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9話 その後

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 アルゴとの決闘後、みんなの俺に対する評価はガラリと変わった。

 学園でも話しかけてくれる人が増え、自分のファンだという後輩もできた。
 ほんの数日前まで学園で最底辺を這いつくばっていた俺からすれば、まるで夢でも見ているかのような出来事だ。

 対して。
 アルゴは無職に負けた情けない剣聖というレッテルを張られ、今まで威張り散らしていたのが急に大人しくなった。
 俺への虐めもピタッと止まり、休み時間も目立たないように端で過ごすほどにまで落ちぶれていた。

 噂によると、両親の耳に例の決闘のことが入ったらしく、かなり強めの叱咤を受けたらしい。
 由緒ある騎士家系であるフォールディング家の名に泥を塗った、と。

 あの決闘から、アルゴはまるで別人のようになっていた。

 だが、そんなある日の放課後。

「アリシア、話があるんだが少しいいか?」

「え、うん……」

 突然アルゴから呼び出しが。
 俺はそのままアルゴの元へついていくと、修練場の裏にある倉庫へと連れてこられた。

 この倉庫には前に決闘で使った木剣などの道具が置かれており、普段は入ることのないような場所だ。

(こんなところに連れてきて一体何を話すつもりなんだ……?)

 まさか、この前の仕返しとかじゃないよな?

「入ってくれ」

「え、でも……」

「許可は取ってある。大丈夫だ、何かするわけじゃない」

「……わ、分かった」

 簡単に人を信用するのはよくないことだとは思う。
 でも彼の雰囲気からして何となくだが、感じたのだ。

 多分、仕返し目的じゃないんだと。

 中に入ると、いつもアルゴと一緒にいるメンツもいた。
 アルゴは俺が入ってからすぐに倉庫の中へ。

 俺の前に出ると、

「こんなところに呼び出してすまない、アリシア。お前にどうしても言っておきたいことがあってな。こいつらも同じ理由だ」

「それはいいけど、俺に何の用?」

 そう聞き返すと、アルゴは無言で取り巻きたちの方を見る。
 取り巻きたちもアルゴを見てコクリと頷くと、その場で膝をつき始めた。

 そして。

 ゆっくりと両手をつき、頭を深々と下げると……


「アリシア……すまなかったッッッ!」

 
 アルゴを筆頭に盛大なる土下座が敢行される。
 何とも無駄のないその土下座っぷりだ。

「え、ど、どういうこと?」

 まさかの事態に戸惑いながら、そう尋ねると。

「俺はお前のことを誤解していた。まさか、いつの間にかあれほどの実力を持つようになっていたなんて……」

 力を手に入れたのは本当に最近なんだけどね……
 もちろん、そんなことは言わないけど。

「俺はあの決闘で初めて敗北を味わった。この15年間、俺は一度も負けたことがなかったんだ」

 彼の言っていることはおそらく本当だ。
 実際、アルゴは初等部の頃から剣の才能は人一倍あった。

 天恵のおかげもあるが、何より元から身体能力がすば抜けていたのだ。

 だから模擬試合の時も圧倒しているところしか見たことはなかった。
 
 まさに無双状態だったわけだ。

「でも、お前に負けてから自分の愚かさを知った。誇りある剣士になろうと努力していたつもりが、いつしか傲慢で弱き者にデカい面を構えるだけの情けない人間になっていたんだ」

 確かにアルゴは他の人間にもデカい態度をとっていた。
 中でも俺に対する態度が他の誰よりも強かったから、それは一番よく知っている。

 自覚してくれて何よりだ。

「本当にすまなかった、アリシア! こんなことでお前に許してもらおうだなんて虫のいいことは思っていない。色々あって中々言えるタイミングがなかったけど、卒業前までには絶対に謝っておきたかったんだ」

