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2巻

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 第一章 森の再調査


 俺、マルクは有名パーティ【黒鉄闇夜ブラリオン・ダークネス】の魔術師として働いていたのだが、ある日、リーダーであるリナのあまりの横暴さに耐えかねて、パーティを脱退。
 その後、幼馴染おさななじみであるエレノアことエリーが率いる超有力なSランクパーティ、【聖光白夜ルークス・ホーリーホワイト】に、親友のカイザーと共に加入した。
 リナが俺を連れ戻そうとしてトラブルが起こったりもしたが……なんとか解決し、俺たちはパーティの一員として認められることに。
 俺は、自分の能力が自分で思っていた以上に高いことをエリーに気付かされ、依頼調査に向かったレヴァの森では、遭遇そうぐうした強敵を倒すことができたのだった。
 そんなレヴァの森の一件から、約一ヶ月が経過した。
 俺は遂に……

「よっしゃあ、今日からまた活動ができるぞ!」

 冒険者活動復帰の日を迎えていた。
 レヴァの森での怪我が完治し、ドクターからのお許しが出たのだ。

「お、マルクよ。遂に復活か?」
「ああ……!」

 ギルドハウスのロビーに向かうと、カイザーが俺を見かけて声をかけてきた。
 こぶしを握りしめ、解放の実感をかみしめる。
 一ヶ月前の戦いでは、なぞの魔物の討伐と引き換えに右腕を失いかけたのだ。
 幸い、エリーの回復魔法とドクターの治療ちりょうによって元通りだが……エリーいわく、腕が吹っ飛んでいてもおかしくはなかったらしい。

「この一ヶ月間、俺がどれほど我慢がまんしたか」

 生活とか金銭面とかではない。むしろそっち関係は、パーティの方で補助があって、手厚くしてくれた。

「毎回留守番だったもんな。よく我慢したよ」

 そう、クエスト等は毎回留守番することになっていたのだ。
 怪我人だから仕方ないとはいえ、やはり思うところがあった。
 皆がクエストに行っている間、自分は炊事すいじや洗濯をしていたのだから。

「ある意味、修業だったぜ。心のな」

 家事は普段もやっているから別に苦ではないが、メンタルには響いた。
 自分だけ置いていかれているような虚しさみたいなものを感じたのだ。

「俺もお前がいなくてさびしかったぞ」
うそだな」
「なんで!?」
「顔にそう書いてある」

 一方でカイザーの方は色々と変化があったみたいで、前回のレヴァの森討伐依頼から異性の子に声をかけられ始めたらしい。
 鼻の下を長くしながら、そのことを語ってくれたよ。

「で、何か進展はあったのか?」
「いや、これからだ。でも俺にはクレアちゃんがいるからなぁ……」

 そう言った途端、カイザーが思い出したかのように口を開いた。

「あ、そういえばクレアちゃんとのデートの斡旋あっせんしてくれるって、約束したよな?」

 クレアさんというのは、パーティの幹部の一人である。

「……なんのことだ?」
「とぼけるんじゃねえ! 一ヶ月前の討伐依頼の時にそう言ってくれたじゃないか!」

 こいつ、覚えていたのか。
 もう一ヶ月も前のことだから、すっかり忘れていたと思っていたが……

「お前が怪我したから催促しないようにしてたけど、そのまま忘れるところだったぜ」
「できればそのまま忘れてほしかったな」

 とはいえ、約束したことを曲げるのは男がすたる。

「約束通り、斡旋はするよ。頑張ってみる」
「おぉ! 流石さすがは我が相棒! 頼もしいぜ!」

 俺の言葉に、カイザーはバシバシと背中をたたいてくる。
 痛い。

「あ、マルくん!」

 カイザーとそんな話をしていると、エリーと【聖光白夜ルークス・ホーリーホワイト】幹部の一人であるハクアがやってきた。

「今日で完治だね。おめでとう!」
「おめでとうございます」
「ありがとう、二人とも。これでようやくまた活動が再開できるよ」
「でも無理はしちゃだめだよ。まだ病み上がりなんだから」
「分かってるよ。でもリハビリはバッチリこなしてきたから、心配はいらないよ」

