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三章 「刻印消し」

36.絶望の果てに

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「ん、んん……」
「ようやく目を覚ましたか。情けない奴め」
「ぼ、ボル……?」

 意識を取り戻したばかりで状況が読み取れない。
 だが周りに見えるのは見たこともない景観。

 四つの柱があり、その中央には大きな神殿らしきものが目に入った。

「おいボル、ここは一体どこなんだ?」
「知らん。転移魔法で飛ばされ、気が付けばここにいたのだ」
「そうか。転移魔法で……」

 転移する瞬間、謎の閃光が目に入ってきたのは覚えている。
 恐らくその光を直視しすぎたせいで一時的に気を失ってしまったのだろう。
 
 ていうかそれより――

「二人は? メロディアとクローレはどうした?」
「あそこでまだ寝ている。気にするな、外傷はない」

 ボルの指さす方向には仲良く横たわる二人の姿があった。
 ボルの言う通り、とくに異状はないようだ。

「じゃ、あともう一つ気にしなければならないのはこれか」
「ああ」

 俺たちを出迎えているかのように構える四つの柱、そして神殿らしき建物の中からはとてつもない魔力量が感じ取れる。
 それが黒く不気味な雲に覆われ、邪悪な感覚が身に染みわたってくる。

「ボル、ここはもう」
「ああ、人の住む世界じゃない。それに、あの男が最後に気になることを言っていた」
「気になること?」
「転移する直前だ。そいつは最後に”最果ての地”と付け加えた。恐らくここは……」
「メロディアが言っていた最果ての神殿なのか?」
「可能性は高い。だが調べてみないことには先には進めん。それに、あいつらもどこかに潜伏しているだろうからな」

 そういうとボルはスタスタと神殿の方へと歩いていく。

「おい、どこにいく?」
「決まっている。あの神殿を調べにいくのだ」
「やめろ、一人では危険だ。それに、メロディアたちはどうするつもりなんだ?」
「あの小娘二人は貴様が見ていればいい。ここから先は人族が入れるような世界じゃないからな」

 ボルは背中に拵えた長い槍を片手に持ち、腰元に構える。
 こいつの目は本気だった。

 先に待つ運命がどんなに未知数であろうが酷であろうが一人で突っ走るような男だ。
 戦闘狂のボルからすれば当然のことなのだろう。

 でもな……

「俺も俺でプライドがあるんだ。ここで留守番なんて断じてごめんだね」
「ふん、ではあの小娘らは――」
「私たちも行きます」
「……?」

 振り返るといつの間にか二人とも目を覚ましていた。
 武器を構え、やる気に満ちているということが伝わってくる。

「ボルゼベータさん、レギルスさん、私たちも行きます。いや、行かせてください」
「そうです。元はといえば私たちのせいで招いたことなんですから」

 二人の手元を見ると少し震えているのが分かる。
 この二人も分かっているのだろう。ここがどれだけ恐ろしく危険な場所か。

 未知なる敵を前に恐怖で心が震える。それは俺たちも同じことだ。
 
 でも――

「貴様ら二人は来るな。下手をすれば死ぬぞ」
 
 ボルはついていくことを許さないようだ。
 確かに彼女ら二人にはあまりにも危険すぎる。

 ボルもボルで二人を思っているからこそそう言っているのだろう。
 俺もボルと同じ意見だ。

 でもな――

「ボル、今の二人には何を言っても無駄だ。是が非でもついてくるぞ」
「はい、その通りです。地面を這いつくばってでもついていきます」
「私もクローレと同じ意見です。この首元にある刻印が本当に世界を滅ぼすまでの力を秘めているのかを知りたい。お願いします、私たちも連れて行ってください!」