 以前として彼らは頭を下げたまま。
 アルゴたちが本気で反省しているっていうことはよく分かった。

 でもこうしてみると、俺は今とんでもないことをしているのが分かる。

 だって、目の前にいるのは全員貴族家の人間。

 平民が貴族に頭を下げさせるなんて、普通ならとんでもないことだ。
 場合によってお縄案件にもなりかねない。

 それをアルゴは分かっているからこそ、こんな人の寄りつかない場所を選んだのだろう。

「そこでアリシア、お前に一つ頼みがある」

 改まって、アルゴは俺にそう言ってきた。

「な、なに?」

 何を頼まれるのかと恐る恐る耳を傾けると、帰ってきたのは……

「俺を殴ってくれ」

「……え?」

 まさかのお願い。
 なんとアルゴは自分の顔を突きだして自分を殴ってほしいと申し出てきたのだ。

「な、なんで……」

「お前が俺にとてつもない恨みを持っているのは分かっている。だから、せめてもの罪滅ぼしのために殴ってほしい。別に殴りたくないというのなら他の方法でもいい。お前の言うことなら何でも聞く。だから……!」

 そこにいたのは今までのアルゴとは想像もつかない哀れな姿だった。
 自分が今まで振りかざしてきた貴族というプライドなど、そこにはもうなかった。

「頼む、アリシア! 俺に罪を償わせてくれ!」

 何回も何回も。
 アルゴは俺に頭を下げてくる。

 本来ならばここで一発殴れば、済む話。
 いや、もっと手痛いことをしても問題ないだろう。

 でも、今の俺にはそんなことをする気などさらさらなかった。

 それに……

「もういいよ、アルゴ。みんなも顔をあげてくれ」

 人に延々と頭を下げさせるのはあまり良い気分じゃないので俺はそうアルゴに言う。
 アルゴはそれを聞くと、スッと頭を上げた。

「アリシア……」

「みんなの誠意は十分伝わったから。もういいよ」

「何故、何故止めるんだ? こんな俺たちを……許してくれるとでもいうのか?」

 許す……か。
 
 ぶっちゃけ今まで俺が虐められてきたことを思い返せば、快く「うん」とは絶対に言えない。
 
 心に負った傷というのは回復魔法なんかで癒すことはできない。

 でももしここで俺がデカい態度を取れば、やっていることは前のアルゴたちと同じだ。

 だから俺は彼らを許す。

 自分のプライドを捨ててまで、謝ってきたんだ。
 階級を重んじる人間にとっては、物理干渉よりもこっちの方が償いになる。
 
 それに。
 もしこれが口先だけで、俺に限らず他の人にも危害を加えるようなら、またこの前みたいに成敗してやればいいだけの話だしな。

 その時はもう容赦なくやらせてもらおう。

「ああ、許すよ。その代わり、もう二度と人を馬鹿にするようなことはするなよ。俺に限らず……な?」

「アリシア……ああ、もちろんだ! フォールディング家の名に懸けて誓うよ!」

 その後、アルゴたちからは「ありがとう」の嵐が。
 
 俺はその嵐に成す術もなく飲まれ、いつの間にか談笑タイムに入っていた。
 そこで驚いたのは話してみると、みんな良い奴だったということ。

 ほんの数日前までの俺なら絶対に予想できない光景だろう。
 
 ホント、人生どう変わるか分かったもんじゃない。

 それから。
 アルゴたちは人が変わったようにみんなと親しく接するようになった。

 特にアルゴは持ち前のカリスマ性というか、人を惹きつける魅力が元からあったから、すぐに中心人物となり、少しずつ輝きを取り戻していった。

 前まではチャラチャラしていた容姿も変わり、好青年と言った印象に変わっていった。

 もちろん虐め問題もすっかりなくなった。

 最初は全く実感が湧かなかったけどね。
 
 そうして。
 俺はそんな夢のような日々を過ごし、残り少ない学園生活は楽しんだ。

 そして……俺たちは卒業の日を迎えた。
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