴らにとっては大打撃だろう」
「じゃあ早速やるわね。焼きなさいムル・フラガ」
業火を纏ったアイリスのマグが唸りを上げる。
そして魔獣の保管カプセル諸共全てを焼き尽くす。
「よし、とりあえず作戦は成功だ。来客が来る前に此処を出るぞ」
研究所内の防犯サイレンが盛大に鳴り響く。
奴らが来るのも時間の問題だ。
「転移魔術を使う。俺に掴まれ!」
「ちょっとお待ちいただけますかね」
転移を妨げる1人の男の声が聞こえた。
その声主は先ほど殺戮姫を案内していたファックスという男だった。
「ちっ……見つかったか」
「あなた方でしたか。調査団から不穏な動きをする者がいるという報告を貰っていましたが……」
「ファックス・レイ・バーレンシュタイン。貴方はここで何をしているの?」
アイリスは彼にマグを突き立てる
「ん……君はどこかで会ったような気が……ああ、もしかしてリーベンバッハのとこのお嬢さんかな?」
「覚えてくださっていたなんて光栄だわ」
「貴方のご両親には色々とお世話になりましたからねぇ。それにしてもお母様にそっくりになりましたね。性格はお父様似でしょうか?」
「お父様とお母様の話はしないで!」
アイリスはいきなり大声で拒絶する。
そして我に返ったのか目線を反らす。
「ん? ああ、そうでしたね。悪いことを聞いてしまいましたね」
悪いこと? アイリスの両親に一体何があったんだ?
だが、アイリスの顔を見ると今までみたことのないくらい辛そうな顔をしていた。
(アイリス……?)
アイリスと昔から面識のある男の方は見た感じ紳士的な振る舞いが印象的で悪行に手を染める感じはしなかった。
アルベルトが男に一言問う。
「ファックス、お前は此処で何をしているのだ。『天界の奇術師』ともあろう者が」
「仕事ですよ。私はプリシア様に依頼されてここにいるのです」
「依頼だと……?」
「ええ、私の錬金術で魔獣を作ってほしいと言われましてね」
「じゃああの時のギガンテスも……」
「ギガンテス? ああ、あの失敗作ですか」
「あれが失敗作だって……?」
「ギガンテスを素材に使った奴は私の錬金術のポテンシャルに適応しなかったので廃棄する予定だったのですが、どうやらご迷惑をおかけしたようですね」
あのとてつもない戦闘能力を持った化け物が失敗作だという事実を知り、驚きを隠せないアイリスと俺。
だが、平然と語る姿を見ると嘘ではないようだ。
「だが、もうお前の成功作は俺たちが破壊させてもらった。悪いが俺たちはここでお暇させていただく。2人とも行くぞ」
「は、はい!」
俺たちが背を向けた瞬間、後ろにいたはずのファックスがいきなり目の前に現れる。
「な、なんだと……!?」
「すみませんね。あなた方をこのまま返すわけにはいかないんですよ。随分と派手にやっていただいたのでお返しをしなければなりません」
ファックスはマグを召喚させる。
大剣というか槍に近い感じのマグだ。
特に目立ったところのない普通の槍だ。
「呼応」
魔力が放流されるのと同時に彼の背中から天使の羽らしきものが生えてくる。
「羽が……」
「彼の異名はあの姿からなのよ。見た目だけじゃないから注意ね」
その上マグ自体も大きく変化し、ただの槍だったものが魔法ステッキのような形状に。
「くそっ! やるしかないのか」
「ああ、ここから出るにはあいつを倒さなきゃならんということだ」
「上等よ、いくら『天界の奇術師』とはいえ3人でかかれば……」
アイリスは再びムル・フラガを構える。
そしてアルベルトは自身が愛用している片手剣を。
「ヴィーレあいつはどれくらい強い?」
『分からない。でも1つ言えるのはあいつもかなりの実力者だという事だ』
「そうか。でもまぁここまで来たらやるしかなさそうだけどな」
『もちろんだ、私は主様に従うぜ』
「お、おう……」
やはりまだマグの時と人間の時のギャップに慣れない。
ちなみに個人的には人間の時の方が好みだ。
目を瞑って瞑想、精神を集中させる。
「呼応!」
この一言でヴィーレは本来の姿へと変貌する。
その輝きは使用主である俺でも眩しいくらいだ。
「おお、これがマグの覚醒ですか。興味深い……」
「あれは……本当にマグの力なのか?」
アルベルトもこれには驚きを隠せないようだ。
だが、ファックスは表情1つ変えない。