 頭を下げて懇願するクローレとメロディア。
 さすがにここまでの覚悟を見せつけられたらたとえボルでも何も言えなかった。

「……ちっ、好きにしろ」

「「は、はい! ありがとうございます!」」

 二人は頭を下げて一礼。

 ボルは舌打ちをしながらも、神殿の方へと向きどんどん奥へと進んでいく。

「お前も甘くなったもんだな」
「は? 貴様は何を言っている?」
「いやぁ別に~」

 ニヤニヤと笑う俺に苛立ちを見せるも神殿の中へと進んでいく。
 
 中はただひたすら続く一本道があるだけだった。
 周りには何もなく、ただひたすら道が続くだけ。
 
 そして外で感じた魔力はその道を歩くごとに強くなっていく。

「……この道はどこまで続いているのでしょうか?」
「さぁな。でも奥からとんでもないほどの魔力を感じる。メロディアもクローレもいつでも戦闘できる準備をしておくんだ」
「は、はい! 分かりました」

 俺も一応魔法を即発動できるように準備をしておく。

 そしてしばらく一本道を歩いていると、目の前に一つの大きな扉が目に入った。

「……あれは?」
「ゴールかもな。より一層魔力の圧が強くなっている」
 
 近づいてみるとそれは大きく鉄の扉だった。高く聳えるその扉は中へと入る前に威圧を与えてくる。

「貴様らは下がっていろ」
「お、おいボル一体何を――」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ――ドカーーーン!

「お、お前……」

 ボルは槍を構え、凄まじい速さで突進。
 鉄の扉を無理やりこじ開ける。

「す、すごいですね。さすがボルゼベータさんです……」
「はぁ……なんつう馬鹿力だよ……」

 さすが脳筋……といったところか。
 でもおかげで道は開けた。

 俺たちは警戒しながらも中へと進む。

 すると、

「おい、あれを見ろ」
「あれは……水晶玉?」

 奥に見えるのは豪勢な台座に置かれた一個の水晶玉。
 それは見たこともないような未知なる光を帯び、輝いていた。

「とんでもない魔力の正体はあれか」
「ふん、くだらん。あんな水晶玉、我が粉砕してくれる」
「でも警戒は怠るな。何が起きるか分からない」
「貴様に言われずとも分かっている。我に指図するな」

 ボルの身勝手さはこんなときでも相変わらず。
 俺たちはより一層警戒を強め、その水晶玉のある台座に少しずつ近づく。
 
「す、すごい……なんなんですかこの凄まじい魔力は」
「あまり直視するな。下手をすれば魔力の渦に囚われて気を失うぞ」
「は、はい……」

 現に俺たちでも進むことを躊躇するほどだ。
 神々の魔道具……賢界にいた時に聞いたことがある。

 それは次元の理をも支配するとんでもない物だと。
 恐らく、あれはそれに近いものだ。

「あとちょっとだ……」

 もう水晶玉は目の前にまで来ていた。
 手を伸ばせば触れる距離。

 俺とボルは手を伸ばし、水晶玉を取ろうとする

 だが――

「はいはい。そこまでですよみなさん」
「……誰だ?」
 
 するとその声と共に水晶玉が反応。
 激しい閃光を発し、俺たちを入り口まで吹き飛ばす。

「くそっ、二人とも無事か?」
「はい、なんとか」
「大丈夫です」

 二人とも無事なようでホッとする。
 そして俺たちの視線は一点へと向けられる。

「とうとう現れたな」
「ああ」

 先ほど俺たちを襲った謎の集団。
 水晶玉が放った閃光で目を奪われている間に、奴らは現れた。
 
 先頭に立ち、組織の指揮を執る白ローブの男が前へと出てくる。

「やぁやぁ、みなさん。よくぞいらっしゃいました」
「招待したのはお前だけどな」
「まぁそうですが。あなた方もいずれはここに来る予定だったのでしょう?」
「なに?」

 男は分かりきったような不吉な笑みを浮かべる。
 そして白ローブの男は続けて話す。

「まぁとりあえずは歓迎と行きましょう。ようこそ我が庭園、歪みの神殿へ」
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