不遇恩恵で世界最強~貰った恩恵が【経験力】だったので型破りな経験をしてみようと思う~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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10話 約束

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 卒業式当日の朝。
 俺はいつものようにアリスと共に学園へと向かっていた。

「今日で中等部も卒業だね」

「ああ。なんかあっという間だったな」

 初等部から暮らしてきた学び舎も今日で最後。
 そう思うと色々と感慨深いものが込み上げてくる。

 嫌な思い出も良い思い出も含めて。

「ね、ねぇアリシアくん。一つ聞きたいことがあるんだけど……」

「ん、なに?」

「そ、その……中等部を卒業したらアリシアくんは――」

「よっ、アリシア、アリス!」

 アリスが何かを話そうとした瞬間、誰かに後ろからバシッと肩を叩かれる。
 振り向くと、そこにいたのはアルゴだった。

「アルゴ、おはよう」

「おはよう、アルゴくん」

 見た目も言葉遣いもすっかり変わったアルゴが輝かしい笑顔で挨拶をしてくる。

 あの一件以来、こうした場面は何回かあった。
 いつもは取り巻きの連中と一緒に登校してくるのだが、今日は一人だった。

「みんなはどうしたの?」

「寝坊だとよ。それからステボに連絡かけても一向に出やしないから、置いてきたわ」

「寝坊って全員?」

「ああ。朝から何度もかけているのに誰もでやしねぇ。長い休日が続いていたから、あいつら今日が卒業式だってこと忘れてるんじゃないか?」

 いや、それは多分何か裏があると思う。
 少なくとも寝坊ではないだろう。

 なんだかんだ言って彼ら、寝坊して遅刻してきたこと一度もないし。
 それに今までアルゴに忠実に仕えてきた人間が卒業式なんて大事な日を忘れるはずがない。

「そのうち来るよ。みんなマジメだしね」

「だといいけどな。全くあいつらは……」

 はぁ……と深い溜息をつくアルゴ。
 それから俺たちは一緒に学園まで行くことになった。

「そういや、アリシアは卒業生を代表してスピーチをするんだったか?」

「うん。学園長にやってくれないかって頼まれちゃってね。一応なに話すか決めてはきたんだけど、こういうのは初めてだから緊張するよ」

「それ分かる! わたしも前に全校生徒の前でスピーチした時、すっごく緊張したよ~」

「アリスは確か成績優秀者の代表で話したんだったよね? 緊張しているようには見えなかったけどな」

「そんなことはないよ。実はリハーサルの時に緊張で何度も噛んじゃってて……本番が始まる前も何度も原稿チェックしてたんだ」

「マジか。意外だな……」

 でも決める時はバシッと決めてくるのは流石はアリスといったところ。
 優秀な人間って決めるときにしっかりとこなしてくるから、すごいなって思う。

「はぁ……なんか不安になってきた」

「アリシアくんなら大丈夫だよ! リラックスしていけば絶対にうまくいくから!」

「そうそう。リラックスは大事だ。あ、ちなみに深呼吸するときは吸うときよりも吐く方を少し長めにやると緊張が解れていい感じになるみたいだぞ」

「そうなの? じゃあ、緊張しすぎでヤバかったら試してみるわ」

 優等生二人にアドバイスを貰っていると。

「あ、アルゴ様!」

 俺たちが行く先からいつもの取り巻きの一人がこちらに向かって走ってきた。

「遅いですよ、アルゴ様。もう俺たち待ちくたびれましたよ」

「待ちくたびれたってお前ら寝坊したんじゃ……」

「すみません、実はそれ嘘なんです。ちょっとやることがありまして……まぁそれはそうと早く来てください。みんな待ってますよ!」

「待ってるって……お、おい!」

 連行されていくアルゴ。
 予想通り、アルゴの為に何かを仕組んでいたのだろう。

 アルゴ自身はそれに気づいていないようだったけど……

「朝から騒がしいな」

「ホントだね。でもこんな日が今日で終わっちゃうかと思うと、寂しくなっちゃうね」

「……そうだな」
 
 それから暫くの間、俺たちは会話もなく、無言で歩いていた。
 
 何か話そうにも中々話せない独特な雰囲気が漂っていたからだ。
 アリスも俺と同じでこっちをチラッと見ては、すぐ逸らすを繰り返し、その沈黙は学園の下駄箱まで続いた。

「アリス、今日は先に教室に行ってて。俺は一度学園長室に行かないといけないから」

「あ、うん。分かった」

 下駄箱で上履きを履いてから、ようやく会話が戻って来る。
 今日は朝から学園長室に来るよう言われているのでそのことをアリスに伝え、その場から去ろうとする――が、その時だ。

「待って、アリシアくん!」

「ん、どうした?」

「あ、あの……あのね……」

 何か言いにくいことでもあるのだろうか。
 モジモジして、中々次の言葉が出てこなかった。
 
「何か、言いにくいことでもあるのか……?」

「そうじゃないの! ただ卒業式が終わった後、ちょっと時間を貰えないかなって思って。色々と話したいことがあるの……」

「なんだ、そんなことか。もちろんOKだよ。というかまだ時間があるから、今でも大丈夫だけど……」

「い、今はダメ! その……静かなところで二人きりで話がしたいから……」

 二人きり……か。
 卒業式の日に二人だけで、なんて言われてしまうと妙な期待が出てきてしまう。

 多分俺が思っていることとは違うことだろうけど……

「分かったよ。どこに行けばいい?」

「学園の屋上でいいかな?」

「了解。じゃあ、卒業式が終わったら屋上に集合ってことで」

「うん! 約束だよ!」
 
 アリスは満面の笑みを俺に見せると、手を振りながら、教室の方へと走って行った。
 
「いったい何を聞かれるんだろう……」

 あり得ないと分かっていても妙な期待が俺の鼓動を加速させる。
 
「ま、今は考えても仕方ないか。それはそうと、もう一度原稿を見ておかないとな……」

 胸ポケットに入ったスピーチ用の原稿用紙を取り出し、確認しながら。
 俺は一人、学園長室へと向かうのだった。
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