 完治予定日からバリバリ活動できるように、調整してきたのだ。
 身体も問題なく動くし、一番重傷だった右腕も、傷跡すらすっきり消えていた。
 もちろん、エリーの言う通り病み上がりだから無理をするつもりはないが。

「マルクさん、完治おめでとうございます」
「ありがとうございます、ステラさん」

 話していると、ハクアと同じくパーティ幹部で副団長のステラさんもロビーにやってきた。

「マルクさんがこのタイミングで完治したのは何か縁ですかね」
「縁?」
「はい。ちょうど明日、一つ依頼を頼まれているんですよ」
「依頼……? なんのです?」

 ステラさんの言葉に首を傾げると、詳細を説明される。

「レヴァの森の再調査です。シラード様からこの度招集をされまして、明日ギルド本部に赴く予定なのです」

 シラードさんというのは、以前俺たちにレヴァの調査を依頼してきた公爵こうしゃく様で、シラード財団という組織を率いている。俺たちの依頼の後、財団による再調査が行われるって聞いてたけど、また俺たちに依頼がきたってことは……

「また不穏な動きが?」
「ええ。それも今回は前回とは別のエリアで起きているらしく、被害も深刻なようなのです」

 前回のあの一件で解決はしてなかったということか。

「そのためか、今回は私たちだけでなく、他の冒険者パーティも招集しているそうで。勇者級と言われている冒険者も呼ばれているらしいです」
「勇者級!?」
「それは初耳ですよ!」

 カイザーも知らなかったようで、目を丸くしている。
 勇者級というのは、冒険者ランク最高峰であるSランク冒険者の中でも、特にひいでた冒険者を称する呼び方だ。Sランクを超えた先、SSランク冒険者なんて呼ばれていたりもする。

「ということは、今回の一件は……」
「ただの依頼じゃないのは確かですね」

 そこまでの実力者が招集されるということはつまり、そういうことだろう。
 復帰戦から、大きな依頼が来たな。

「マルくん、大丈夫? 一応明日の編制には加えているけど……」
「問題ないよ。むしろやる気満々だった」

 もう留守番なんてコリゴリだ。
 俺の身体は早く動きたくてウズウズしている。

「無理はしなくてもいいんだぞ。代わりに俺が名声を得てきてやるからよ」
「悪いが、お断りだ。ただでさえお前とは一ヶ月の差があるんだからな」

 ニヒヒと笑うカイザーを押しのける。
 この一ヶ月、カイザーは俺と違って普通に活動できていたからな。成長しているだろうし、パーティにも馴染んできているはずだ。
 実際、もう既にメンバー全員と親交を深めているらしい。俺とは違って社交的な性格だからな。
 一方で俺は、ギルドハウスには訪れていたとはいえ、まだ会話すらしてない人もいるし……そういう意味でも差がついていると言えるだろう。
 それを考えれば、ここで休んではいられない。
 そんな俺たちを見ながら、エリーが口を開く。

「それじゃあ、明日は七時に本部に集合ってことで。他のメンバーにはもう伝えてあるから」
「分かった」
「分かりました!」

 こうして、俺の記念すべき復帰戦は唐突に決まったのだった。


 次の日の早朝、俺たちは予定通り、リールのギルド本部に足を運んだ。
 前回同様、慣れないVIPラウンジに通されると、大勢の冒険者が待機していた。

「思った以上に大所帯だな。これ全部、Aランク以上の冒険者か?」
「そのようだな」

 今回の依頼にはランク制限が設けられているらしく、Aランクは必須ひっす。要するに冒険者の中でも強者が集められたわけだ。
 それだけでも、今回の依頼は何かが違うことが分かる。

「――ようこそ皆様、お集まりいただきました」

 その声で、ラウンジ内に集まっていた全冒険者の視線が一点に集まる。
 皆の視線の先には、見覚えのある貴族風の男がお立ち台に立っていた。
 途端に、周囲がざわつき始める。

「――シラード様だ!」
「――シラード様っ!」
「静粛に」

 黄色い声援を受けたシラード公爵は片手をあげて、口を開く。
 すると、ざわついていたラウンジ内は即座に静寂せいじゃくに包まれた。
 シラード公爵はラウンジを一通り眺めてから、話し始める。