「そうですね。マグの覚醒が真実だということは驚きましたが、それ以外では特に感想はないですね」
「ほう……随分と余裕じゃねぇか」
「そうですねぇ。余裕かもしれませんね」
その時見せた彼の笑みには何か不気味な物を感じた。
一瞬だったが背筋が凍るような感覚を味わった。
「さて、話が長くなりすぎましたね。そろそろ始めましょうか」
彼はマグを構え、戦闘態勢へと移行する。
そして彼は目にも止まらぬ速さで俺とヴィーレに襲い掛かってきたのであった。
あの凶悪な生物が当たり前のように保管されている様子を見て俺は驚愕する。
「一体、どういうことなんだ?」
「おそらく、人の手が加えられた魔獣だな」
「改造種ね。この前のギガンテスと同じような」
「ということはベラードを襲ったのは……」
「ええ、恐らくね」
これを見ればこの前のギガンテスのような魔獣が現れたのも理解ができる。
だが、襲ってきた理由が分からない。ベラルーナの魔の手がベラードにも伸びているということなのだろうか。
「よし、記憶完了。これで証拠は手に入った」
「アルベルトさん、これからどうするんですか?」
「この施設の中枢部分の破壊が最終目的だ。そして今、目の前に研究所の中枢システムがある」
「じゃあこれを破壊すればいいのね」
するとここで俺が予め張っておいた探知魔術が反応する。
「待て、アイリス。誰か来る」
俺たちはすぐさま迷彩魔術を張って身を隠す。
「よくぞいらしてくださいました。プリシア様」
(プリシア……?)
「ええ、貴方もお変わりないようで」
(なっ……!?)
その容姿はミンスリーに瓜二つだった。双子だったのかと疑うくらいだ。
唯一の違いと言えばプリシアの方が多少髪が長いか、というくらいだ。
「ミンスリーにそっくりだな。本当に腹違いの姉妹なのか?」
「あの容姿は魔術によるものだな」
「そうね。あれは本当の姿ではないわ」
「そんなことができるのか」
「変幻魔術が使えるのならね。普通はスパイ職などにつくマグ使いが会得するものなんだけど」
プリシアは周りを見渡しながら歩いて回る。
「順調のようね」
「はい、おかげさまで」
「ま、あなた方に大量の資金を預けたのだからこれくらいやっていただかないと」
「ベラルーナが誇る技術でこのファックス、全力でご期待に応えさせていただきます」
「期待しているわ」
1通り見て回った後、プリシアは研究員らしき男と奥の施設の方へと姿を消していった。
「……まさかあの男が関与しているとはな……」
「あの男?」
「ファックス・レイ・バーレンシュタイン……『天界の奇術師』の異名を持つ男よ。主に錬金術に定評があるとか」
「さすが嬢ちゃんだ。よく知っているな」
「有名よ、私の両親も昔、面識があってね」
「だが、そんなにすごい人がなぜ犯罪組織に……」
「それは分からない。先の話を聞く限りでは金で雇われているという感じだったが……でもまぁとりあえず目的はあの中枢システムの破壊だ。あれさえ破壊すれば奴らにとっては大打撃だろう」
「じゃあ早速やるわね。焼きなさいムル・フラガ」
業火を纏ったアイリスのマグが唸りを上げる。
そして魔獣の保管カプセル諸共全てを焼き尽くす。
「よし、とりあえず作戦は成功だ。来客が来る前に此処を出るぞ」
研究所内の防犯サイレンが盛大に鳴り響く。
奴らが来るのも時間の問題だ。
「転移魔術を使う。俺に掴まれ!」
「ちょっとお待ちいただけますかね」
転移を妨げる1人の男の声が聞こえた。
その声主は先ほど殺戮姫を案内していたファックスという男だった。
「ちっ……見つかったか」
「あなた方でしたか。調査団から不穏な動きをする者がいるという報告を貰っていましたが……」
「ファックス・レイ・バーレンシュタイン。貴方はここで何をしているの?」
アイリスは彼にマグを突き立てる
「ん……君はどこかで会ったような気が……ああ、もしかしてリーベンバッハのとこのお嬢さんかな?」
「覚えてくださっていたなんて光栄だわ」
「貴方のご両親には色々とお世話になりましたからねぇ。それにしてもお母様にそっくりになりましたね。性格はお父様似でしょうか?」
「お父様とお母様の話はしないで!」
アイリスはいきなり大声で拒絶する。
そして我に返ったのか目線を反らす。
「ん? ああ、そうでしたね。悪いことを聞いてしまいましたね」
悪いこと? アイリスの両親に一体何があったんだ?
