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三章 「刻印消し」

31.真相

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 戦闘後、俺とボルはすぐにメロディアたちのいる部屋へと向かった。

「メロディア、クローレの容体は?」
「大丈夫です。命に別状はありません」

 その一言が聞けて安心する。
 一歩間違えていたら死んでいたかもしれない状態だったからな。

「それでレギルスさん、彼らは……」
「安心しろ。我が全て駆逐した」
「我って……手柄を独り占めかよ」
「貴様は何もしていないだろうが。後ろからコソコソと魔法を打つだけで」
「それが後衛の仕事ってやつだ。何も考えず突進する脳筋バカに言われたくないね」
「なんだと……?」

 争いはほんと些細なことから始まる。
 バル爺もすぐに言い争いを始める俺たちに手を焼いていたようで頭を悩ませることが何度かあったらしい。
 
 あ、これはメリッサさんが言っていたことね。

「……ふふふ、本当にレギルスさんたちは面白いです」

 突然俺たちを見て笑い出すメロディアの方に気を取られ、争いがピタリと止まる。
 
「そ、そうか……?」
「はい。なんだか昔を思い出します」

 ノスタルジーに浸るメロディアの顔はそういいつつもなぜか悲し気な表情を浮かべていた。
 
 見た目では微笑んでいるように見えるが、俺にはそれが本心であるとは思えなかった。
 それもなにかこう、重い過去を背負っているというか棘が刺さっているかのような違和感を感じるのだ。

「でも、本当に六星魔道団を倒すなんて信じられません。無敗の魔術師団と呼ばれた自分たちにこんな日が訪れようとは到底思わなかったでしょうね」
「確かに色々と驚かされもしたが攻撃力不足だったな。守りは固かったが」

 そんな話を一言や二言くらい交わしていき、俺はいよいよ本題の方へと話を切り出していく。

「それでメロディア」
「分かっています、お話ししましょう」

 そういうとメロディアは安眠しているクローレの顔を見ながら、そっと口を開いた。

 ♦

「……まず、私たちがザンバード王国の人間であることはバルターに聞いたかと思います」
「ああ、確かそのようなことを言っていたな。クローレがその国の第一王女とかなんとか」
「はい。そして彼女はザンバードの次期王位継承者です。私は元々彼女の身辺保護をするためにつかわされた兵士の一人でした」
「め、メロディアお前……軍兵だったのか」
「そうですよ。階級は魔術少尉で小さな師団の師団長でもありました」

 ほげー、これはたまげた。
 見た目は軍人感ゼロなのに……

(人は見かけによらないとはこのことか)

 だがここで一つ疑問が生じる。
 まずなぜこの二人が味方であったはずの彼らに襲われているのか。特にクローレがもしザンバードのお姫様だっていうのならあの対応は人道を超えた行動だ。
 
 仮にもザンバードの王位後継者。ケガを負わせてまで持ち帰るなんて普通はあり得ないことだ。

「メロディア、早速だが本題を頼む。考えても謎が深まるばかりだ」
「分かりました。少し長くはなりますが―――」

 その後、メロディアは今のザンバード王国の現状から話を始め、ありとあらゆる情報を少しずつ話し始めた。
 貴族同士の絶え間ない対立、世襲制の反対、男尊女卑。
 力こそ全ての概念が渦巻く貴族国家にとっては王位継承の時期が一番国中が荒れるという。

 その火種が女として生まれてしまったクローレに向き、今に至るという。
 
 そして話はその大本となった話題について触れ始める。
 だがその時、俺たちは驚きの真実を聞かされることとなった。

「……賢者の刻印……だと?」
「そうです。私たちにはそれぞれ似たような刻印が生まれつきありました。生まれた当初はとんでもない騒ぎだったようです」

 やはりあれは賢者の刻印だったのか。
 だがそれが……

「なぜ賢者の刻印だと分かったのだ?」
「国が主導する研究所がありとあらゆる最新技術を詰め込んで解読した結果だそうです。かつてこの地を作ったとされる万物の創造者、一般には賢者と呼ばれる者が現世に残した遺産だと、そう結論に至ったようです」