「まず、皆様には早朝にもかかわらず、この度の重要任務に参加していただいたことに財団の代表として深くお礼を申し上げます。今回お声掛けしたのは、我が財団が得たとある情報の調査兼討伐に参加していただくためです……既にご存知の方もいるかと思いますが、一ヶ月前、調査によってレヴァの森の異変が明らかになりました。【聖光白夜ルークス・ホーリーホワイト】の皆様の活躍で、強大な魔物の討伐には成功したのですが、森全体の異変がおさまらないため、我々は調査を続けていました」

 シラード公爵は続ける。

「その結果、我々が事前に把握していた以上に問題は大きく、森の異変の背後には災害指定級の強大な魔物の存在があるかもしれないという情報が入ってきました。そこで皆様には、森の調査と魔物の討伐、そしてもし災害指定級の魔物の存在が確認された場合、討伐をお願いしたいのです」
「さ、災害指定級だって!?」

 隣にいたカイザーが「はぁ?」と言わんばかりの声をあげる。
 周りの冒険者たちも初耳だったのか、少しざわざわし始めた。
 災害指定級というのは、その名の通り、災害を及ぼす危険性がある魔物のこと。要は滅茶苦茶強い魔物ってことだ。

「なるほどな。これほどのメンツを集めた理由はそういうことだったのか」

 仮に災害指定級が実在して、対峙たいじすることになれば、相当なメンツをそろえておかないと無駄に死人が出るだけだ。Aランク以上の冒険者という指定があるのもうなずける。
 リハビリ一発目でとんでもないのが舞い込んできたな……


「まさかここまでの依頼だったとは……」
「ああ、なんか心配になってきたぜ……」

 粗方あらかた説明が終わり、俺たちはソファに腰を落ち着かせ、出発の時を待っていた。
 テーブルを挟んで向こう側にはエリーたちも座っている。
 そんな弱音を吐く俺たち同様に、エリーの表情にも少し戸惑いがあった。

「災害指定級は予想外だね……」
「前回目撃情報があったのは東国の山脈だったかしら? 確か異世界からやってきた冒険者に討伐されたって聞いたけど」

 ステラさんがそう言う。
 災害指定級の魔物を実際に目にした者は、限りなく少ない。というか、対峙して生きて戻った者が少ないのだ。
 その力は咆哮ほうこうだけで大地を分断し、天候などの環境ですら変化させることが可能なんだとか。かつて人間界を支配しようとしていた先代魔王の遺産とも言われていたりする。その辺は色々説があるが、本当のところは分からない。

「ま、依頼を受けた以上最後までやり遂げるのがうちのやり方だ」
「ええ。仮に災害指定級が出てきたとしても、この刀で切り刻みます」

 パーティ幹部のレックスさんとハクアはやる気満々みたいだ。
 二人が言うと説得力があるから、少し安心感があるな。

「【聖光白夜ルークス・ホーリーホワイト】の皆様、お久しぶりです」

 するとこっちに歩み寄ってくる人物が一人、依頼主のシラード公爵だ。

「シラード様、お久しぶりです」

 エリーは立ち上がりペコリと一礼する。

「すみません。前回に引き続き、また依頼してしまって」
「いえいえ。依頼があってこその冒険者ですから」
「少しよろしいですか? お話ししたいことがあります」

 シラード公爵はそう言って、俺たちを別室に案内する。
 やってきたのは本部内の会議室だった。

「どうぞ、腰をかけてください」
「すみません、失礼いたします」

 エリーが座り、続けて俺たちも座る。
 そして最後にシラード公爵が座ると、エリーが口を開いた。

「今回は少し異例の事態になっているようですね」
「ええ。私も聞いた時には耳を疑いました」

 確かに災害指定級なんて、唐突だよな。

「一応まだ確定ではないんですよね?」
「はい。あくまで可能性です」
「なぜ可能性があると?」

 ステラさんの質問にシラード公爵は理由を述べた。

「実は以前の一件から、レヴァの森には我々の調査団以外に、王都の総本部から大規模な調査団が派遣されていました。空中の魔力濃度の高濃度化や魔物の動きなどを調べていたのですが、先日我が団員の一人が妙なものを目撃したようで……」
「妙なもの?」
「ええ。鋭くとがった二本の角に、かまのようなものを持った巨人です。遠目からだったようですが、その姿は伝承にあった魔人アステリオスにそっくりだったと」
「魔人アステリオス!?」
「アステリオス? なんだそれ?」

