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5話 迷宮へ行こう!
しおりを挟む衝撃の事実から少しして。
俺はアリスの家にお邪魔していた。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ~」
俺はアリスの家の玄関を通ると、そのまま自室の方へ案内される。
途中、アリスのご両親にも会ったので挨拶をしつつ。
「ちょっと待っててね。いまお茶とか持ってくるから」
「サンキュー」
自室で待つように言われ、俺は近くに置いてあった丸テーブルの近くに座する。
「この部屋に入るのも久しぶりだな……」
もう当分アリスの家には来ていなかった。
最後に来たのは3年前くらいか?
当時と比べると多少インテリアとかは変わったが、白を基調とした清潔な部屋は昔同様健在だった。
俺とアリスは家はさほど遠くはない。
なので学校も初等部の頃からずっと一緒に通っている。
馴れ初めは親同士が仲が良かったことから始まった。
最初は人見知りがすごくて、暗くて、付き合いにくい子だなと思っていたが、今ではその面影の片鱗もないくらい明るくなった。
そして今もこうして良好な仲は続いている。
俺にとっては、かけがえのない友人であり、大切な人だ。
「お待たせ。じゃあ、早速始めようか」
アリスがお茶とお菓子を乗せたお盆を持って帰ってきた。
アリスはお盆をテーブルの上に置くと、俺の真向かいにペタン座りする。
「なんか、こうやってアリシアくんが家にくるの久しぶりだね~」
「だな。前に来た時はまだ中等部に入る前だっけ?」
「うん。あの時は……ふふっ」
「わ、笑うなよ! あれは運が悪かっただけなんだって……」
「はいはい」
掘り返されると、すぐに蘇ってくる過去の記憶。
ぼーっとしていたら土手にハマってそのまま沼に落ちていったという、思い出すだけでも恥ずかしすぎる出来事。
ちょうど、アリスの家の近くで起きたことだったからシャワーとかを借りたわけだ。
でもアリスの家に上がったのはそれが最後。
それからはお互い色々と忙しくなって学校が登下校くらいしか会わなくなった。
「なんか懐かしいね」
「ああ。ほぼ毎日、日が暮れるまで遊んでいた頃のことを思い出すよ」
しばらく過去の懐かしさに浸りつつ。
俺たちは茶菓子をポリポリと食べながら、談笑する。
そんな時間が少しだけ続くと、
「そろそろ、例の話に移ろうか」
「そうだね。多分、このまま行っちゃったら時間忘れて話し込んじゃいそうだし」
いよいよ本題へ。
俺はアリスに自分が試そうとしていることや迷宮に入る手立てができたことを真っ先に話した。
「なるほど。事情は分かったけど……なんで迷宮なの?」
「迷宮にはモンスターがうじゃうじゃいるだろ? それを狩りまくるんだ」
「狩りまくる……?」
「そう。この【経験力】と恩恵がステータスボードに書かれていた概要通りなら、経験することで俺のステータスは無限に上がるということだ。そこに俺の天恵【根性】が加われば……」
「無限にステータスを上げられるかもしれない……そういうこと?」
「まぁ流石に無限は無理かもしれないけど、【根性】の天恵がある俺なら人の何百倍も動くことができるからな。人道を越えた極限の経験でステータスを爆上げさせることできるかもしれないってことよ」
「なるほど……」
「それと、もう一つ見てほしいものがあるんだ?」
「見てほしいモノ?」
俺は自身のステータスボードの恩恵欄をアリスに見せ、そのすぐ下に小さな文字で書かれていた部分を指さした。
「経験ポイント……?」
「うん。これは推測だけど、この経験ポイントってやつを増やすことで能力か何かが貰えるんだと思う」
「能力って……【根性】や【経験力】以外の?」
「多分」
「じゃあ、もしアリシアくんの言っていることが正しかったとしたら……」
「ああ、アリスの察する通りだ」
この【経験力】って能力はとんでもないものだってことが証明される。
通常、能力は一人一つまでしか持てないことになっている。
持てない、というか二つ以上持っている人が限りなく少ないってこと。
俺みたいな例外も世の中には少なからずいるらしいからな。
でもそういう人間でさえ能力は二つだ。
三つも四つも持っている人間は多分、世界中どこを探してもいないだろう。
ちなみに理由は役職を授かった時点で持てる能力は天恵で既に手に入れてしまっているから。
役職を授かった者は天恵で貰った適性で自身の基本ステータスを高めることができる。
だがその代わり、他の能力を得ることはできない。
例えば【剣術適性】を持っている人間が【魔術適性】を手に入れようと努力しても、不可能だということだ。
人は天恵という能力を手にし、恩恵という役職を手にした時点で人生が決まる。
まるで神々が人を操って導いているかのように、レールに敷かれた人生を歩むことになるのだ。
それが自分の望んだ人生でなくても。
だが勘違いしてほしくないのは人生の分岐点は多少なりともあるというところ。
例えば恩恵が【剣士】だからと言って冒険者に絶対にならないといけないわけじゃない。
他にも【剣士】に需要がある仕事ならそれに関連した職につくことはできる。
例えば街の憲兵とか、もっと大きく言えば国家騎士とかが挙げられる。
人生が確定すると言うのはあくまで大まかに【剣士】として、ということなのだ。
「とにかく、一度試してみないことには結果は分からない。そこでアリス、お前に頼みがあるんだ」
「回復要員として付いてきてほしい……って言いたいんでしょ?」
「お、流石はアリス! 話が早くて助かる!」
根性いう天恵を持つといっても、身体を酷使すればそれなりに反動が来るだろう。
だろう……っていうのは今まで限界を超えて身体を痛めつけたことがないからだ。
今回やることは正真正銘、初めての試みになる。
だからもし何かあった場合、粗方回復系の魔法が使えるアリスがいた方が心強いってわけだ。
「ちなみに、どこの迷宮に行く予定なの?」
「ここから北に行ったところにあるコボルトの巣窟だ。昔は小さな洞窟だったっぽいけど、今は迷宮化していて、父さんはそこがいいだろうって」
場所はこの辺りから北へ数キロほど離れた山岳地帯。
そこにコボルトのみが出現する迷宮があるらしい。
ちなみに父さんがこの迷宮を選んだ理由は単に出現するモンスターがコボルトしかいないから。
コボルトは他にモンスターと比べて比較的に戦闘能力が低い。
父さん曰く、現時点の俺の実力でも十分に倒せるとのことで、ここを選んだらしい。
アリスは「分かったよ」と頷くと、即答でOKサインを出してくれた。
「じゃ、そういうことで。早速明日からでも大丈夫そうか?」
「全然大丈夫! 明日は長くなりそうだから、お弁当作って持っていくね!」
「おう、頼む!」
こうして。
俺とアリスの打倒アルゴに向けての特訓が始まったのだった。
■ステータスファイル
名前:アリシア・アルファード
役職:無職
種族:人族
性別:男
年齢:15歳
身分:平民
総合レベル:5
天恵
○【根性】
恩恵
○【経験力】
取得能力なし
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