だが、アイリスの顔を見ると今までみたことのないくらい辛そうな顔をしていた。
(アイリス……?)
アイリスと昔から面識のある男の方は見た感じ紳士的な振る舞いが印象的で悪行に手を染める感じはしなかった。
アルベルトが男に一言問う。
「ファックス、お前は此処で何をしているのだ。『天界の奇術師』ともあろう者が」
「仕事ですよ。私はプリシア様に依頼されてここにいるのです」
「依頼だと……?」
「ええ、私の錬金術で魔獣を作ってほしいと言われましてね」
「じゃああの時のギガンテスも……」
「ギガンテス? ああ、あの失敗作ですか」
「あれが失敗作だって……?」
「ギガンテスを素材に使った奴は私の錬金術のポテンシャルに適応しなかったので廃棄する予定だったのですが、どうやらご迷惑をおかけしたようですね」
あのとてつもない戦闘能力を持った化け物が失敗作だという事実を知り、驚きを隠せないアイリスと俺。
だが、平然と語る姿を見ると嘘ではないようだ。
「だが、もうお前の成功作は俺たちが破壊させてもらった。悪いが俺たちはここでお暇させていただく。2人とも行くぞ」
「は、はい!」
俺たちが背を向けた瞬間、後ろにいたはずのファックスがいきなり目の前に現れる。
「な、なんだと……!?」
「すみませんね。あなた方をこのまま返すわけにはいかないんですよ。随分と派手にやっていただいたのでお返しをしなければなりません」
ファックスはマグを召喚させる。
大剣というか槍に近い感じのマグだ。
特に目立ったところのない普通の槍だ。
「呼応」
魔力が放流されるのと同時に彼の背中から天使の羽らしきものが生えてくる。
「羽が……」
「彼の異名はあの姿からなのよ。見た目だけじゃないから注意ね」
その上マグ自体も大きく変化し、ただの槍だったものが魔法ステッキのような形状に。
「くそっ! やるしかないのか」
「ああ、ここから出るにはあいつを倒さなきゃならんということだ」
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そしてアルベルトは自身が愛用している片手剣を。
「ヴィーレあいつはどれくらい強い?」
『分からない。でも1つ言えるのはあいつもかなりの実力者だという事だ』
「そうか。でもまぁここまで来たらやるしかなさそうだけどな」
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「お、おう……」
やはりまだマグの時と人間の時のギャップに慣れない。
ちなみに個人的には人間の時の方が好みだ。
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その輝きは使用主である俺でも眩しいくらいだ。
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「あれは……本当にマグの力なのか?」
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だが、ファックスは表情1つ変えない。
「そうですね。マグの覚醒が真実だということは驚きましたが、それ以外では特に感想はないですね」
「ほう……随分と余裕じゃねぇか」
「そうですねぇ。余裕かもしれませんね」
その時見せた彼の笑みには何か不気味な物を感じた。
一瞬だったが背筋が凍るような感覚を味わった。
「さて、話が長くなりすぎましたね。そろそろ始めましょうか」
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