 エリーが驚く横でカイザーがそう首を傾げると、ステラさんが説明してくれた。

「アステリオスは、かつて人界と魔界が争っていた時に魔界側が召喚したとされる、魔帝四天王の一角です。その強大な魔力で環境を変化させ、天候さえも変えることができたと言われています」
「えっ、ただのバケモノじゃないですか」

 思わずそう口にしてしまう。あくまで伝承だから真実は分からないが……
 するとエリーがシラード公爵に尋ねる。

「でもそれは、可能性のお話ですよね?」
「もちろん、確証はありません。ですが可能性がある以上、お伝えしておかないと危険ですから。それに一部の方は、名声を上げようとやる気を出してくれる可能性がありますからね……とにかく、今は情報が足りません。一応討伐も皆様への依頼に含まれていますが、情報があればこちらで討伐隊を組むことができます。なので少しでも多くの情報を持ってきてほしいのです」
「そういうことでしたら、お任せください」

 エリーがそう頷く横で、レックスさんが尋ねる。

「でも倒せたら倒しても構わぬのだろう?」
「もちろんです。むしろ願ったりかなったりですよ」
「なら倒してより多くの報酬をもらうしかないわね」
「はい。ちょうど備品用の予算の見直しをしていたところですし。ちょうどよかったです」

 エリーもハクアもノリノリだ。みんな、やる気だなぁ……
 前の魔物討伐の時も思ったが、こういう時のみんなの意識高すぎじゃない!?

「では皆様、二度目のお願いにはなりますが、此度こたびもよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、良い報告を持ち帰れるよう善処させていただきます」

 そんなわけで、やる気満々な我がパーティは打倒災害指定級を掲げ、再びレヴァの森へと足を運ぶのだった。


 ◆ ◆ ◆


 ギルド本部に冒険者たちが集まっている最中さなか、レヴァの森で暗躍あんやくする者がいた。

「そろそろここに大量のお客さんがやってくる。貴様の任務は分かっているな?」
「はい」

 背後から声をかけられ、ローブを被った人物はそう返事をする。

「わざわざ二流召喚士の貴様にあんな代物をたくしたのだ。今一度、その意味をしっかりと考えてから今回の任務をこなせ」
「承知しております。必ずやご期待に添える成果を出してみせます」
「よろしい。また様子を見に来る。健闘を期待しているぞ」

 そう言って背後に立っていた人物の気配が消えると、ローブの人物は振り返り、右手を前にかざした。そして――

「さぁ……仕事だよ」

 召喚魔法を発動させる。
 円を描くように魔法陣が発現し、巨大な影が辺りを覆い尽くした。


 ◆ ◆ ◆


 馬車に揺られること一時間、俺たち【聖光白夜ルークス・ホーリーホワイト】は他のパーティと共に、再びレヴァの森に足を踏み入れた。

「またこの森に戻ってきたか……」

 一ヶ月前の激闘の記憶が、昨日のことのようによみがえってくる。

「異変がある現場は、森の西側。確か第二調査区域だったか?」
「らしいな」

 馬車で行けるのはあくまで入り口まで。ここから先は危険を伴うため、現場まで歩きになった。

「はぁ……でもまたクレアさんがいないのは残念だな。今度こそ、バシッとカッコイイところを見せられるチャンスだと思っていたのに」
「それ、前にも同じようなこと言ってなかったか?」

 デジャヴがすごい。
 ちなみに、今回の依頼も前回と同じく、パーティメンバー全員の参加ではない。
 むしろ前よりも選抜されて、より少なくなったくらいだった。
 というのも、今回は他のパーティも参加する大規模な依頼だから、一パーティにおける参加人数が制限されていたのだ。
 だからパーティの主要メンバーを筆頭に、各部隊の部隊長が選抜して、選ばれた者だけが今回の依頼に参加している。

