上 下
39 / 44
三章 「刻印消し」

38.機神

しおりを挟む

「生贄……だと?」
「はい。正しくは莫大な魔力をより効率よく収集するための被験体、と言った方が分かりやすいですかね」
「被験体……お前、まさか!」

 ゲイルはフッと鼻で笑い、不吉な笑みを見せる。

「ご想像通りですよ。我々は”鬼”になったのです。人喰らいの鬼にね……」
「そ、そんな……」
「ひどい……」

 俺たちは言葉を失う。

 ゲイルの口から語られた真実は実に非道なものだった。

 若者、年寄り、女子供も関係なく、手当たり次第にフェルゼの民を誘拐し、転移装置に装着する魔力蓄積装置に流し込むための魔力を供給するべく、その者たちから魔力を吸い取った。

 魔力は人間の身体の一部を構成する大事な要素だ。
 体内から水が無くなれば脱水症状に陥って死に至ったりするのと同じように魔力は人そのものを作り上げるのに必要なものだった。

 もし、そんな魔力が体内からなくなってしまったら人の生命活動は徐々に低下し、いずれ死に至る。
 
 誰でも知るような当たり前のことだ。

 にも関わらず、あの男は自分自身の夢と野望のために人をさも道具のように使った。
 あいつはさっき「どれだけの生贄を差し出したことか」と言った。

 その言葉が意味することはただ一つしかない。
 実験ともプロジェクトとも関係のないただの一般市民を大量に連れてこさせ、そして毎日のように彼らから魔力を吸い上げた。

 そして一人が死に至れば、替えの人間を用意しての繰り返しで魔力を国中からかき集めた。

 これは決して許されることではない。人というものを辞めた人間のすることだ。

 だがゲイルは何も表情一つ変えず、話を進めてくる。

「ホント、ここまで辿りつくのに苦労しましたよ。なんて言ったって5年以上もかかったんですから。これで少しは生贄として死んでいった者たちが報われます。良かったですよ」
「報われる……だと? お前何を言っていやがる」
「だってそうではありませんか。これはいわば、人類の進化です。我々人間は、時空をも越えられる存在になったのですよ。そんな人類の発展に携わることができたのですからさぞ光栄に思っていることでしょう」

 ゲイルは自信満々で何一つ間違っていないと言わんばかりの態度を俺たちに見せつける。
 その瞬間、俺の内から溢れ出る静かな怒りが、一気にこみあげてきた。

「てめぇ……人を何だと――」
「レギルス!」
「なんだよ、ボル!」
「止めろ。そんなことをしても無駄だ」
「で、でも……!」
「落ち着け。奴に何を言おうと無駄だ。奴はもう……人ではない」

 ボルのおかげで俺は何とか踏みとどまる。
 でも俺の怒りは中々収まることはなかった。
 
 関係のない人たちを大量に殺し、メロディアたちをもその歯牙にかけようとしている。
 彼女たちが刻印のせいでどんな思いをしていたかも知らずに。

 そんな外道が、自分は正しいとふんぞり返って笑っている姿が俺はどうしても許せなかったのだ。

「ボル、やっぱりあの男はこの俺が始末する。お前はメロディアたちを守ってやれ」
「貴様、何を言っている?」
「言葉通りだ。お前は手出しするなよ」
「やめておけ」
「なにっ?」
 
 いつもは好戦的なボルが珍しく俺を引き留める。
 普段なら絶対に止めない男が……

「なぜだ? お前らしくもない」
「らしくないだと? 貴様は感じないのか?」
「は? 何をだ」
「……気配だ。この神殿の奥から嫌な気配がする……」
「は、はぁ? なんだよそれ……」

 と、こうして会話をしている最中、ゲイルはふぅーっと息を吐く。
 そして、

「と、まぁそろそろお喋りはこれくらいにしましょうか。クズクズしているとザンバードの無能共が来てしまいます」

 そう言ってゲイルは右腕を天高く掲げる。
 そしてニヤリと笑い、メロディアたちの方を見る。

「おい、お前……一体何を……」
「今に分かりますよ。そう……あなた方が知りたがっている刻印の全てがね!」

 そう大声で告げると男は、

「さぁ、今こそ目覚める時です! 世界を破滅に導きし、至高神よ!」

 ――パチンっ!

 男は右手の指を高らかに鳴らし、何かを呼び寄せようとする。
 その時だった。

「うぅぅ、ああぁぁぁ!!」
「ぐぅぅぅ、ぅぅ!」

 背後から聞こえる甲高い叫び声。
 振り向くと、メロディアとクローレが刻印のある首元を抑えながら悶え苦しみ、地に這いつくばっていた。

「おい、どうした二人とも!」
「ちっ……遂にお目覚めか」
「は? お前何を言って……」

 瞬間。神殿が大きく揺れ、最奥の壁がみるみる削れていく。
 
「何がどうなって……」
「目覚めるんですよ。伝説の災厄が」
「災厄……だと?」
「まぁ見ていなさい。これが――」

 ゲイルの説明よりも早く壁は崩れ、中から二足で歩く謎の巨物が姿を現す。
 ドスッという轟音を轟かせ、ゆっくりゆっくりと壁の向こうから歩いてくる。

「な、なんなんだあれは……」
「ちっ……」

 その大きな巨物はゲイルの丁度真横に停止。
 金属片で身体を覆ったその姿と宝石のように赤く光り輝く二つの眼。

 その姿はまるで神話に出てくる機械神を彷彿させるようなものだった。

 そして、その全貌が明らかとなった時、男はこう口にした。

「これが世界を破滅に導く伝説の古代兵器、機神デス・ナガンです!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...