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三章 「刻印消し」
39.生涯をかけて
しおりを挟む機械神、それはかつてこの世界を創造した12の神の一角で別名破壊の神と呼ばれるほどの力と知恵を兼ね揃えた存在だった。
そして今目の前にいるのがその機械神が破壊神と呼ばれる所以。
眷属にして破壊の執行者、デス・ナガンだった。
♦
「さぁ、デス・ナガン! まずは準備運動だ。手始めにあの男二人を殺せ!」
――ゴォォォォォォォォォォォォォ!!
高らかに咆哮、無機質な音を奏でこちらに向かってくる。
「おいレギルス、貴様は女たちを連れて下がっていろ」
「は? お前何言って……」
「早くしろ! あの女二人を殺したくないのならな」
ボルの目はいつもよりも真剣みを帯びていた。
確かに俺まで戦うとメロディアたちが危険にさらされてしまう。
それに、俺は前衛職のボルとは違って前線で戦えるほどのずば抜けた戦闘力を持っているわけじゃない。
でもアレ相手に一人で殺るつもりなのか……?
「一人じゃ勝てない……とでも言いたげな顔だな?」
「……ああ」
別に嫌味とかで言っているわけじゃない。
純粋に、これから起こりうるだろう現実を少しばかり予想したまでだ。
何せ相手は神の眷属。いくら賢者候補だからと言って簡単に相手に出来るものじゃない。
それにあの邪悪な感覚……あれは間違いなく神の霊気。
その許容範囲を超えた魔力と霊気が身体全体にヒシヒシと伝わってくる。
だがボルは「何を弱気な」と言わんばかりに鼻で笑う。
「ふん、本気でそう思っているのか?」
「いや、あれがもしあの男の言う通りの代物なら今の俺たちじゃ力不足かもしれないってわけだ。万が一のことがあればその時は……」
「ほらほら、よそ見してダメですよ!」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
「「ぐっ……!」」
繰り出される巨大な右腕。
すぐに反応し、避けられたが地面は跡形もなく抉れる。
「レギルス、今は女二人の処置を考えろ。あの二人がいると、出せるものも出せん」
「お、お前……」
「いいから早くしろ! いくら我とはいえ、どれだけ持つかは分からん」
「わ、分かった。一応、強化魔法はかけとくぞ」
――≪全能強化(オールエンハンス)!≫
全ての能力を底上げする特殊強化魔法を発動。ボルをサポートする。
ボルは自らの持つ槍を構え、グッと身構えた。
標的(ターゲット)をじっと見つめ、精神を集中させる。
「……参る!!」
槍を平行に構え、突進。
迫りくる巨物に鋭利の一撃を食らわせる。
(ボル……持ちこたえてくれよ)
俺は俺で自分のすべきことをする。
「メロディア、クローレ大丈夫か?」
一旦、その場を離れ、メロディアたちの元へ。
「は、はい……なんとか」
「首元が少し熱いですが、大丈夫です」
二人の首元を見ると、紫色の光を帯びながら刻印が光り輝いていた。
前にメロディアに回復術の指導を行った時と似たような感じだ。
「レギルスさん、ごめんなさい。私たちのせいであんなものが……」
「いやお前たちは悪くない。気にするな」
「う、うぅ……」
「な、泣くな! 今はそれどころじゃないだろう」
あのデカブツは今もボルと交戦中。
チラッと様子を見ると少しばかり苦戦しているようだった。
(やっぱり……このままじゃ厳しいか)
「メロディア、クローレ、いいか? 今から俺の言う話をよく聞け」
俺は一つの決断する。彼女たちを守り、かつあいつを倒し、世界を救うために。
「二人とも、これを持て」
渡したのは青白く輝く蒼白の結晶石。
万が一の時にと俺が用意しておいた脱出策。別名転移結晶と呼ばれる物だ。
これを使えばたとえ時空の越えた世界に居ようとも元の世界に戻ることができる。賢者的力の行使によって特殊な術式を施したものだ。
二人が生き延びるにはこれしかない。
俺もボルも機神(あいつ)との決戦の為に魔力を残しておく必要がある。
だから下手に魔力を使うことはできない。
彼女たちにとっては不本意かもしれないが――
「これを使ってここから出るんだ。戸よ開けと詠唱すれば元の世界に戻れる。だから――」
「いいえ、それはできません」
「私も、それだけは嫌です」
……ッッ!
真剣な眼差しを向けてそう言い放つ二人。
いつもは奥手のメロディアでさえ、別人のように目の色を変えていた。
「ど、どうしてだ? このままじゃ、お前たちは死ぬぞ」
俺の問いに二人は答える。
「そんなのとっくに覚悟なんてできていますよ」
「そうです。私たちはこの刻印の真実を探りたくて国に抗い、ここまで来たんです。それに、私たちのせいで世界が滅亡するなんて……そんなの許せません!」
それに――
「「二人でやるより四人でやった方がいいでしょ?」」
「クローレ、メロディア……」
ふっ、そうだよな。そりゃあ許せないし、黙って逃げるはずもないよな。
現実は自分たちのせいであの怪物を呼び起こし、今に至るのだから。
二人の覚悟は揺るぎなかった。本当は大人しく逃げて、生き延びてほしい。
でもこの二人はまだ幼いながら勇気だけは大人顔負け。
確固たる覚悟を持った者を突き放すことなんて……
(俺にはできない……!)
今まで一緒にいて分かっていたはずなのに……
「……分かった。でも、死んでも恨むんじゃないぞ」
「大丈夫です。絶対に……勝ちますからっ……!」
「そうです。私たちは……死にません!」
拳をギュッと握り、気合いを出す二人。
もう俺には二人を止めようという考えはなかった。
(時間稼ぎのために身体を張ってくれたボルには悪いけど……)
「おい、レギルスまだか! 早くし……」
「もう、話はついたぜ」
「……!?」
俺の背後に二人の影。そこには強い意志を持った二人の少女が立っていた。
片方は杖を持ち、もう片方は細剣を構え、機神を睨みつける。
「貴様どういうことだ! あれほど……」
「すまんボル。だけどこの二人が望んだことなんだ。許してやってくれ」
「ごめんなさいボルゼベータさん。私たちなんかじゃ足手まといになってしまうかもしれませんが……」
「それでも、私たちにはあれを目覚めてさせてしまった罪があります。どうか、一緒に戦わせてください!」
懇願する二人。ボルは舌打ちをしながら顔を歪める。
だがボルは二人の表情をじっと見つめ、ふぅーっと息を吐くと、
「……勝手にしろ。だが、残るならそれ相応に働きをしてもらう。それと、死んでも後悔するなよ?」
「「は、はい!!」」
俺と同じようなセリフを吐き、ボルも二人の参戦を認める。
ボルの事だから絶対に止めると思ったが……二人の強い想いが伝わったようだった。
俺たちは今一度、気合いを入れ直す。
「……よし、じゃあひと暴れと行こうぜ。前衛は頼んだぞボル!」
「我に指図するな」
「メロディアとクローレも防御魔法の準備を頼む!」
「分かりました」
「は、はい!」
一致団結。恐らくこれが最初で最後の協力戦。
すぅーっと息を吸いこむ、ゆっくりと吐く。
「……じゃあ、行くぞ!!」
俺たちは武器を片手に持ち、機神との決戦に臨む。
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