「全員集合!」

 と、そんな話をしていると、号令の合図がかかった。
 すぐに号令主の元へと集まると、パーティごとに点呼を取る。

「よし、全員揃っているな。これより調査任務を行う。そこで、東班の案内は我々【黄昏の使徒トワイライトアポンズ】がうけたまわることになった。我がグループに入ったものはこの俺の指示に従うように」

 そう口にするのは、大剣をかついだ大柄な男性冒険者だ。
 今回の調査は、二つのグループに分かれて行うことになっていた。
 第二調査区域を東から調査する班、西から調査する班に分け、それぞれ東班、西班となる。
 第二調査区域は広大なので、このような措置を講じることになった。
 この措置で俺たち【聖光白夜ルークス・ホーリーホワイト】は東班に振り分けられている。

「なぁエリー、あの人は……?」
「エルガさんね。商人パーティ【黄昏の使徒トワイライトアポンズ】のパーティリーダーよ。リールじゃ、最大規模を誇る商人パーティだわ」
「あの人が……」

 俺も名前くらいは聞いたことがあった。
『商業の【黄昏たそがれ】』なんて言われるくらいの有名人だ。誰もが認める物売りのスペシャリスト集団ってことだな。
 するとカイザーが軽口を叩く。

「あれがかの有名な【黄昏の使徒トワイライトアポンズ】のリーダーねぇ……物売りが得意そうには見えないけどな」
「お、おいバカっ! そんなデカい声で言ったら……!」
「おいそこ! 聞こえているぞ!」

 やっちまったぜ、カイザー。
 流石にカイザー本人も「やべっ」と手で口を塞ぐが、もう手遅れだった。

「貴様……」

 ドスドスと重い足音を立て、カイザーの元へと歩み寄って来るエルガ。

「やべぇ、やべぇよ……これ……」

 身体を震わせるカイザーが「助けて」と言いたげに見てくるが、こうなってはどうしようもない。
 覚悟を決めるんだ、カイザー。
 そう思っていると――

「はははっ! 中々いい度胸をしているな! 貴様、名は何というのだ?」
「え……カ、カイザーです」

 大笑いするエルガという、予想外の反応にきょとんとしながらも答えるカイザー。

「ほう、カイザーか。それにそのバッジは【聖光白夜ルークス・ホーリーホワイト】の……なるほど、エレノア殿のパーティメンバーだったのだな」
「うちのパーティメンバーがご無礼を致しました、エルガさん」

 エリーが横から出てきて、頭を下げ謝罪した。

「じ、自分も初対面にもかかわらず、失礼なことを言ってしまい、すみませんでしたっ!」

 カイザーも続けて声を張り、全力で頭を下げた。

「気にしなくていい。むしろこの俺相手にそこまで言える度胸に感心したくらいだ。その度胸を是非ぜひとも、今回の依頼で発揮してもらいたいものだな。ガハハハハハッ!」

 そう笑い飛ばすと、エルガは再びグループの先頭の方へと戻って行った。

「ふぅ……助かったぁ……」
「カイザーくん、くれぐれも発言には気を付けてね。たとえ思っても、心に留めておかないと!」
「すみません……ご迷惑をおかけしてしまって……」

 胸をでおろすカイザーにエリーがそっと耳打ちする。
 思う分にはいいのね。

「あぁ……生きた心地がしなかったぜ」

 まだ何も始まってないのにげっそりとしているカイザー。
 あんな巨体に迫られればそうなるのも無理はないが、こればかりは自業自得なのでしょうがない。

「おい、カイザー」
「なんだ?」
「……一発殴っておくか?」

 静かにそう尋ねてみると、カイザーは何も反論せずコクリと頷いた。

「ああ、そうだな。それが良さそうだ。殴ってくれ、相棒」
「加減は?」
「強めで頼む」
「……おう」

 殴られることに覚悟を持った表情をカイザーは見せる。
 そしてただ無言で、俺は一ヶ月ぶりにカイザーの頭を殴るのだった。


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