 かつて……か。書物でも読んだことはあるが、この世界では賢者という存在は御伽噺も同義、架空の人物として描かれているのがほとんどだった。
 
 実際にこの世界には賢者はいないようでその使いと呼ばれていたりするのが神官や司祭といった人物だ。
 要は賢者というのは神も同じような扱いを受け、祀られる存在だというわけだ。

「だがその賢者の刻印と今のお前たちが立たされている現状とはどう関係してくるんだ?」
「そ、それは……」

 先ほどは一変し、途端に言葉が出てこなくなる。

「別に話したくないなら―――」
「い、いえ! そんなことは……」
「何か引っかかることがあるんだな?」

 首を縦に振るとメロディアの表情は徐々に落ち込み、俯いてしまう。
 終始不安そうな顔をし、中々言葉に出せずにいた。

「話してくれメロディア。俺たちでよければ力になるつもりだ」
「ほ、本当ですか?」

 顔を上げ、掠れた声でそう話す彼女の目には不安の他に恐怖と言った感情も見受けられた。
 何かに怯えているような……そんな感じだ。

 もちろん、何かまでは俺も分からない。だけど俺たちにはこの二人を守るという義務がある。
 バル爺に頼まれた任務、そして俺たちがようやく手にした賢界帰還への手掛かりだ。

 そして彼女たちの自由を守りたいという人間らしい感情も心の片隅にはあった。
 だからこそだ。

「俺たちはお前たちが何者でも守ると決めたんだ。その任務を全うする、それだけだ」
「私たちを守る……? それはなぜ……」
「あ、いや……それはまぁその……こっちの話だ」

 そーいえばメロディアたちはこのことを知らないんだった。
 最初は治癒魔法を教えるためという目的の元で一緒に行動していたからそんなこと言えば疑問視されるのは当然だ。

 俺は慌てて話を元に戻す。

「と、とりあえずだ。これも何かの縁だしな、秘密を知った以上、最後まで付き合うってことよ」
「ですが……この話を聞いたら恐らくレギルスさんたちも私たちに対する認識が大きく変わることでしょう。私たちと一緒にいることが嫌になるはずです」

 そこまでなのか? でもこの深刻な表情から察するによほどの理由があるのだろう。
 
 だが男に二言はない。一度口にしたことは最後までやり遂げる、それが男として流儀なのだとバル爺もよく言っていた。
 だから……

「そんなことはないさ、俺たちがそんなに安っぽい男に見えるのか?」
「……」

 無言で首を振るメロディアに近づき、優しく問いかける。

「大丈夫。俺たちはお前たちがどんな運命を背負っているかを知って逃げ出すほど愚かではない。それに、メロディアだってこのまま逃げるだけじゃ嫌だろ?」
「嫌に決まっています! 私だって逃げたくはない……真っ向から運命にぶつかっていきたいです!」

 ガバッと顔を上げ、心中に収めていた思のたけをぶつける。
 メロディアのようなほんわかとしたイメージとはまた少し違った強い彼女が現れ、少し驚く。
 
「そうだ、その心意気だメロディア。お前もそういう顔ができるんだな」
「で、できますよ……からかわないでください……」
 
 顔を少し赤く染め、目をそらす。
 表情も次第にやわらかくなっていき、笑顔が段々と取り戻されていく。

 俺はメロディアに再度願った。

「メロディア、話してくれるか?」
「分かりました。もう私に迷いはありません、今私が知る全てを二人お話しします」

 暗く沈んだ面構えから、真剣さが伺える表情へと変わる。
 
 そしてメロディアは深く息を吸い、ゆっくりと吐くとその真相を事細かに語り始めた。
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