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三章 「刻印消し」
30.決着
しおりを挟む「―――ば、バカな……」
「―――つ、強すぎる」
次々と倒される冒険者たち。
そして俺たちの次なる標的はバルターを除く五人の魔術師。
彼らに焦点を当て、武器を構える。
「ほう……中々やりますね。初めはただの冒険者……くらいにしか思っていませんでしたが」
「安心しろ。次は貴様らの番だ」
「……ふむ。次は貴様らの番……ですか。我々も随分と舐められたものです」
ふぅーっと息を吐き、肩を落とす。
自分の力に自信があるのか知らないが、至って冷静かつ余裕そうな笑みを垣間見せる。
「次は我々が相手になりましょう。覚悟はよろしいですかな?」
「それはこっちのセリフだ。行くぞ!」
先制攻撃はボルからだった。
相棒である聖槍を片手に持ち、真っ向から挑んでいく。
「いきなりきましたね……皆さん、守りを固めなさい」
「「「「「≪エターナルウォール/永遠なる防壁≫」」」」」
五人の魔術師は一斉に詠唱。一つの大きな魔法壁(リフレクター)を構築し、バルターを守る。
「そんなもの、我には効かん!」
ボルはそのまま突進。魔法壁もろとも打ち砕こうとする。
「はぁぁぁっ!」
その巨体から繰り出される魂のこもった一撃が魔法壁を砕こうとする。
しかし、
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……」
(なんだ、この手ごたえのない感じは……ボルの攻撃が効いていない?)
傍から見れば凄まじい一撃、単純なバリアなら一瞬で破壊できるはずだ。
だがあのバリアは消耗していくどころかどんどんその強度が増している気がする。
「まるで魔力を吸収しているかのよう……ハッ!」
俺はすぐに悟った。
そしてそれをボルに伝える。
「おいボル、一旦そこから離れろ。その魔法壁は力任せではこじあけられない!」
「なに?」
ボルは忠告を聞くと、すぐにその場から離れる。
「どういうことだ。我の攻撃が……」
「あれは魔力吸収系の術式が込められた特殊なバリアだ。恐らくな」
それを聞くとバルターは手を叩きながら、
「お見事、その通りですよ。この≪エターナルウォール≫は防壁魔法に魔力吸収の力を持つ術式を組み込んだものです。いわゆる改良魔法ってやつですね」
やはりか。どおりでボルの攻撃が効かないわけだ。
となるとあの魔法壁はそのぶつかる力が強ければ強いほど強度は増す。
圧倒的な力を持つ者の方が不利に働く仕様ってやつか。
「レギルス」
「ああ。このパターンならそれが一番の最善策だろう」
意思疎通。俺のやろうとしていることがボルにも理解できているようだ。
「なら早くしろ。一気に決める」
「そう焦るなって」
相変わらずせっかちな所は変わらない。
だが戦闘に関してだけはボルとは波長があう。普段は互いにいがみ合う仲だが戦闘となると途端に連携が取れるようになってくるのだ。
(もしかしてバル爺が俺たちをペアにした理由って……)
あるかもしれない。
「行くぞボル、怒涛の強化魔法ラッシュだ!」
俺はありとあらゆる強化魔法をボルへと付与。ボルの能力を底上げする
「俺の策が正しければあの魔法壁は……よし、バフ完了っと。いいぞボル!」
「はぁぁぁぁぁぁぁッ!」
二度目の特攻。だがバルターは先ほど同様に再度魔法壁を構築させるよう指示を出す。
「ふっ、無駄なことを。皆さん」
「「「「「はっ!」」」」」
五人の魔術師は再び詠唱。≪エターナルウォール≫を発動させ、ボルを迎える。
「同じ手は……通じぬ!」
雄叫びとともに放たれるその一突きは魔法壁との衝突によって衝撃破を生み出す。
攻と防という対極を成す力がぶつかり合い、互いに押し返そうと凄まじい力が働いている.
「くっ……!」
「無駄ですよ。どんなに強大な力でもこの壁は破れない。我々の防衛魔法は完璧なのです」
「フン……それはどうだろうな。はぁぁぁぁぁぁぁ!」
ボルはさらに魔力を高め、体内から聖槍へと自身の魔力を吹き込んでいく。
「砕けろ。我が槍の前にひれ伏すがいい!」
ボルは魔力を一気に開放。魔法壁に渾身の一撃を叩き込む。
するとどうだろう。
今までビクともしなかった壁に少しずつ亀裂が入っていき……
―――バッリーーン!
見事に割れ、魔法壁は盛大に打ち砕かれる。
「な、なんですと!?」
驚くバルター。だがこれこそ俺が望んでいた結果そのものだった。
この手の魔法は吸収できる魔力が限られており、許容範囲内では猛威を振るうが範囲外だとその力はなさないという明確な弱点がある。
要するにそれ以上の膨大な魔力は吸収することができず、もし吸収した場合は今みたいに爆裂するってわけ。
今回の場合だと、五人分の魔力だからそれ以上の強大な力で無理矢理攻撃を加えれば壊すことができたってところだ。
「くっ……皆さん、攻撃の陣です。構えなさい!」
だがバルターが指示を出した時にはもう遅かった。
ボルの圧倒的な槍さばきで五人の魔術師は一瞬で薙ぎ払われ、気が付けば槍の矛先はバルターの方へと向いていた。
ボルはバルターの前で槍を突きつけ、威圧する。
「哀れだな。雑魚がでしゃばるとこうなるのだ」
「ば、バケモノめ……ザンバースの精鋭五人分の魔力を超越するとは。貴様らは一体何者なのだ!」
「貴様に答える義務はない。地獄でゆっくりと考えるがいい」
ボルはとどめを刺そうと槍を構える。
だがその時だ。
「……こ、このままで終わると思うなよ。貴様も道連れにしてくれる!」
(……道連れ? まさか……)
「おいボル! そいつの目を見るな、殺されるぞ!」
「なにっ!?」
「もう遅い、デスレイドマジック≪デッドアイ/死眼≫!」
闇のごとき黒い影がバルターを包む。
そしてバルターの目は赤く醜い色へと変化していき、血管が浮き出る。
「ぐああああああああああああああ!」
紅色の血が盛大に噴き出す。地獄絵図とも呼べる残酷な姿。
だがバルターの表情はどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「くそっ、間に合ったか!?」
バルターは死眼発動の盟約により絶命。
その場で血まみれになった屍がバタッと倒れ込む。
そう、両目が潰された状態で……
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